人工透析最前線
 「透析」という治療法を聞いたことのある人は多いと思います。病気で充分に働かなくなった腎臓の役割を機械が代わって行う治療法です。
 透析を受ける患者数は年々増加し、2006年末の調査では26万人を超えました。その背景には、糖尿病や動脈硬化といった生活習慣病も関係しています。腎炎にかかっていなくても、透析は他人事ではないのです。
腎臓の働き
 まず腎臓の働きについてご紹介しましょう。腎臓は背中側の腰の少し上あたりにあるそら豆型をした左右一対の臓器で、1つが大人の握りこぶし程度の大きさです。全身から運こばれてきた血液を濾(こ)して尿を作ります(図1参照)。また、腎臓では体内の水分量を調整したり、ホルモンを分泌して血圧や、血液の成分である赤血球を調整したりしています。このように重要な働きをする臓器なのですが、困ったことに病気になっても症状が現われにくく、「沈黙の臓器」といわれています。
透析を必要とする腎臓病
 腎臓病には腎炎、腎結石、腎臓がんなど、腎臓自体に異常が起こる場合と、糖尿病(糖尿病性腎症)や高血圧、動脈硬化(腎硬化症)などの全身病によって起こる場合があります。
 いずれの場合も多くはゆっくり進行し、腎機能が正常の人の3分の1以下になると腎不全、さらに悪化して10分の1以下になると尿毒症が起こります。尿毒症になると、排出されるべき体内の老廃物や毒素が血液中にたまるため、命に関わります。
 その危機的状況を回避するために、透析が必要なのです。
透析の種類
 現在、行われている透析には、血液透析と腹膜透析の2種類があります。
*血液透析
 血液透析は血管に針を刺し、そこからチューブを介して体外に出した血液を透析液が入っている機器(ダイアライザー)に通して濾過(ろか)し、きれいになった血液を再び患者さんの血管に戻す方法です(図2参照)。
 なお、血液透析では毎分200〜250mlもの血液を出し入れしますから、太い血管が必要になります。そのため、最初の透析を始める前に手首の静脈と動脈をつなぎ血管を太くする手術を行い、「内シャント」というものを作ります。
 血液透析を受ける患者さんは、透析を行う医療機関で1回およそ4時間かかる透析を、週に2〜3回受けます。透析患者さんの95%は、この血液透析を受けています。
*腹膜透析
 腹膜とは、お腹のなかを裏打ちしている薄い膜です。腹膜透析は、この膜をフィルターの代わりにして血液を濾過します。
 具体的には、あらかじめ下腹部に取りつけたカテーテルにチューブをつなぎ、そこからお腹のなかに透析液を注入します。それによって腹膜の毛細血管から、老廃物や余分な水分が透析液のなかに濾しだされます。そして5〜6時間経ったら、お腹のなかの古い透析液を排出し、新しい透析液を入れます(図3参照)。1回の透析液の交換にかかる時間は30〜45分で、これを1日4回、毎日行います。
 この方法は、患者さんが家庭や職場で行なえるため、医療機関にわざわざ出向く必要がない、透析液の交換以外の時間は自由に利用できる、といったメリットがあります。その反面、管を体内にとどめておくことから腹膜炎を起こしやすい、腸の癒着を起こしやすい、といったリスクがあります。そして何より、腹膜透析を長い期間行うことによって、腹膜が劣化し、透析の効果が充分に得られなくなってきてしまいます。こういった合併症を防ぐため、腹膜透析は5〜6年、長くても10年以内で打ち切り、血液透析へ移行する対策がとられています。こうした事情もあって、腹膜透析を行っている人の割合は約5%にとどまっています。
日常生活の注意点
 腎臓病の食事療法の基本は、たんぱく質と塩分の摂取を抑えること。
 透析を受けるようになってからも、それは変わりません。また、腎臓の機能が低下するとカリウムやリンが排泄されにくくなるので、それらを多く含む食品の摂取も控えます。そして、水分も摂りすぎないように毎日チェックする必要があります。このように制限事項が並ぶと、「いけないことだらけ」と思いがちですが、食材の選び方や調理方法で、食事もいろいろと楽しめます。そのためにも、医師、看護師、栄養士など、かかりつけの医療機関のスタッフに、細かく質問するとよいでしょう。
 1日の使い方も同じです。血液透析では週2〜3回、4時間も医療機関で透析を受けることになります。しかし、夜間でも透析を行っている医療機関が多くありますから、透析を受ける時間を他のスケジュールに応じて調整することで、時間の縛りも少なくなり、時間を上手に使えます。
 透析を受けるとなると、ほとんどの人が悲観しますが、透析の機械や技術は進歩し続けています。そして医師をはじめとした医療スタッフと患者さんとの連携によって、生活の質(QOL)の維持も可能なのです。
−すぐに役立つ暮らしの健康情報−こんにちわ 2007年12月号:メディカル・ライフ教育出版 より転載
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