定期検診が重要  乳がん

 乳がんは、日本女性のがんのなかで罹患率が最も高く、毎年3万5千人以上の人が発症しています。乳がんの発症者数は30代後半から増え始め、40代後半にピークを迎えますが、20代でも発症します。ですから、年齢に関係なく、乳がんを知り、予防と早期発見に努めることが大切です。
乳がんはどんな病気?
 乳房には、母乳を作る小葉という部分と、母乳を乳頭に運ぶ乳管から成る乳腺組織が張り巡らされています。この乳腺組織に発生した悪性腫瘍が乳がんです。
 乳腺組織に発生したがん細胞は、女性ホルモンの影響を受けながら増殖し、広がり、リンパ管や血管を介して他の部分にも転移していきます。乳がんが直径1cmほどの大きさになるには、およそ5〜8年かかります。表にあるように、その進行の度合いは5段階に分けられ、しこりの大きさが2cm以下で他への転移がない0期から1期のものを早期乳がんとしています。この段階で発見し、適切な治療を行えば、ほとんどは治すことができるのです。
 
乳がんの進行度〈病期分類〉 (表)
0期 がんが乳腺内にとどまっているもの。非浸潤がん
1期 2cm以下のしこりで、リンパ節への転移がない
2期 2cm以上5cm以下のしこり、または脇の下にあるリンパ節への転移がある
3期 脇の下にあるリンパ節への転移が進んでいる、しこりが5cm以上、しこりが皮膚や胸壁に及んでいる、鎖骨の上のリンパ節に転移があるなど
4期 ほかの臓器に転移している
乳房断面図 (図1)
乳がんの症状は?
 「しこり」、「皮膚の異常」、「分泌物」、「脇の下の腫れ」が主な症状です。
 「しこり」はもっとも大切な症状ですが、はっきりわからなくても「なんとなく片方の乳房がこれまでと違う」と感じたら、医師に相談しましょう。また、内側にがんができることで皮膚が引っ張られて、乳房にえくぼのようなくぼみができたり、乳頭のただれや皮膚のごわつきが現われることもあります。さらに乳頭から血液が混じったような茶褐色の分泌液がでたら要注意です。脇の下のリンパ節にがんが転移すると、脇の下に違和感を覚えたり腫れが生じたりします。
 
乳がんの症状(図2)
検診で乳がんを早期発見
 乳がんの早期発見には、検診が最も重要です。検診には、自分で症状をチェックする「自己検診」と医師の診察を受けて行う「定期検診」があります。
 「自己検診」は図3のような要領で、自分で乳房をよく見て、触って、変化がないかを観察します。乳がんは20代で発症する人もいるので、普段の乳房の状態を知っておく意味も含めて、20代から自己検診を行うことをお勧めします。毎月1回、月経終了後の5〜7日くらいの間に、閉経後の人であれば覚えやすい日を自己検診日として習慣にしましょう。
 しかし自己検診をしていても、乳がんを100%発見できるとは限りません。より早期発見を可能にするためには、医師による定期検診が必要です。これは、医師による視診(目で見る)と触診(手で触れる)、そして画像診断によって行われます。
 画像診断には、マンモグラフィーという乳房のエックス線検査と、超音波検査があります。マンモグラフィーは乳房を上下、そして左右から撮影板で挟んで撮影をします。これによって、視触診ではわからない小さな早期がんも発見できます。しかし、発達した乳腺組織が白く映り、同じように白く映るがんを見逃すことがあります。超音波ではそういった乳腺組織の発達に画像が左右されることがありません。両方の長所を活かし、より確実な結果を得るために、マンモグラフィーと超音波検査の両方を受けることをお勧めします。そして、乳がん発症が増加する30歳以上の人は、医師による診察・マンモグラフィー・超音波検査をあわせた定期検診を2年に1回は受けておきましょう。
 
自己検診のやり方 (図3)
〈自分で行う視診〉 
鏡の前に立ち、乳房や乳頭の形、
色、位置、皮膚の異常などを確認。
腕を上げた状態でも観察する。
〈自分で行う触診〉 
外側から内側へ、力を入れず、優しく
触ってみる。また、乳房から分泌物が
でないか、脇の下にしこりがないかも
確認。
乳がんを予防するには
 これまでの研究で、乳がんになりやすい人の体質として次の条件があげられています。
@初経年齢が早い
A閉経年齢が遅い
H高年齢出産
C授乳歴がない
E母親や姉妹など、家系に乳がんになった人がいる

 また確実な証明はまだされていませんが、肉・脂肪類の多い食事、アルコール、肥満などは、乳がんになるリスクを高めるといわれています。そのため、食事では脂肪を減らす努力、そして過剰な飲酒を避ける、適正体重へのコントロール等が予防につながります。また、これらの予防とともに早期発見のために、前述の自己検診・定期検診を必ず実行してください。
乳がんの治療法
 乳がんの治療法には、手術療法、抗がん剤やホルモン剤を使った薬物療法、そして放射線療法があり、がんの進行と患者の状況に応じてこれらを組み合わせて治療を行います。
 以前の乳がんの手術は、乳房・胸筋・リンパ節をすべて取り除いていました。しかし、最近では腫瘍が3cm以下でリンパ節転移がない早期乳がんに対して、乳房の膨らみや乳首を残す乳房温存手術が行われます。乳房と腫瘍のバランスが悪いケースや、がん細胞が乳管に散らばっている場合などは、胸筋を残して乳房を切除する「非定型乳房切除術」が行われます。また、術前の検査でリンパ節転移がないことが確認されると、リンパ節を取らない方法も行われています。さらに大きな腫瘍に対しては、術前に抗がん剤治療を行って腫瘍を小さくしてから乳房温存手術を行うなど、最近は身体にメスを加える範囲を小さくする傾向にあります。それにより、術後に起こる腕のむくみや機能障害が少なく抑えられます。なお、乳房温存術では、乳腺にがん細胞が残っている可能性があるため、再発予防のために術後に放射線療法を行います。
 進行がんや再発がんには、閉経の状態、ホルモン療法に対する感受性、腫瘍の大きさ、リンパ節をはじめとした他臓器への転移の状況などにより、手術療法、薬物療法、そして放射線療法を組み合わせながら治療を進めます。
終わりに
 乳がんの治療は年々進歩し、新たに乳房を作る乳房再建術のように術後の生活へのダメージを少なく、過ごしやすくするための方法も進んでいます。しかし、重要なことは早期に発見して治療をすることです。アメリカやイギリスでは、マンモグラフィーを取り入れた検診と啓蒙運動の普及で現在、乳がんの死亡率が低下傾向をたどっています。乳がんは早期発見で90%が完治できます。それだけに自己検診・定期検診がとても大切なのです。
 


−すぐに役立つ暮らしの健康情報−こんにちわ 2006年10月号:メディカル・ライフ教育出版 より転載
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