広報誌 SOUTHERN CROSS

 


今年の夏も猛暑が続いています。7月は熱中症予防強化月間ですが、熱中症による救急搬送はあとを絶たない状況のようです。予防することができるはずの熱中症。ではなぜ人は毎年熱中症に陥るのでしょうか。9月末までの暑い季節を元気にのりきるために、予防法のおさらいです。

「今年の夏は熱中症にならないぞ」

 一般の方を対象に、病気予防や健康増進に必要な医学的知識・技能を身につけることを目的にした無料の公開講座「医学健康講座」が毎月開催されています。  6月の講師は総合診療科の樋口健弥先生で、演題は「今年の夏は熱中症にならないぞ!!」。夏を前に、毎年繰り返される熱中症の悲劇をどうすれば予防できるのか、できるだけ分かりやすく参加者に理解してもらおうという講演でした。  お話の内容は、体温調節のメカニズムや熱中症予防のために効果のある水分補給の方法、補給にはどんな水分が適切か、など。  暑い夏の水分摂取の注意点について簡潔に語る樋口先生のアドバイスにならって、結論を先に掲げておきたいと思います。今年の夏は熱中症にならないために!

1. 日傘・帽子・涼しい衣服・日陰でこまめに休憩、は常識ですが…。
2. トイレに行くのがわずらわしいから、のどが渇いても飲み物を飲まないのはダメ。こまめに水分補給を。
3. カフェインの入っていない麦茶やそば茶、スポーツドリンクで水分補給をする。
4. スポーツドリンクは、水にナトリウム(塩)など適量のミネラルとクエン酸が入っていて、できるだけカロリーゼロのものを選ぶ。
5. 夏場は食事以外に1日あたり約1.5リットルの水分補給を。
6. 大豆や麹で作った田舎みそのみそ汁は、熱中症対策には理想的な食品。
7. カフェインを含んだ飲み物(お茶・コーヒー)やアルコールは利尿作用が高いため水分補給には適さない。

覚えておきたい体のメカニズムと予防法 - 総合南東北病院 樋口 健弥 先生 -

体温と汗のメカニズム

 このグラフ何だか分かりますか。体温です。直腸温の一日の変動を表しています。一度くらい上がったり下がったりするでしょ。朝が低くて夕方から夜のほうが高い。人間にはこうした体温の日内変動と言われる一定のリズムがあります。
 人間の体温は体の表面で、だいたいは36度から37度の間で、体のなかの深いところはいつも一定です。
 発熱があって体温を測っていると、夜は上がって、朝になるとまた下がったように見えるでしょ。夜、子どもさんが急に熱を出して、次の日の朝には下がっている。だから学校へ行かせる。ところが、学校で熱が出る。体温には日内変動があるんですね。
 体温のこと、知っているようで意外に知らないこと、多いですよ。 
 人間は、寒いときは震えたり、暑いときは犬みたいにハアハアあえいだり汗をかいたりして、体温調節をしています。
 体温は腕をあげて腋のしたに体温計をあてがって普通測りますね。ところが、脇の下はいつも汗かいていますから、腕を上げると熱が下がる。気化熱で冷たくなる。もとに戻るのにどのくらい時間がかかるか知ってますか? だいたい10分間。ところがすぐに測って、私は平熱35度。低体温症じゃないか、と言う人がいる。正確な測り方をしていない。
 体温も場所によって違っていますね。一番腋の下が低い。赤ちゃんはだいたい口のなかで測る。おしりの穴でも測るでしょ。血管に近いところで測るわけです。測るとおしりの穴が一番高くて0・5度も違う。
 体温の日内変動がうまく動かなくなったら困ります。だけど原因を自分でつくってることも多いですよ。
 「寝汗かくんです。」と、相談に来られる方がいます。咳はでますか。「でない。」血液検査しても異常なし。もしかして、電気毛布使ってないですか。「いや、電気シーツです。」そういうのは本当は自分で調整できるはずですよね。

