広報誌 南東北

 

かつての“国民病の”結核

今なお脅威の現代型・都市型結核 若者や外国人の感染増加

免疫力低下の老人ホームで集団感染も 長引くかぜは要注意、早期発見治療を
 かつて日本で「亡国病」といわれるほど蔓延した結核。戦後急速に低下し「流行は終わった」「過去の病気」といわれるほどになりましたが、消滅したわけではなく近年、現代型・都市型結核と呼ばれる結核が増えています。
 結核は、肺結核の患者の咳やくしゃみなどにより、空気中に結核菌が飛び散り、その菌を吸い込むことで感染する「結核菌」が直接原因となって起こる病気です。ほとんどの場合、肺炎のようにまず咳、痰、微熱などが漫然と続く症状から始まります。 結核の90%は肺結核ですが、結核菌は脊椎カリエスや結核性胸膜炎、腎結核など肺以外にも病巣を作る場合もあります。
 肺の表面近くに病巣ができれば、炎症の結果生じた浸出液が肺を包んでいる胸膜から染み出して胸膜炎になります。 初期の炎症が進むと「化膿」に似て組織が死んで腐ったような状態になり、その後死んだ組織がドロドロに溶け気管支を通して肺の外に排出され、穴の開いた空洞状態になります。 空洞には空気や肺からの栄養もあり結核菌に絶好の〝すみか〟となってどんどん増殖します。空洞を持った結核患者が「感染源」となりやすいのはこのためです。
 このような病巣からの菌が他所に飛び火、あるいはリンパや血液に乗って全身に拡大。最後には肺の組織が破壊されて呼吸困難や他の臓器の機能が冒され命まで脅かされることになります。
 結核は、明治時代から昭和20年代まで日本での死亡率の第1位を占め、昭和25年には人口10万人当たり146.4人という高い死亡率で「国民病」と恐れられた病気です。 医療の進歩や生活水準の向上などにより同50年には死因の第10位まで落ち、「結核はもう怖くない」と考える人が多くなりました。 しかし結核患者が減ったといっても平成27年には全国で18280人(人口10万人対罹患率14.4)が新たに結核を発病、また全国で1955人が結核で亡くなっています。 世界各国と比較すると2014年(平成26年)に米国は10万人当たり2.8人、英国12人、フランス7.3人、オランダ5人、デンマーク5.9人です。人口10万人当たり10人以下を低蔓延国というが、日本は中蔓延国に位置づけされています。 結核は決して過去の病気ではなく「現代の病気」なのです。
 結核は、感染しても直ぐ発病するとは限りません。普通は免疫の働きで発病を防ぐため感染者で一生のうちに発病するのは10人に1~2人程度といわれます。 もちろん感染して直ぐ発病することもありますが、何十年もの間〝休眠状態〟で抵抗力が衰えた時に発病する例もあります。また痰の中に結核菌がなければ他人にうつる恐れも無いので結核患者だからといって必要以上に避ける必要はありません。
 現代の結核は、不特定多数の人が長時間過ごす場所での集団発生などが特徴。一般的に発病者と4~8時間、狭い空間内で近くにいると感染しやすいとされます。 特に若年層の罹患率の高さ、住所不定者や外国人の感染増加など大都市特有の課題も指摘されています。生活保護法に基づく保護施設や簡易宿泊所などで結核患者が複数発生して結核が拡大する「都市型結核」の例なども顕在化しています。 若い世代の増加は、偏った食事や無理なダイエットによる免疫力の低下、さらに定期健診を受けないなども増加の理由と考えられます。
 また超高齢化社会で独り暮らし高齢者の発症も増えています。結核を発病した患者の7割は戦前・終戦直後に感染した人。 昔結核に感染し、抵抗力の衰えや他の病気治療の投薬などで免疫力が低下し、結核菌が眠りから覚めて再び結核を発病することが多くなっているようです。これに加えて老人ホームなどでの集団発生も出ています。
 結核にかかりやすい要因として免疫力の弱い乳幼児は感染すると発病、重症化しやすい傾向。様々なストレスにさらされる思春期も要注意。結核に対する抵抗力は遺伝的なものということも分かっています。 糖尿病や胃潰瘍、胃を切除したことがある人、塵肺、腸のバイパス手術、人工透析、血友病の人、更にストレスや不規則な生活は発病に繋がりやすいといわれます。
 発病患者では、中年以前では女性がやや多く、中年以降は男性が多い。アフリカやアジア一部ではHIV感染による免疫力の低下が結核増加の原因となっています。 ヘビースモーカーや以前結核になった人、BCG接種歴がなくツベルクリン反応陽性者などは発病のリスクが高くなります。
 現代では、結核は治療して治すことが可能です。咳、発熱、寝汗、体重減少などの症状は数か月、軽症のまま経過することがあります。初期症状をかぜと思って放置したり、受診結果が見落とされ、診断までに時間がかかって、その間に発病してしまうこともあります。 診断が遅れて重症化、周囲に感染させて集団発生に繋がった例もあります。
 かぜやたばこの吸いすぎと思っても早めに医療機関を受診しましょう。早期発見で病気も治りやすく、周囲の人に移す恐れも低くなります。長引くかぜは要注意。 結核をなくすには早期発見・治療、感染を最小限に食い止めることが重要で、結核に対する認識を新たにする必要があります。


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