人には言えない

体

の悩み
「誰にもいないのに、  自分の悪口を言う声が聞こえる…」

 半年前あたりから、ささやくような声が聞こえ始め、今でははっきりと、いろいろな悪口をいってきます。他人が知らない私の秘密も知っているようで、不思議だし、怖くなってしまいます。統合失調症の幻聴でしょうか。とても不安でたまりません。(39歳女性)



 即、統合失調症との判断はできませんが、その可能性はあります。
 
 
 
◆統合失調症の特徴を知って、
 判断の手がかりにしましょう
 こころの不調は、大きく3つに分けることができます。
 ひとつは「パーソナリティの歪み」、いわば人格障害といわれるものです。人格というとその人の価値のように思われますが、こころという観点から用いるときにはいわば性格という言葉に置き換えてもよく、それがいささか平均的思考、人間像から外れている場合です。それでも平素は違和感もなく、社会的に生きにくい面はあっても、その人なりの生き方ができます。
 次に不適応状態としての「神経症」があげられます。これは対人関係を含む、その人の環境への不適応が原因となり、不安が高まったり、落ち込みがひどくなったり、強迫的な考えや行動がひどくなったりします。
 もうひとつは、その状態の重い・軽いにかかわらず「病気」であることです。病気とは、それまでの健康、あるいは健康と思われた状態が、あるときから症状という一定の変化が現れ、それによって多少なりともそれまでと同じ社会生活が営めなくなった状態のことをいいます。
 神経症は臨床心理学の分野、精神病は精神医学の分野と考えるむきもありますが、欧米においては、心理学と精神医学との境界領域の研究は日本よりも盛んであり、従来は精神科医が扱ってきた問題に対し、心理学者が大きく踏み込んでいる例も少なくありません。
 神経症が次第に重くなって精神病に移行することはふつう起こりません。ただし、精神病の初期症状は神経症の症状と似通っていることもあります。そこで、この2つの病気には、いくつかの明らかな相違点があるので、そこを判断の手がかりにしましょう。


◆特有の症状が出現する
 急性期、慢性期の症状には違いがありますが、精神病、とくに統合失調症では、多くの場合、「妄想と幻覚」を体験します。これは日常的な現実のなかに生きているときには出現しない独特な体験です。神経症の場合には、これがほとんどありません。


◆社会的生活に支障が生じる
 精神病の場合には、周囲と調和できなくなり、最低限必要な常識を共有することができなくなります。神経症の場合には、社会性を失ったり、常識を逸脱することはなく、そうならないかと非常に不安に思っています。


◆自分がおかしいかもしれない、と
 反省的に考えることができない
 自分の病気を認識し、対応できるか、ということは、現実をどれほど認識できるか、ということです。精神病の場合には、認識がもてないために、自己反省することがありませんが、神経症の場合には、逆に自分に懐疑的で、自省心が強いようです。


◆特徴的な幻聴があっても、
 即、統合失調症とは言えない
 あなたの場合には、明確に「半年前から」という線引きができ、「耳元でささやくような声」が聞こえるという変化がおき、その変化は次第に明瞭になる「悪口」となったということは、こころの不調という観点からみれば、病気にとらえられると思われます。
 ただし、即、精神病という判断が下せるか、ということになると、幻聴という特有の症状はあっても、現在のところ友達との関係性も保たれており、自分に起こった変化がおかしいのではないか、と認識することもできています。したがって、今、精神科に受診したとしても、精神病と断定されず、経過観察になるかもしれません。
 また、神経症と精神病の初期症状が似通っていることもあり、正確な判断を下すためには、多方面からの検査が必要になります。
 統合失調症の主観症状には、妄想と幻覚があります。幻覚のあるところに妄想もあることが多いので、幻覚妄想状態と一括していうこともあります。この幻覚とは、幻聴の形式が多く、幻聴は意識がはっきりしており、知的障害がないにもかかわらず、現実にはないことが聞こえてくることです。統合失調症でもっとも多く現れる症状であり、患者の約74%が体験しているといわれています。
 幻聴については、雑音、音楽、単語、句、会話などといった形式をとり、目立たないものであったり、過大な苦しみを引き起こすものであったりします。患者に命令することもあり、その声や考えに強く影響を受け、無関心ではいられなくなり、声の命令に従いたくないと思いつつも従ってしまうことや、あなたのように悪口をいわれたり、秘密をいわれたりすることがもっとも苦しいことのようです。
 あなたの場合には、ふつうでは聞こえないような、なにかしら超越性をもった声を感じているようですが、それは統合失調症患者の幻聴にはよくあることで、決して特異なことではありません。
 あなたの幻聴が、どんなときに、どのくらい現れるのかがわからないので、なんともいえませんが、幻覚は健康な人であっても、疲れている場合や入眠時、出眠時に現れることもあります。また、耳の疾患による一側性の幻聴もあれば、アルコール中毒や麻薬中毒などによる幻聴もあります。
 いずれにしても、一回精神神経科を受診し、自分に起こった異変の原因を確かめてみましょう。
 統合失調症患者を長期にわたって追跡調査を行ったところ、症状が改善するものも含めてその経過は多様であり、病気のとらえ方は大きく変化しつつあります。
 とくに最近では治療薬や心理療法の進歩により、かなりの症状は抑えることができるようにもなっています。
 統合失調症は、あなたが考えている以上によくある病気です。統計的にみても、100人に1人くらいは同じ病気の人がいるくらいに数の多い病気ですから、悩んでいるよりも、受診して楽になったほうが得策だと思います。

バックナンバーへ