体と水の大事な関係

 夏、暑くなると汗をかく。朝一番のおしっこ、濃いオレンジ色。汗が出て、体の水分が少なくなっているからそうなる。
 最大で夏場の汗、どのくらいかいているか、分かりますか。コップで5杯です。体温の調節を人間は汗をかいて行っている。
 脱水症状というのは、体の水分が出過ぎることです。軽い症状は喉が渇く。おしっこの量が減った。濃い。便秘が多くなる。いらいらしたり興奮気味になったり、体が乾燥したり。
 重症の場合はだるい。たちくらみ。もうろうとする。くちびる、肌がかさかさ。目が落ちくぼむ。頭痛。
 おおよそですが、人間の体は約60%が水分です。赤ちゃんは80%。高齢になると50%しかない。赤ちゃんは体が小さい分、体表面の比率が大きいからすぐに水分がなくなる。吐いたり下痢したりしてもすぐ脱水状態になります。
 夏になると海水浴に行ったりしますが、赤ちゃんは海に連れていかないほうがいい。ビーチパラソルの下に寝かせていても、いつも風が吹いているから、汗をかいてるように見えない。汗が風でどんどん乾いちゃう。汗かいてるのが分からないで脱水になっているのに気づかない。すると親が夜、病院に連れてくる。40度の熱が出た。あたりまえです。点滴すると下がる。風邪じゃない。

脱水症って何だ?

 体の水分がなくなったら血液はどろどろになります。どろどろだと脳梗塞、心筋梗塞になりやすくなるので水分は大事ですよ。  脱水症は血液の電解質、からだの水分がおかしくなって起きる。
 種類は二つあって、血液中のナトリウム(塩)などが不足する低張性脱水と呼ぶ状態と、単に水分が不足している高張性脱水と呼ぶ状態です。
 低張性は、下痢や嘔吐が続いているときなどに、塩分が足りなくなるような状態です。発熱や口の渇きよりも、だるい、頭痛、吐き気、けいれんなどの症状があります。
 マラソンで長距離を走るのに途中で水だけ補給する。どんどんナトリウムが薄まり、低張性脱水になる。亡くなった方もいますよ。
 高張性は体の水分だけが足りなくなって起こります。激しい運動をして十分な水分補給が出来ていないと起こりやすい。発熱や激しい口の渇きを訴え始め、ひどくなると意識が遠のき精神障害が起こることもあります。また、自分で水分を補給することが出来ない乳幼児や介護を必要とする高齢者の方が陥りやすいので注意して下さい。
 高張性脱水は、なってしまったら自分では治療できません。病院で点滴。場合によっては入院です。

熱中症と脱水症の関係

 熱中症とは高温による障害で、高温多湿の状況下で発生する病気の総称です。熱中症と脱水症は非常に密接な関係にあります。ただし、脱水症は暑くないときも起きますよ。
 熱中症は大きく4種類に分類されます。熱失神、熱けいれん、熱疲労、熱射病。
 熱射病は最近グランドで多発してますね。スポーツの応援に行って子どもたちが倒れて救急搬送されたりする。プールサイドとかね。体温の上昇に身体が対応しきれず、発汗機能もうまくいかなくなり、中枢機能に異常をきたした状態です。血管が詰まることによる臓器障害も併発して、死に至ることもある。
 繰り返しますが、こうした熱中症は体内の水分状態の異常が原因となっています。汗をかきやすい状況などで、体内の水分を失っていく量よりも、水分を摂取して体内に補給していく量の方が少ない場合に脱水症は起きると覚えておいて下さい。

水分補給の仕方

 では、そこまで分かっていて、どうして熱中症で倒れるか。水分補給が間違っているからですよ。
 脱水症の程度が軽度であれば、水分、といっても水ではなくてナトリウムなどの電解質を含んだ本物のスポーツドリンクなどで水分を補給し安静にしていれば、しばらくすると問題ない状態まで回復します。
 本物のスポーツドリンクなんて考えたことないでしょ。違うんですよ。水にナトリウム(塩)など適量のミネラルとクエン酸が入っている。多くは、カロリーはゼロと表示されています。こまめな水分補給というのはこういうものを体に取り入れるのが理想ですよ。
 せっかくですから、脱水症や熱中症で症状が出るまでの時間についても触れておきたいと思います。
 それは年齢や置かれている環境で全然違います。激しい運動をする若い人たちは一日でなる。しかし、お年寄りは何日かかけて。それも高熱にならない。何となく頭痛くて、気持ち悪くて、めまいするけど、まあ大丈夫と思って過ごしていたら、急に動かなくなる。何日も経過しながらだんだん脱水になって、熱中症になる。
 動けないから、水分をとることができなくて深夜に自宅で亡くなってしまう。気をつけて下さいよ。


