広報誌 SOUTHERN CROSS

 

はじめに…医薬品のネット販売をめぐって

 政府は11月12日、専門家会合などの提言をもとに、市販薬(一般用医薬品)の99.8%にあたる品目のインターネット販売を解禁する一方、安全性に懸念がある28品目は販売を禁止、制限する薬事法改正案を閣議決定し、国会に提出しました。
 同改正案では、副作用のリスクが特に高い劇薬に指定される5品目のネット販売は今後も禁止し、医師が処方する医薬品から市販薬に転用されて間もない23品目(スイッチOTC薬)については、原則3年間かけて安全性を確認した上でネット販売を認め、医師の処方箋が必要な医療用医薬品については対面販売が必要としてネット販売を禁止するものとしています。
 薬のネット販売解禁は、いわゆるアベノミクスの成長戦略に位置づけられ、内閣府の規制改革会議は全面解禁を強く求めてきました。しかし、手軽に買えるかぜ薬などの市販薬にも、実は思わぬ副作用が潜んでいることが分かっており、慎重な検討が進められてきました。
 厚生労働省 薬事・食品衛生審議会 副作用・感染等被害判定部会 部会長などを務め、重症薬疹など医薬品がもたらす副作用の研究と診療に取り組んでこられた飯島正文先生に、医薬品の副作用に対する考え方や、専門家から見たネット販売の問題点、被害者救済への取り組みについて解説して頂きました。

医薬品の3つの分類とスイッチOTC薬

[一般用医薬品]
薬事法(昭和35年法律第145号)第25条第1号の規定に基づき、医薬品のうち、その効能及び効果において人体に対する作用が著しくないものであつて、薬剤師その他の医薬関係者から提供された情報に基づく需要者の選択により使用されることが目的とされているもの。

[スイッチOTC]
一般用医薬品のうち、医療用医薬品の有効成分が転用されたもの。医療用としての使用実績があり、副作用の発生状況、海外での使用状況等からみて一般用医薬品として適切であるとされたもの。

[ダイレクトOTC]
一般用医薬品のうち、医療用医薬品も含めて初めての有効成分を含有するもの。


薬の副作用と薬疹について

 薬を使用した結果、皮膚や口唇、眼などの粘膜に現れる発疹(皮疹/粘膜疹)を薬疹と定義します。この副作用は、多くは薬に対するアレルギー反応として発症するものと考えられていますが、アレルギー性ではなく、用量依存性に発症する薬疹や、薬とともに日光(紫外線)曝露が加わって初めて発症する薬疹も知られています。
 薬疹は、実に多種多様な臨床病型を呈します。その種類(病型)を列挙すれば、固定疹型、播種状紅斑丘疹型、湿疹型、多形紅斑型、 紅皮症型、粘膜皮膚眼(Stevens-Johnson/スティーブンス・ジョンソン)症候群型、中毒性表皮壊死症(TEN:Lyell症候群)型、薬剤性過敏症症候群(DIHS)型、蕁麻疹型、光線過敏症型、紫斑型、水疱型、扁平苔癬型、色素沈着型、脱毛型、などがあります。
 これらは、ただちに薬疹と判断できる場合もありますが、多くの場合、薬疹とウイルス性発疹症などとの鑑別は困難であり、薬疹である可能性を疑うことから薬疹の診察は始まるとも言えます。
 では、薬疹を生じる可能性のある薬にはどのようなものがあるのでしょうか。どんな薬にも薬疹発症の可能性がある、というのが答えです。
 薬疹の頻度が高い薬としては、抗菌薬、消炎鎮痛薬、向精神薬、抗がん薬、循環器系医薬品などが知られています。
 治療に用いられる薬だけではなく、造影剤のような検査に用いられる薬や、稀に食品添加物で生じる薬疹も知られています。
 薬疹は、薬を使用しているどのような時期にも発症する可能性があります。
 多くの場合、使用開始から1~2週間後に発症しますが、使用開始数日以内に発症する薬疹も稀ではありません。
 使用後数分以内に呼吸困難や血圧低下などの重篤な症状を伴って発症する即時型の薬疹もありますし、中には数週間~数カ月、あるいは1年以上使用して初めて発症する薬疹もあります。

医薬品医療機器総合機構の医薬品副作用被害救済制度

 意外に知られていないのですが、こうした薬疹をはじめとする医薬品の重篤な副作用に対して、日本では、適正な目的に、正しい用法用量で使われて、医薬品との因果関係が認められれば、「医薬品医療機器総合機構」(PMDA)が救済措置をしてくれます。
 こうした救済制度がある国は世界に3つ、ドイツと日本と台湾だけです。アメリカなどでは薬の副作用があったら、全部裁判です。医薬品の副作用を救済する公的な制度はありません。
 日本の制度は1980年から始まりました。この制度でこれまでに救済の対象となった人たちのおよそ3分の1は皮膚科関係です。次に肝臓、神経、免疫系です。
 副作用が皮膚科領域に現れるケースが一番多いんですね。だから皮膚科のわれわれが先頭に立ってこの問題に取り組んできた経緯があります。それが私の専門でもあり、患者さんが生きるか死ぬか、失明を救えるかどうか、というぎりぎりのところで医療に取り組んできました。
 救済の判定では、私が最終的な総括責任者を務めています。所管は、厚生労働省の薬事食品衛生審議会、昔の中薬審ですね。そこに薬事を審議する分科会があって、そのなかの医薬品の副作用感染等被害判定部会という部会を私が部会長として統括しています。
 これは二部会制で、私は現在、第一部会長と第二部会長を兼任しているのですが、第二部会長の部会長代理は新百合ヶ丘総合病院の井廻道夫先生で、肝臓専門医の立場から審議に関わって頂いております。ですから、奇しくも新百合ヶ丘総合病院のドクター二人が、日本のすべての医薬品副作用被害の審査の責任者をしているわけですね。

