最近、うつ病に対する理解が広まりつつあり、「うつ病は『怠け』とは違う」とか、「うつの人に頑張れといわないほうがよい」という知識をもっている人も多くなってきました。 しかし、実際に自分のこととなると、「少し疲れているだけだ」と無理を重ね、症状が悪化してから相談に来られるケースが、少なくありません。
うつ病とは?
 うつ病の中核症状は、「抑うつ気分」 「興味・喜びの消失」の2点があげられます。その他に、身体症状では睡眠障害(夜寝つけない、夜中に目が覚めてしまう、明け方に起きてしまうなど)、食欲の低下、日内変動(朝は具合が悪く夜になると元気になること)、身体のだるさ、性欲の減退などがあります。精神症状では、思考力や集中力の低下、意欲の減退、罪悪感、自信のなさ、イライラ感などがあげられます。また自傷行為、自殺企図など行動面の症状もあります。 これらのうち代表的な症状が2週間以上続いていて、ある一定の個数以上みられると、うつ病といえます。  
 「うつ病」と診断される状態ではなくても、様々な病気やライフイベン ト(結婚・出産・離婚・就職・転勤など人生の出来事)に伴なうストレスによって、うつ状態になるのも、決して珍しいことではありません。また、他の病気のひとつの症状として「うつ状態」を伴なう場合もあります。  
 それでは、それぞれの性別、年代などで起こりやすいと考えられる状況とともに、うつ病(うつ状態)の特徴をみていきましょう。
働き盛りのうつ
 主に中高年の男性に起こりがちなケースとして、過労や仕事のストレス・異動・昇進・リストラなどをきっかけとしたうつ病が考えられます。  
 うつ病のきっかけは必ずしも悪いことだけではなく、昇進などよい出来事であっても、環境が大きく変わるという意味で「ストレス」となることがあります。職場での責任が重くなり、忙しさから不規則な生活になりがちなことや、年齢的に親の介護などで疲れ切ってしまうという場合もみられます。  
 とくに男性は、内面のつらさや感情を言葉で表現しにくい人も多く、また落ち込んでいても自分の気のもちようで何とかなるはずだと考えがちで、うつ状態の自覚に乏しいという特徴があります。そのため頑張りすぎて周囲にも気づかれるのが遅くなり、悪化してしまう場合があります。眠れない、集中力が落ちている、顔色が悪い、食欲不振などの身体的な兆候を見逃さないよう、心がけるとよいでしょう。
 
女性のうつ
 女性はホルモンバランスの変化が大きい関係上、うつ病との関連が深いかもしれません。月経前症候群(PMS)、マタニティブルーズ、産後うつ病、更年期障害などは、女性ホルモンが関係してうつ状態になる代表例です。とくに出産後はホルモンのバランスが崩れるため、母親となった女性は精神的にも強いストレ スを感じます。産後数日の間に、イライラ、不安、涙もろくなるなど情緒不安定になることをマタニティーブルーズといい、多くは1週間程度で自然によくなります。マタニティブルーズは一過性のもので、心配はいらないのですが、その後も症状が持続し、重くなると産後うつ病を生じている場合があります。  
 閉経後の更年期には、女性ホルモンが急激に減少することにより種々の症状が現れます。頭痛、肩こり、 顔がほてる、手足の先の冷えなどの身体的な症状と、イライラや不安、気分が落ち込む、ぼーっとして集中できないなどの精神的な症状があり、 いわゆる更年期障害とよばれるものです。この精神的な症状を、更年期障害かうつ病か区別するのはとても難しいといわれています。強い憂うつ感に悩んでいる場合などは、自分で更年期障害と決めつけずに、精神科や心療内科などを受診することも必要です。
 
高齢者のうつ 
 60代、70代以降の年齢になると、身近な人との死別を経験することが多くなります。これはうつ病になる大きなきっかけのひとつとしてあげられています。また、糖尿病や高血圧、白内障などの病気や、足腰の痛みなど身体の衰えに伴なう不安も、うつ病を生じやすい背景だといえます。  
 この年代では、「気分が落ち込む」 という訴えよりも、急に閉じこもりがちになったり、身体の不調を過剰に心配するという形で、うつ病のサインがみられます。  
 物忘れが多い、物事への興味・関心がないなどの症状は、初期の認知症の症状と重なる部分もあるため鑑別が難しく、見逃されやすいのです。また「物忘れがひどい」「眠れない」などといわれると、すぐに「年だから仕方ない」と家族もそのままにしてしまいがちですが、うつの症状の可能性もあります。なお、脳梗塞が脳の感情を支配する部分に生じると、うつ病の症状がでる場合もあります。
 
早期発見できれば
 うつ病を治すために大切なのは、充分な休養をとり、適切な薬剤をきちんと服薬することです。そのためには、なるべく早期に発見し、対処することが重要です。
 うつ病の初期に本人が「たいしたことはない」などと考えて相談が遅れると、症状が悪化してしまい、悪化してから治療を始めると、結局、治るまでに長い期間がかかってしまいます。  
 また、悪化してしまったうつ病は、一度治っても再発しやすいともいわれます。判断力が下がることもうつ病の症状のひとつなので、うつ病のサインを見逃さないためには、周囲の人々の理解とサポートが必要不可欠です。  
 精神科の薬に対して、漠然とした不安をもつ人も時々おられますが、最近では副作用の少ない抗うつ剤が多く処方されています。心配だと思ったら一度、心療内科や精神科などの専門医を受診することを、強くお勧めします。
 
−すぐに役立つ暮らしの健康情報−こんにちわ 2008年5月号:メディカル・ライフ教育出版 より転載
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