広報誌 SOUTHERN CROSS

 

 
2013年12月、1200名が参加して開催された「東日本大震災復興市民総決起大会」(郡山市)において、医師不足解消と医療水準の向上、安心できる生活環境の充実のために、医学部の新設を求める決議が満場一致で採択され、「福島県への医科大学誘致を推進する会」が発足しました。これを受けて、総合南東北病院を中核とする南東北グループでは、2014年5月30日、福島県郡山市における新設医科大学「国際復興記念大学(仮称)」の設置に向けて、文部科学省へ申請を行いました。

医学部新設は、文部科学省が東北地方の大学1校に限り認めるもので、仙台市の東北福祉大と東北薬科大が申請を表明し先行して準備を進めていましたが、東北福祉大が申請を断念。代わって宮城県が申請を行い、南東北グループを加えた合計3者が応募するかたちになりました。今後、文科省では6月に選定作業に入り、教育や医療の有識者による審査会の議論を経て、文科相が厚生労働相、復興相と協議して1校を選定することになります。
 南東北グループの構想は、新たに学校法人を設置し、郡山市の同グループ敷地内に医科大学医学部を新設するというもので、2016(平成28)年の開設を目指し、教員数は140人程度を想定、募集定員を100人程度とし、入学者全員を奨学生としてサポートする考えです。
 大学は、世界最先端の放射線治療や地域医療のニーズに応じた臨床に重点を置き、災害に対応した医療提供体制の研究や、国外から学生を受け入れ、国際的な医師の育成も行う予定で、卒業後に東北に残ることを条件に基金を設けて奨学金を支給し、授業料無料化や生活費援助も視野に入れています。
 渡邉一夫理事長は「福島県は原発事故の被災県。低線量被ばくについての県民の不安を払拭できるよう研究を進めたい。とまらない本県の人口流出や医療従事者の減少に歯止めをかけるためには、安全・安心の環境づくりが重要。県内にもう一つ医学部ができれば、復興を一段と加速できる」として、地域と密着した医学部設置と医師育成に意欲を燃やしています。

 郡山市への医大誘致の必要性を訴えたシンポジウムが去る5月9日、郡山市のホテルハマツにて開催されました。
 これは、「福島県への医科大学誘致を推進する会」が主催したもので、郡山市への医科大医学部の新設について、各界の有志がそれぞれの意見を述べ合い、設置の意義について議論したものです。
 シンポジウムは、五十嵐忠行氏(コーディネーター)の司会進行によって、会長の滝田三良弁護士がまず、「復興には物だけでなく人もつくるべき」と挨拶し、9人のパネラーによって討論が進められました。

郡山市長品川萬里氏は、「国が東北に一校医科大を認可するとするなら、震災とともに原発事故の影響を大きく受けた福島県、なかでも郡山市以外にはない、というのが私の思いです」と述べ、世界から福島の医療への関心も高まるなか、「これは郡山の使命と言えるのではないか」と医科大新設の意義を強調しました。
 また、作家の玄侑宗久氏は、「震災を体験し、医者になりたい、看護師になりたい、という意欲が芽生えているなか、そうした若者や子どもたちの熱い思いを受け止め、育てるべき」と訴えました。
 小金林保育園長の遠藤重子氏は子育て、保育の現場から、「子供たちには心身ともに健康に育ってほしいと願っています」と述べ、原発事故後、避難される方も増えた福島には「未来を担う子供たちが元気に育つ環境が必要」として、小児科医が少ない子育て環境を改善するためにも、郡山市への医学部新設を求めました。
経済界・産業界からは、瀬谷俊雄氏(地域経済活性化支援機構社長)が「郡山は東京からも近く地勢的にも適地。総合南東北病院の陽子線治療もあり、医学的な集積点として、郡山市に医科大を新設する意義は大きい」と述べ、福井邦顕氏(日本全薬工業会長)は「現在、総合南東北病院は京都大学、筑波大学が連携して中性子線を使った最先端の医療技術の研究開発を行っている。そうした意味で、すでに大学病院としての役割を担う総合南東北病院の医科大実現を求めたい」とした上で、「これからは私たち福島が自ら立ち上がり、新たな技術と研究開発で世界へ貢献する時期」と訴えました。
 また、郡山商工会議所副会頭の内藤清吾氏は、「福島県は原発事故で人口が流出し、高齢化が10年から20年早く進んだと言われ、危機感もある。放射能の問題はさまざまな情報が入り交じり、適正な議論ができていない。研究者が集まり、ハイレベルな議論をしてほしい。医科大学は大きな役割を果たしてくれるはず」とした上で、産総研や医療機器の評価センターなどとともに、専門家はじめ多くの人が集うことで、世界への情報発信、経済の活性化や復興にも寄与することに期待を寄せました。
 さらに、医療機器センター理事長の菊地眞氏からは、「郡山市に医科大を設置する価値は大きい。その上で卒業後に福島や東北で医師として働いてもらうことが大事。今後日本は少子高齢化が深刻な問題だが、福島は日本の10年後の姿をつきつけられている」と述べるとともに、郡山を中心に先端医療技術の一大センターをつくることで、学生が残ってくれる環境の充実にもつながることを指摘しました。
脳神経疾患研究所の吉本高志最高顧問は、「日本には80の医学部・医科大学があるが、30年以上も医学部は新設されなかった。しかし、東日本大震災の復旧・復興施策の一つとして、東北に1校、医学部・医科大学を新設する特例措置が決められた」と説明した上で、総合南東北病院では「すべては患者さんのために」「世界最高の医療技術を提供する」という根本理念があり、「これを教育の基本として、情熱と使命感のある若者を育てていきたい」と医科大医学部のヴィジョンを示し、誘致への支援を求めました。


