広報誌 SOUTHERN CROSS

 



 総合南東北病院では、著名なオーロラ写真家・中垣哲也さんをお招きして「オーロラ上映・ライブトーク」会を11月17日(月)に開催しました。
 このイベントは、総合南東北病院外科医長で緩和ケアチームの佐藤直医師が中垣さんのオーロラツアーに参加してアラスカを訪れたのがきっかけとなり実現したもので、今回で4回目を迎えました。
 オーロラの映像は感動的で、今年は中垣さんの来福に合わせて地元の新聞社もイベントを企画、福島県内各地で子どもたちに向けた上映とライブトークの会が開かれました。
 北海道の大自然で育った中垣さん。夕日や星空を眺めることに夢中になり、科学と音楽を愛する好奇心いっぱいの少年でした。大人になってからは診療放射線技師として大学病院に勤めていましたが、少年時代の心はそのままで、休暇を利用してはニュージーランドに出かけ、星空の撮影を続けていたそうです。
 そんな中垣さんは2001年、ニュージーランドでオーロラと運命的な出会いをします。
 星空が赤く染まり、地平線の空に活発なオーロラが動いていました。見たこともない「未知の世界」が、目の前に美しい姿を現したのです。
 すっかりオーロラに心奪われた中垣さんは、その翌年、オーロラが多発するカナダ北部に出かけます。そこでいきなり遭遇したのが「オーロラ爆発」という現象でした。これは、空の一点から光の束が一気に吹きだし、一瞬で全天にオーロラが広がるダイナミックな現象で、中垣さんは圧倒的な宇宙からのメッセージに全身全霊を貫かれるように感じ、しばらくは放心状態に陥ったそうです。
 その後、中垣さんは一大決心をして23年間勤めた放射線技師の職を辞し、オーロラの魅力を伝えるフォトグラファーとして極北の大地を舞台に活動を続けています。
中垣さんのオーロラ上映会でスクリーンいっぱいに映し出されるのは、一定の時間間隔で連写したオーロラの動きのある写真映像です。
 オーロラは穏やかに揺らぎ、まるで本物を眺めているよう。クラシックをBGMに美しいオーロラが次々と映し出され、私たちは不思議な癒やしの感覚に包み込まれていきます。
 見るものの胸を打つ映像と、おだやかな中垣氏のお話を通して、私たちはオーロラのメカニズムを知り、宇宙に浮かぶ生命の星、地球の奇跡を目の当たりにします。天空のオーロラが私たちに伝えてくれるメッセージ。私たちはそれを大切に受け止めてみたいと思います。

※本イベントは、総合南東北病院緩和ケア委員会主催の「地域がん診療連携拠点病院講演会」として開催されました。



水があって、空気があって、生命に溢れている…
紺碧の空を仰げば、大気がこの星を包み、私たち生命を守っていることを教えてくれる。
自然の美しさと優しさに包まれた時、奇跡とも言えるこの惑星の豊かな環境に、
人は謙虚に感謝の念を抱くだろう。



空のどこかにたまったエネルギーが一気に開放される瞬間は、自然現象
とは思えないダイナミックさで見る者を圧倒する。
オーロラとはローマ神話に登場する女神の名前。地上に夜明けが来るのは、夜の暗黒を追い払うオーロラ神のおかげだと信じられていた。
 我々日本人にとっても関心が高い自然現象で、あこがれの対象だが、そのような文化は世界唯一である。
 歴史を遡ると日本でオーロラが見られた記録は何度もあり、多くは北方の地平線が不気味に赤く染まり、光の筋が怪奇に立ち上り、不吉な予兆を連想させ、古文書に残されたそれらの記録は、いずれも「恐ろしい光景」と表現されている。
 オーロラの活動度に関係深い太陽活動は、およそ11年周期で活発ピークを迎え、その前後はしばしばオーロラが大化けし、普通はオーロラが見られない中緯度側まで夜空を赤く染めることもあり、昔から人々を騒がせていた。実は現在2014年も太陽活動は非常に活発であり、もしかすると日本でオーロラが観測されるかもしれない。
 私はオーロラを追い続けて10年になる。その間に黒点がほとんど見られない「太陽活動のどん底」の時期が多く存在し、オーロラは元気がないことが多かった。光の舞いが沈黙する星空の下では、太陽の気まぐれも自然の姿だと、なだめることも少なくなかった。
 華麗なオーロラを求める私にとって「太陽活動期」がとても待ち遠しかったが、その時は科学の予測を裏切り、遅れてやってきた。太陽に大きな異変が起きていると指摘する科学者も多く、今後太陽活動は低迷を続け、17世紀頃に起きていたような「小氷河期」再来の可能性が決して低くないだろうと聞く。
 地球の歴史上何度も繰り返されてきた気候変動も、異変と言うよりは、むしろ生きている地球の「自然の出来事」なのだろう。気まぐれな太陽も、それが「普通」なのだ。
生命にとってあまりに過酷な宇宙環境で、地球は自らが持つ「磁場」と「大気」の強力なバリアにより奇跡のオアシスを形成している。
 太陽から絶え間なく放出される、とてつもないエネルギーのプラズマ流が、地球磁気圏と相互作用を起こし、その磁場に誘導・加速され、南北の極地の高層に降り注ぎ、大気と衝突して発光する。
 酸素原子に反応すると緑や赤に、窒素分子には青や紫に輝くが、それはこの惑星に豊かな植物と知的文明を持つ可能性を示唆した発色。太陽の表面で起きた出来事が、地球と宇宙の狭間の大気というスクリーンに映し出される壮大な宇宙劇場は、太陽と地球との「絶妙なバランスと調和の産物」の具現であり、豊かな地球環境を象徴している。
 オーロラが私たち文明に輝きを放って語りかける意味は、「地球上すべてがバランスを持って調和・共存することで、この惑星はもっと美しく輝ける」というポジティブなメッセージ。もし人類がそう実感していたなら、今、もっと違う世界になっていたに違いない。
 文明を容易に寄せ付けようとしない「ラスト・フロンティア」と言われるアラスカ、カナダ極北。この地で太古から命をつないできた野生と私たち人類とは「地球号の一員」という意味ではまったく対等。いや、彼らは太古から自然の中で質素に命をつないでいるが、人類は欲に溺れ、争いを起こし、自らを滅ぼそうとしている。
 文明が誕生するずっと以前からの「地球の素(す)の姿」は後世に残すべき自然遺産であり、私たちが奪ってしまった大事なもの、そしてそのことの重大さをそっと語っているように思う。
3・11に日本で起きたことは、地球が誕生してから何度も繰り返してきた自然の出来事。豊かな生活に溺れた日本人は、自然に対する畏敬の念を失っていた。

「私たちは自然の一部であり、自然に生かされている」

 法律の下で放射線を厳重に扱ってきた診療放射線技師の立場から見ると、福島で起きてしまった事は絶対にあり得ない事、遭ったとしても万全の防護が機能すると信じていた。妄想だった。
 自然から最低限の恵みをいただいて、太古から変わらない生活を続けている先住民族は、自然に感謝を忘れない。彼らが語り継いでいる言葉は、豊かになりすぎた私たちに警鐘を鳴らしてくれる。

「自然は祖先から譲り受けたものでなく、子孫から借りているものである」

 空気に包まれて、水にあふれ、命を育み繋いでいけるあたたかい地球。時に厳しくも、この惑星の命を守ってくれる自然は、とてつもない美しさで私たちの心を照らしてくれる。地球に見られるオーロラの輝きは、このかけがえのない環境の象徴の光なのだ。

「地球に生まれてよかった」