水分と生命維持の関係

 体から出ていく水分は、汗や尿や便中の水分だけではありません。不感蒸泄と言って、私達が気づくことなく吐息や皮膚から蒸散する水分もあります。いつの間にか体から出て行く水分が結構あるのです。
 数字で説明すると、体重が50キロの人なら、気温が30度から1度上がるごとに750㎖水分が体から出て行く。発熱した場合はもっと増えますよ。38・5度の発熱があった場合は、約250㎖の水分を普段より余計に与えなければなりません。
 おしっことして体外に出る水分も忘れてはいけない。老廃物を外に捨てるためにも体重50キロの人なら最低でも600㎖の水分が尿として出ていく。
 よって、不感蒸泄と尿、汗などで体から出ていってしまう水分量を考慮すると、生命を維持するためには一日あたり1000㎖以上の水分を体に取り込まなくてはならないのです。

熱中症と脱水症の予防

 一日のうちで、体温が上がったり下がったりする。熱をつくるのは日中が多くて、夜は少ない。熱を逃がすのは、日中は少なくて夜は上昇。当然炎天下にいれば放熱量が少ないから熱中症になる可能性が高い。
 分かりやすく言いますが、夏場は、屋内で生活するとしても、食事以外に一日当たりだいたい1500㎖以上の水分を飲みましょう。
 じゃあ、水分補給の量は分かったとして、水分なら何でもいいのか。お茶はどうか。水分補給のためにはカフェインの入った普通の緑茶はダメですよ。
 日本人には麦茶がいいね。昔から飲んでる。麦茶やそば茶にはカフェインが入っていない。あるおばあちゃんの例です。麦茶に少し塩入れて、梅干しをかじる。塩はナトリウムで電解質。梅干しからクエン酸。自家製スポーツドリンクですよ。これで十分。先祖代々伝えられてきた日本人の知恵ですね。
 野菜ジュースはナトリウム、カリウム、特にカリウムが多いので、バランスがとてもいい。本物のスポーツドリンクもいい。ミネラルやクエン酸が入っていないのはダメ。糖分が多いのもダメ。飲みすぎると血糖値が上がってしまいます。
 水代わりにお茶やコーヒーを飲むのは厳禁。カフェインとアルコールには利尿作用がある。つまり、飲んだ水分よりもおしっこが多く出ちゃう。だから体が干あがってしまう。
 ビールが飲みたくて夕方まで水をがまんする人、とても危険。水分が不足して、その上ビールの利尿作用です。脱水になって、脳梗塞、心筋梗塞になったりする。ビールをどうしても飲みたいなら、飲んだ後にスポーツドリンクを飲んで寝る。
 あと、味噌汁もいいんですよ。きちんと大豆や麹で出来たいわゆる田舎味噌の味噌汁を暑い季節ほど頂きましょう。田舎味噌には、ナトリウム、カリウム、アミノ酸、酵素等がバランスよく含まれており、世界に誇れる食品です。いや、塩分が心配だと言うなら、野菜の具だくさんなら、野菜にはカリウムが豊富ですから血圧も変動しません。夏こそ飲んで下さい。
 カフェインの入っていない麦茶やそば茶、または本物のスポーツドリンクを2倍くらいに薄めてこまめに水分補給を心がけましょう。一日1500㎖。熱中症にならないため、5月から9月いっぱいは気をつけて下さい。



東日本大震災によって大きな被害を受け(全壊)、仮設病棟で診療を続けてきた南東北新生病院の新施設が完成、7月1日から新病棟での診療を開始しました。
 オープン前日には新築落成記念式典が盛大に開催され、渡邉一夫理事長は「南東北新生病院は復興の象徴。多くの県民のために活躍する拠点となる病院を目指したい」とあいさつ、松本秀一院長が決意を述べました。
 南東北新生病院は市内細沼町の(旧)保科病院が震災で全壊したため、総合南東北病院などを運営する南東北グループが支援したものです。震災直後の2011年7月からプレハブの仮設病院を総合南東北病院北側に設け、診療を再開していました。
 新病棟は、鉄筋コンクリート造り地上4階建て。4階は従来の介護に代わり回復期リハビリテーション病棟となっています。仮設病棟は現在解体工事中で、跡地は約80台収容の駐車場になる予定です。