重症薬疹について

 重症薬疹は数も多くて、最悪死亡に至るケースもあります。
 スティーブンス・ジョンソン症候群では3%くらい、薬剤性過敏症症候群(DIHS)が14%くらい、中毒性表皮壊死症(TEN)が19%くらいの割合で死亡します。
 私たちは、重症薬疹を中心に研究や診療を続けるなかで、後遺症を避ける、軽減する、病気の早期発見、早期適切治療で重症化を防ぐ、原因を究明する、ということにずっと力を入れてきました。
 重症薬疹をどのようにマネージメントして、患者さんをどのように救援し、副作用を軽減して社会復帰に繋げるか。そうしたことを課題として医療に取り組んできたわけです。薬の副作用は、きちんとした診断をして対応しなければ、失明や死亡という重篤な事態に至ることがあるということを覚えておかなければなりません。私は皮膚科学会の理事長をやっていましたが、学会からもこうした情報を発信しようと努めてきました。
 たとえば熱がある、目が赤くなって唇がただれて、のどが痛い、粘膜症状がある。おかしな発疹がたくさんある。赤い斑点、水ぶくれができる。そうした症状があったら、まず皮膚科の専門医に相談すべきです。
 患者さんの症状は今日と明日では顕著に変化します。急激に症状が悪化し、翌朝には生きるか死ぬかという状態になっているというように、刻々と容態も変わるのです。

医薬品と副作用

こうした重症薬疹には、起こしやすい原因医薬品があります。一般用医薬品のインターネット販売が話題になっていますが、医薬品というのは薬である以上、副作用のリスクはついてまわります。昨年、NHKの「クローズアップ現代」の取材でもお話したのですが、医家向けの医薬品は、使用目的、使用量、使用法、そうした注意をしっかりと守りますよね。ところが、それでも副作用はあり得る。一般用医薬品はそのリスクが少ないから薬局で売っているのですが、リスクはゼロではない。
 特に一般用医薬品第2類の風邪薬と呼ばれる総合感冒薬、アセトアミノフェンというのは、スティーブンス・ジョンソン症候群、あるいは皮膚粘膜眼症候群の原因薬品になり得るのです。
 だから逆に言うと、きちんとお薬を使うときには目的と飲み方と、副作用の注意事項と、この三つを薬局と相談して飲んでくださいということを注意喚起したいわけです。医薬品である以上、副作用は起こり得るんです。
 ですから、医薬品というのは対面販売が大事で、インターネットは本来は理想ではない。しかし、離島の人たちや、薬局に行けない人たちのためであるというのは理解出来ますね。しかし、今議論しているのは、スイッチOTCと呼ばれるもので、もともと医療用医薬品だったものを一般用医薬品に移管するという薬ですが、それについては、一般用に一定期間馴染んだあとに審査をして、安全性が担保されてからインターネット販売を解禁すべきではないか、と私は主張してきました。

重症薬疹への対策と治療

 重症薬疹というのは、患者さんが奈落の底に落ちますから、こわいです。薬はこわいんですよ。普通は何ともないんですがね。医療現場の皆さんには、これはおかしいという症状が患者さんに現れたら、まず、薬疹である可能性を疑い、皮膚科の専門医に診せてほしいと思います。
 年間の発症件数のデータは、日本も欧米もほとんど違わないですね。統計的には人口100万人あたりで、毎年、スティーブンス・ジョンソン症候群が5人くらい、もっと死亡率の高い中毒性表皮壊死症(TEN)がおよそ1人発症します。
 怖いのは失明です。命を取り止めても、目が見えないというのは社会生活を営む上で厳しい。
 スティーブンス・ジョンソン症候群に対しては、ステロイドパルス療法、血漿交換療法が治療法として選択されます。加えて、免疫グロブリン大量静注療法の治験が終わり、来春には認可が期待されています。こうした積極的な治療をして、患者さんの救命とともに後遺症の軽減に寄与したいと考えています。

医薬品医療機器総合機構 PMDAの取り組み

医薬品によるこうした副作用で重篤な健康被害を受けた方に対しては(注)、そのときにかかった医療費のうち、保険でカバーされる部分以外についてはPMDA(医薬品医療機器総合機構)の制度で治療に要した入院費の全額がカバーされます。医療手当、障害年金、死亡に対する補償、遺族年金等の給付についても救済策を講じています。
 救済制度を成り立たせるための資金は医薬品メーカーが出しています。国はマネージメントはしますが、お金はメーカーが出して独立法人として運営しているわけです。
 現在のところ、申請された件数のうち救済されているのは86%です。逆に、14%が救済されず、不支給ですが、適応外使用、あるいは用法用量を間違っていたり、二週間に一度検査をやりなさいというのに対してしていなかったり、使い方に問題があって不支給になるケースもあります。患者さんやご家族が薬のせいだと頭から思い込んでしまっていることも少なくありません。私たちは医学・薬学的な判定をきちんとして、審査をし、その結果これこれの理由で支給できないという理由も通知のなかに明示します。
 医薬品の副作用に対する救済を仕事とするセクションやシステムがあるということは、一般の皆さんは、なかなか分からないようですね。医療関係者の認知度は82%、一般国民の認知度は23%です。この機会に、日本の国はそういういい制度を持っているということをご理解頂ければと思います。