痔は恥ずかしい病気ではありません。生活習慣病のひとつとして、成人の半数の方が患っているといわれています。ほかの生活習慣病と同じように、症状をよく知り、早めに受診し、生活習慣を改善することで、悩みはきっと解決されます。
 
痔とは何なのか 痔の3大疾患
 ストレスや疲労、食生活。「排便のリズム」の変調から便秘や下痢になり、痔に。痔が生活習慣病と考えられるようになってきたのはこのためです。
 痔のなかでも、痔核(いぼ痔)、裂肛(切れ痔)、痔ろうは「痔の3大疾患」とよばれています。それぞれの症状をみていきましょう。
痔の種類と症状
@痔核(いぼ痔)
 肛門のなかや外の一部がいぼ状に膨らんで大きくなることをいいます。
 排便のときに強くいきんだり、長時間の座り仕事や立ち仕事など、肛門に大きな負担をかけると肛門の周囲の血行が悪くなり、うっ血し、肛門のクッション部分が緩んでいぼのようになり、発症します。
 また、女性の場合、妊娠中や出産時に肛門に大きな負担がかかるため、痔核になるケースも少なくありません。
 痔核では、排便のときに出血することがあります。また、アルコールや辛いものは悪化要因となります。
A裂肛(きれ痔)
 肛門が切れたり裂けたりする症状をいいます。
 便秘になり、便を無理に押しだすときに肛門が傷つくことが最大の原因とされています。
 排便時に鋭い痛みがありますが出血はそれほど多くありません(トイレットペーパーに少し血がつく程度)。
B痔ろう
 痔ろうになる前段階として肛門周囲膿瘍が発症します。
 肛門周囲膿瘍は、肛門の少し上にある歯状線の小さなくぼみに便が入り、便のなかの細菌に感染することで起きます。肛門はもともと強い免疫力を備えており、通常は細菌に感染することはありませんが、ストレスや疲労が重なって肛門の免疫力が落ちたときに下痢をすると便のなかの細菌に感染しやすくなります。
 肛門周囲膿瘍の症状は、肛門の周囲に膿がたまり、お尻が熱をもって赤く腫れ、激痛や発熱が起こります。
 膿が排出され、肛門周囲膿瘍が治まったあとに、細菌が侵入した入口と膿が排出された出口がトンネル状の管として残る場合があります。これを痔ろうといいます。
 痔ろうになると強い痛みから鈍い痛みになります。出口からは常に膿の混じった分泌液がでて、お尻がべたついたり、下着が汚れたりします。
痔の種類と治療法
痔の種類 治療法
痔 核
(いぼ痔)
薬物療法 座薬や軟膏
硬化剤注射
 ※下表参照
手術療法 結紮(けっさつ)切除術(痔核に通じる血管をしばり、痔核部分を切除する)
自動縫合器による手術
 ※下表参照
その他の療法 ゴム輪結紮療法(特殊なゴム輪をいぼの根元にかけて、いぼの部分を壊死させる)
裂 肛
(切れ痔)
薬物療法 軟膏や軟便剤
手術療法 内括約筋側方皮下切開術(狭くなった肛門を広げる)
痔ろう 薬物療法 ※薬物治療は行われない
手術療法 切開開放術(膿の管を括約筋ごと切り開く)
括約筋温存術(膿の管だけをくりぬくように取り除く)
いぼ痔に対する新しい治療法
〈硬化剤注射〉
肛門のなかにできた痔核に硬化剤を注射して硬化させ、肛門の外にでないようにするもの。2005年から健康保険が適用されていますが、この治療を行っている医療機関はまだ限られています。
〈自動縫合器による手術〉
肛門のなかにできた痔核そのものを切除するのではなく、痔核の上の直腸粘膜を切除・縫合し、痔核をつりあげ、肛門の外にでないようにする手術。2006年現在、健康保険の適用はありません。
これらの治療法は、痔の部位、大きさ、症状によっては使用できないケースがあります。担当医師とよく相談してください。
痔はどうやって治すの?
 「痔=手術」と思われますか?
 痔の治療は保存療法(日常生活の改善と肛門部を清潔に保ち血液の循環をよくする)が基本になっています。
 手術が行われるケースは、痔核で20%、裂肛で10%程度です(痔ろうは手術しか方法がありません)。
 痔の手術は痛いと思われるかもしれません。しかし、手術法の進歩により痛みは軽減されてきています。入院は3日〜1週間程度で、通院は肛門の傷が治まるまで2週間に1回ぐらいの割合というのが、通常のケースです。
 痔だけではなく、大腸がんや大腸ポリープなどでも肛門からの出血は起こります。排便のときに出血や痛みを感じるなど、気になる症状があるときは、早期に受診することをお勧めします。
痔の患者さんの日常生活の注意点
 痔を悪化させない、あるいは予防するには、肛門に負担をかけないこと、便秘・下痢にならないようにすること。そのためには、生活習慣の改善が大切です。

痔で悩まないための生活習慣改善5つのポイント
@排便のリズムを作り、下痢・便秘にならない
 ようにする
A排便の際、いきまない
Bストレスの軽減
C食物繊維を多く摂る
D腹筋を鍛えるため、適度な運動を

−すぐに役立つ暮らしの健康情報−こんにちわ 2006年11月号:メディカル・ライフ教育出版 より転載
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