【設置の趣旨】

 この度の決意は、「好循環実現のための経済対策」(平成25年12月5日閣議決定)において、東日本大震災からの復興、今後の超高齢化と東北地方の医師不足、原子力事故からの再生といった要請を踏まえ、特例として東北地方1校に限り、医学部新設の認可を可能とする措置を受けてのものであります。
 福島をはじめ被災地における復興の現状は、まだまだ道半ばという感が否めません。当グループは、震災前より福島の地を中心として広く東北・関東各地で医療と保健・福祉の向上に尽力し、震災時の災害医療においてはその最前線で貢献し、その後の復興に向けた取組においても率先して鋭意努力を重ねてまいりましたが、一民間病院として成し得ることの限界を感じているところであります。
 こうした中、当グループでは、復興に向けた更なる地域貢献や持続的発展が可能な循環型社会の構築に向けた取組ができないかと、昨年より有識者から様々なご意見を頂きながら医学部設置の必要性、果たすべき役割、実現可能性などについて多角的に検討をしてまいりました。
 震災後の東北地方、特に福島県は、原子力事故の問題を筆頭に、それに伴う若年層を中心とした人口流出や医療従事者の減少に歯止めがかからず、それに輪をかけるように少子高齢化も進行しています。
 この現状に歯止めをかけ、人々が果敢に復興に励むには、何よりもまず人々を取り巻く環境が、〝安全〟を保証されたものとなり、世代を越えて〝安心〟できるものとならなければなりません。原子力事故の解決に世紀を越えるたゆまぬ努力が必要とされる中で、当グループは、その環境づくりの一翼を、その福島県において地域と密着した医学部の設置による医師の育成というかたちで担っていきたいという結論に至り、志を同じくする国内外の機関・団体等と連携し、医学部設置を進めることといたしました。
 福島県は、研究力と連携力で新たな医療を創出する福島県立医科大学や伝統ある多くの医療機関が活動しており、医療機器生産・受託生産額でも全国トップレベルにあります。
 とりわけ郡山市は、東北地方の交通の要衝の一つで、東北全体への大きな経済波及効果をもたらす一大メディカル産業を集積する素地をもつ土地柄でもあります。このような長期的な地域産業発展と雇用創出に加え、何よりも子供たちの未来において〝安全〟で〝安心〟できる持続可能な社会環境づくりを世界に証明・宣言するのに最も適した土地であると言えます。
 そのような復興に向けて無限の可能性を秘めた地で、新設医科大学医学部は、希望ある次世代の子供たちの社会を支える強い使命感をもった医師育成の役割を担いたいと考えております。

【医科大学設置における主な方針】

 ①県立医大をはじめとする地域医療機関等と共存共栄し、臨床に重点をおいた教育・研究を行う医学部を目指す。
 ②原子力事故災害や大規模災害に対する医療提供体制や強い地域作りを研究する。
 ③本県を世界のがん予防・治療の最先端地域に、がん撲滅に向けた国際的な臨床・研究事業を展開。
 ④国外からの教員等招聘やITの積極的活用による医療従事者の負担軽減を図り、東北地方の医師不足等を解消。
 ⑤入学者を奨学生等としてサポート。卒業生が東北に残り、医療提供に尽力できるよう支援。
 ⑥国際基準の医学教育を提供。学生の選択する診療科とマッチングできる活動を実施。長期的な医師不足の解消、地域・診療科の偏在を解消できる施策を展開。
 ⑦日本と世界各国との架け橋となる医師の育成を国際協力・経済連携の観点から実施。
 ⑧世界各国から優秀な教育・研究者や学生を集め、産学官で連携しながら、国際貢献にも寄与する医療分野の教育・研究事業や関連産業の育成を検討。
 ⑨バイオ分野における発展の礎となる開発や医薬品への応用と関連分野の研究拠点の設置を検討。
 ⑩本県の特性をいかした成長産業に繋がる産学官連携の仕組み作りと福島空港、東北新幹線、高速道路等の交通網を活用した福島から東北、そして日本全体の再興への取り組みを進める。

南東北グループ 一般財団法人 脳神経疾患研究所
理事長 渡邉 一夫