うつ病
 
 日常生活から充実感が失なわれ、たいへんつらい気持ちを抱えてしまう「うつ病」。けれども、きちんと休養をとり、根気よく薬の服用を続ければ、必らず治すことができます。

うつ病はどんな病気?
 うつ病は、長期にわたって深く落ち込んだ状態が続く病気で、「憂うつ感」が症状として現われます。とはいえ、誰でも落ち込んだり憂うつな気分になることはあるものです。しかしうつ病では、それが日常生活に支障がでるほど強く、長く続くのが特徴です。
 その他にも、次のような症状が現われますが、とくに憂うつ感と意欲の減退はうつ病の中心的な病状です。また、これらの症状は朝に強く現われ、夜になると和らいでいくことが特徴です。

精神症状
◇憂うつ感
 憂うつ感がとても強くなるために、日常生活にも支障が出るようになります。また、2週間以上の長期にわたって続きます。物事に対して悲観的になったり、自分が価値のない人間で他人に迷惑をかけていると考え、自責感や劣等感が強くなります。
◇意欲の減退
 これまで楽しんでいたことが楽しめず、集中力もなくなります。また、人と会うことを避けるようになります。
身体症状
◇睡眠障害
 朝早く目が覚めてしまったり、寝つきが悪い、何度も目が覚めるなどの睡眠障害が現われます。
◇食欲の低下
 食欲がわかず、食べても味を感じなくなります。
◇倦怠感
 疲れやすくなり、動作が乏しく、またゆっくりになります。
◇不定愁訴
 頭痛、吐き気、寒気、手足のしびれ、肩こり、下痢・便秘などの症状が、身体の病気がないにもかかわらず現われます。

うつ病のきっかけ
 うつ病の発症には、性格的な要因と環境の要因が関係しています。下図のような性格の人はうつ病にかかりやすい傾向があります。また、環境変化により強いストレスを受けると、うつ病を発症しやすくなります。
うつ病の治療
 治療の基本は休養です。患者さんは、ストレスや過労で心身の状態が限界に達しているにもかかわらず、無理をしてがんばったために、うつ病になってしまったのです。ですから、ゆっくり休養をとることがとても重要なのです。
 医療機関での治療の基本は、薬物療法になります。うつ病になると、脳の神経機能が異常をきたすようになるため、抗うつ薬を用いて、脳内の神経伝達物質の量を保つようにします。そのほか、抗不安薬や睡眠薬が用いられることもあります。
 抗うつ薬の服用は長期にわたって続ける必要があります。症状がよくなったからといって自己判断で薬を中断すると、病気が悪化してしまいますので、必らず医師の指示を守るようにしましょう。
 そのほか、精神療法が併用され、認知行動療法が有用なことが、実証されています。
うつ病の治療
 周囲の人は、まずうつ病について正しい知識を得ることが大切です。うつ病の患者さんは、「身体の疾患がないのに何もしないでいるのは、怠けや気のもちようが悪いからだ」といった、誤解を受けることがあります。また、患者さん自身が何もできない自分を責めてしまうこともあります。しかし、憂うつ感や倦怠感、意欲の減退はうつ病の「症状」です。その状態は病気のためだということを理解してください。
 患者さんに対して、周囲の人はいつも通りに接するようにします。過度な干渉はよくありませんが、例えば家事を助けるなど、援助できることはしてみましょう。また、患者さんの話にゆっくり耳を傾けることも大切です。
 うつ病にかかっている人に対して、励ましは厳禁です。患者さんはがんばりたくてもがんばれない状態で苦しんでおり、焦りを感じているのです。励ましはかえって患者さんを追いつめることになります。むしろ、ゆっくりと休養をとれるようにサポートすることが大切です。
 また、うつ病の患者さんはしばしば自殺を考えることがあるため、周囲の人は注意しなければなりません。兆候としては、睡眠障害が強くなる、口数が極端に減る、自殺をほのめかすなどがみられます。また、重症期よりも、回復期に自殺の危険性が高くなります。何らかのサインがみられたときに最も大切なことは、話題をそらさず、患者さんの話にじっくり耳を傾けることです。そして医師に相談するなどして、解決方法を考えていきましょう。

 治療は長期にわたって続く場合がほとんどです。病状はよくなったり悪くなったりを繰り返しますが、うつ病は必らず治る病気です。焦らず、ゆっくりと治療に取り組んでいきましょう。

お年寄りのうつ病
 うつ病は、若い人から中高年者、お年寄りまで、誰もがかかりうる病気です。そのなかでも、お年寄りのうつ病は気づかれにくい傾向があり、注意が必要です。
 「元気がない」「意欲がわかない」「物忘れが多い」といった症状は認知症と共通しているため間違われやすいのです。また、本人や周囲の人も、「年のせい」と考えてしまうこともあります。
 お年寄りは、親しい人との死別や病気の悩みなど、うつ病のきっかけとなるような出来事の体験が増えてくるものです。周囲の人はよく気をつけて、おかしいと思ったら医療機関に相談してみましょう。

−すぐに役立つ暮らしの健康情報−こんにちわ 2006年6月号:メディカル・ライフ教育出版 より転載
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