広報誌 健康倶楽部/2011年6月号

急性膵炎〜重症になると死に至る怖い病気〜

 膵臓は、食べ物を消化・分解するいろいろな酵素を産生し、分泌しています。急性膵炎は、色々な原因で活性化された膵酵素によって膵臓自体が消化されてしまい、膵臓やその他の主要な臓器に炎症や障害が引き起こされる病気です。

 短期間で軽快するものから、多臓器不全で最悪の場合死に至る重症急性膵炎まで様々なケースがあります。
年間約2万人、そのうち重症急性膵炎は約5千人と推定されています。発症頻度は男性が女性の2倍で、男性は40代、女性は60代にピークがみられます。

 急性膵炎の原因で一番多いのは「お酒の飲み過ぎ」ですが、日本では常習的にお酒を飲んでいる人の1%以下に発症するにすぎません。そのため、飲酒以外にその人の体質など遺伝的素因や栄養の摂り方など環境的な素因が複雑に関係していると考えられています。 

 アルコールによって急性膵炎が発症する仕組みはまだすべてが明らかにされていませんが、一つはアルコールそのもの、あるいは体内でアルコールが分解されるときに発生する物質が膵臓の細胞を直接障害することです。もうひとつは、アルコールで膵液の分泌が著しく刺激され、多量の膵液によって膵管の内圧が非常に高くなって膵炎が引き起こされるというものです。そのため、飲酒を長い間続けていると膵臓の炎症が起こりやすくなると考えられています。

<急性膵炎の症状の現れ方>

 急性膵炎で最も多い症状は上腹部痛です。痛みの場所はみぞおちから左上腹部で、しばしば背部にも広がります。痛みの程度は軽い鈍痛から、じっとしていられないほどの激痛まで様々です。吐き気、嘔吐、腹部膨満感、食欲不振、発熱などがあります。

 症状は、何日かかけて徐々に出てくることもありますが、突然現れることもあります。また、知らないうちに痛みがなくなってしまう場合もあります。

 腹部所見としては疼痛のみられる場所を中心として押されると痛みが強く(圧痛)また押されておなかが硬くなること(筋性防御)もあります。

 なお、痛みに 対する感受性が低い高齢者や合併症を起こしている重症の患者さんは、まれに腹痛を訴えないこともあり、これを「無痛性急性膵炎」と呼んでいます。従って腹痛の程度と膵炎の重症度とは、必ずしも相関するとは限りません。

 上腹部痛の次に多いのが吐き気と嘔吐です。何時間も吐き気でムカムカしたり、何度も激しく吐いたりすることがありますが、吐いても腹痛が良くなることはありません。

 また、膵臓は胃の裏側にあって背中側に張りつくように存在するため、上腹部痛に加えて背中の痛みを感じることもあります。

 これらの症状の多くは食事後(特に油っこい食事を摂ったあと)や大量飲酒の数時間後に突然激しい腹痛が現れます。

 腹痛や背中の痛みは、知らないうちになくなってしまうこともありますが、軽症のように見えても、時間と共に重症になることもあるので、強い上腹部痛や背中の痛みが突然起こったら早めに受診しましょう。

<急性膵炎の治療>

 一般的な急性膵炎の治療は、まず膵臓を休ませ、安静に保つことが基本となります。食事や水分を摂ると膵液の分泌を促し、膵炎を悪化させることになるので、初めのうちは、絶食・絶飲となり、水も飲めません。食事や水分が摂れない間は、電解質(ナトリウム)を含む水分や栄養分を点滴で補給します。

 腹痛などの痛みに対しては、鎮痛薬を注射または点滴で投与します。また、感染症を予防するための抗生物質を投与したり、膵臓が自己消化するのを抑えるために、タンパク質分解酵素阻害薬を投与します。このような治療によって軽症や中等症の急性膵炎の殆どは順調に回復していきます。

 一方、重症の場合には基本的な治療の他に、障害が引き起こされている臓器や合併症に対する治療が行われます。集中治療室で全身管理が必要になるケースも少なくありません。急性膵炎の症状かもと思ったら、勝手に食事や水分をとってしまうと急激に悪化する場合があるので医師の診察をうける前は絶飲・絶食しておくのが賢明です。急性膵炎であっても軽症の場合は適切な治療をすれば完全に回復して膵臓の機能にも障害を残すことはほとんどありません。しかし、原因がアルコール性、胆石、高脂血症などはっきりとわかっているときは、再発を繰り返しやすい病気のため、承知している原因を取り除いたり、生活習慣の改善をしなければ再発する危険性が高いので注意が必要です。

 

 

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