広報誌 南東北

 

膵がんの話

抗がん剤、放射線治療の進歩著しいが未だ早期発見・治療難しいがん

腹・背痛、黄疸、糖尿病悪化、体重減少…こんな症状が出たら要注意
 日本人のがんによる死因で5番目に多く、治療の難しい膵臓がん。糖尿病との関わりが強く、糖尿予備軍が2千万人ともいわれるわが国では、ぜひ知っておきたいがんの1つです。 11月18日(金)に総合南東北病院で開かれた11月医学健康講座で同病院の寺西寧院長(外科)が「膵がんの話」と題して講演した内容を要約して最近の治療や予防法などについて学びます。
 千代の富士やアップルのスティーブ・ジョブス氏など膵がんで亡くなる有名人も増え、膵がんは特に珍しい病気でなくなってきています。
 膵臓は胃の後ろにある細長い臓器で膵頭部と膵体部、膵尾部の3つに分かれています。門脈の所では腸から来る静脈が膵臓の中を通り肝臓に行く重要な血管があります。また肝臓や膵臓に行く動脈なども入り組んで走っており大切な血管に乗っかるようにある臓器です。 ここが病気になると治療が難しいのが現実です。
 胃で消化された食べ物は十二指腸に送られ、消化物に膵液や胆汁を混ぜて腸に送られ吸収されます。膵臓ではタンパクを分解する酵素などを産生して消化吸収に大事な働きをするほか、糖尿病と切っても切れない関係にあります。 消化を助ける膵液を分泌する細胞(外分泌)、インスリンを出す細胞のランゲルハンス島(内分泌)があり、ランゲルハンス島が炎症を起こしたり、膵臓が荒廃したりするとインスリンが出なくなり、糖尿病になります。膵臓はそれほど重要な臓器です。
 日本人の死因トップはがん。男子は2人に1人、女子は3人に1人ががんで亡くなっています。男子の1位は肺がん、2位が胃で大腸・肝臓と続き、膵臓がんは5番目。女子は大腸・肺・胃がんに次いで4番目です。 ステージ分類はI~IVまであり、胃や大腸がんなどは早期のステージIならほぼ治りますが、肝臓・胆道・膵臓がんなどは、例えIでも5年生存率が30~40%。 しかも膵臓がんは、臓器の周りに血管が入り組んでいるため初期から他の臓器へ転移する特徴があり、侮れない難治性がんというのが常識です。
 膵臓がんが、見つかる診断の1つは黄疸です。体や白目が黄色くなる黄疸に気づくというより「黄色い尿が出た」と来院して膵臓がんと判る例が多いです。体がだるく疲れやすい、体重が減った、食欲不振、下痢などの症状が出て受診する人もいます。 膵液や消化液が出ないため栄養吸収障害を起こして下痢するわけですが、そんな症状が出てからでは遅く、手術できるのも限られます。 腹部や背中の痛み発熱などを訴え、整形外科で膵臓がんが見つかる例もあるが、かなり進んでいることが多く、無症状で膵臓がんを見つけるのは難しいです。
 膵臓がんになりやすい危険因子は①がんの家族歴②胆石・糖尿病・膵石の既往・慢性膵炎③喫煙者④高脂肪食の人―など。急に糖尿病になった人、糖尿病のコントロールが悪くなった人たちは、実は「膵臓がん」という例は多く、ぜひ精密検査をお勧めします。 たばこは全てのがんになりやすく、膵臓がんリスクは非喫煙者の1.6倍。糖尿病の人の膵臓がんリスクは1.8倍で糖尿病の人は普通の人より発がんしやすいです。
 膵臓がん診断に重要な1つに腫瘍マーカーがあります。更に精度を上げるには造影剤を使ったCTで、早く見つかる可能性が高い。しかし検診で全国民にやるにはコストが高過ぎ現実的ではなくドッグなどで診てもらうといいです。 PETCTも大きな武器。発見率は高いものの1cm以下の膵臓がんを見つけるのは難しいです。比較的手軽な検査が超音波装置(エコー)。ただ診断に熟練が必要なので精度がやや低下します。 がんの疑いが濃厚になった時は精度が高いERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)が使われます。
 膵臓がんの治療は手術、抗がん剤、放射線治療が3本柱。膵頭部がんは膵頭や十二指腸、胆管を切り腸と繋がなければならず胃などに比べて再建が難しい。がんが膵臓内に留まりステージIで手術できればいいが、この段階の発見は非常に少ないです。
 手術や抗がん剤の他に究極的な陽子線治療を含む放射線治療がありますが、これらを組み合わせているのが現実的な治療です。進行度がI~III、IVの一部なら手術、進んでいるIVは化学療法というふうにいろんな組み合わせがあり、単純ではありません。
 膵臓がん治療は①症状が現れにくく早期発見がカギ。いかに2cm以下のがんを見つけるか②手術だと生存率が高いデータがあるが、血管が入り組み手術が難しい③抗がん剤治療が効くようになってきた④放射線治療の進歩が目覚ましい⑤いろんな治療を組み合わせる治療が現実 ⑥未だに最も難治性がん―が実情です。いかに早く見つけ、早く治療するかが課題と言えます。


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