流行前に対策を
   インフルエンザ
 インフルエンザの対策としてもっとも有効とされる予防接種。では、予防接種を受けると、なぜインフルエンザにかかりにくくなるのでしょう。
 今回は、予防接種の有効性や注意点について、またその他の対策もご紹介します。
インフルエンザとは
 インフルエンザを予防するために、まずはインフルエンザウイルスを知ることから始めましょう。
 インフルエンザウイルスに感染すると表1のような症状を起こします。
 この、インフルエンザウイルスには、いくつかの特徴があります。
 そのひとつが、ウイルスの表面に突起物(スパイク)があることです。
 スパイクは2種類あり、別々の働きをします(図1参照)。また、スパイクのひとつ、血球凝集因子には、変異するという特徴もあります。
 もうひとつの特徴は、3つの型と十数種類のタイプがあることです。
 インフルエンザウイルスには、A、B、Cの3つの型があります。そしてA型は、スパイクの違いによって、いくつかのタイプに分類されます。例えば、よく流行するAソ連型はH1N1型というタイプです。また、
インフルエンザの症状〈表1〉

急に発熱する。また、38〜39度程度の高熱になる。40度台になることもある
全身症状
悪寒や倦怠感、頭痛、関節痛、筋肉痛などの症状が現われる
鼻、のどの症状
全身症状の後にでる
合併症
気管支炎や肺炎、脳炎などの合併症が起こることもある
近年、世界的に問題となっている高病原性鳥インフルエンザは、H5N1型やH7N7型などのタイプです。
 この他、感染経路が空気感染である、増殖する速度が早い、低温低湿を好む、空気中を長時間漂うことができる、などの特徴もあります。
インフルエンザウイルスの仕組みと働き〈図1〉
インフルエンザウイルスの表面にはスパイクがある。
インフルエンザウイルスのスパイクの種類
Ha 血球凝集因子
Na ノイラミニダーゼ
ウイルスは体内に入ると、のどや気管支の粘膜の細胞へ、Haをつかって侵入する。 増殖したウイルスは細胞からとびだし、周囲の細胞へ感染。この際、Haが新たな細胞へ侵入できるよう、Naがウイルスの表面をきれいにする。
予防接種の意味
 人の身体は、ウイルスや病原菌などの抗原に一度感染すると、体内に抗体を作る働き(免疫)があります。この働きにより、次に同じ抗原が体内に入ってきても、感染しないようになります。
 しかし、インフルエンザウイルスは変異しますし、型やタイプによって、スパイクが違います。ですから、一度抗体を作っても、次に侵入してきたインフルエンザウイルスの感染を防げるとは限りません。そのため、その年に流行すると思われるインフルエンザウイルスの抗体を体内に作り、備えておく必要があります。
 これが、予防接種です(図2参照)。
 予防接種では、「ワクチン」を体内に注入します。このワクチンは、その年に流行すると予測されるインフルエンザウイルスのスパイクだけを濃縮して作られたものです。つまり予防接種とは、ワクチンを使って体内に抗体を作らせることなのです。
 抗体ができていれば、インフルエンザウイルスには感染しにくくなりますし、感染したとしても、重症化しにくくなります(表2参照)。
予防接種の有効性〈表2〉
発病防止率
成人(65歳未満)  7〜9割
高齢者(65歳以上)  約4割
乳幼児(1〜6歳)  2〜4割
高齢者の入院及び死亡防止率
(自宅居住者)
入院防止率
 3〜7割
(施設入居者)
入院防止率
 5〜6割
また、死亡防止率は自宅居住者、施設入居者とも、約8割
予防接種の注意点
 予防接種は、もっとも有効なインフルエンザ対策ですが、いくつかの注意点があります。ここでは、その注意点をご紹介しましょう。
◇接種の時期
 予防接種は、インフルエンザが流行し始める前、10〜12月中旬ころまでに受けておいたほうが、効果が高いといえます。これは、接種してから体内に抗体ができるまでに、およそ2〜3週間かかるためです。
◇接種の回数
 通常、1回の接種で有効とされていますが、13歳未満の子どもや免疫力が低い方などは、2回接種を行います。この場合、2回目の接種は、1回目の接種から2〜4週間くらい経ってから行います。
◇接種を受けられる場所と費用
 予防接種は医療機関で受けることができます。また、費用は実費ですが、65歳以上の方は自治体から補助金がでる場合があります。詳しくは、各自治体までお問い合わせください。
◇接種が受けられない方
 当日熱がある方や、6か月未満のお子さん、強い卵アレルギーのある方は接種を受けられません。その他、接種に不安のある方は、かかりつけ医にご相談ください。
予防接種以外の対策
 予防接種以外の対策として、まずあげられるのが、抵抗力をつけることです。抵抗力が低下すると、インフルエンザにもかかりやすくなってしまいます。栄養のバランスのとれた食事を心がけ、しっかりと睡眠をとるようにしましょう。
 また、インフルエンザウイルスは、低温低湿を好み、空気中を長時間漂うことができます。インフルエンザには、このようなウイルスを吸い込んで感染(空気感染)しますから、室内の温度と湿度に気を配り、換気も定期的に行うようにしましょう。
 人が大勢集まる場所は、罹患者がいる可能性も高くなります。インフルエンザの流行時期は、人が集まる場所への外出を、なるべく避けるようにしましょう。どうしてもでかけるときは、マスクをし、帰宅後の手洗いとうがいを心がけてください。
終わりに
 インフルエンザは、普通のかぜよりも症状が重く、肺炎などを併発する危険性も少なくありません。ですから、予防接種を受け、なるべく感染しないようにすることが一番の予防法です。
 とくに、乳幼児やお年寄り、ハイリスクグループ(表3参照)の方、大勢の人が集まる場所へよく行かれる方は、予防接種を受けておきましょう。また、これらの項目にあてはまる方が家族にいる場合も、予防接種を受けることをお勧めします。
予防接種を受けたほうがよい方〈表3〉
子ども、高齢者
子どもは感染しやすく、お年寄りは重症化しやすいため
人が集まる施設に勤めている、または利用している方
集団感染を防ぐため
ハイリスクグループ
呼吸器疾患、心疾患、腎臓疾患、糖尿病などを患われている方、
また、がんの治療中の方など、免疫力が極端に低下されている方


−すぐに役立つ暮らしの健康情報−こんにちわ 2006年11月号:メディカル・ライフ教育出版 より転載
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