女性特有の臓器である子宮は、初潮を迎える思春期から更年期までの体調を大きく支配するといっても過言ではありません。妊娠・出産を司る臓器であるだけに、何らかの疾患が発生した際、患者さんの希望に沿えるような治療が望まれます。
 
 
子宮筋腫
 子宮筋腫は子宮の筋肉組織の一部が増殖してできる良性の腫瘍です。発生する場所により4種類に大別されます(図2、表1参照)。一度に複数個発見されることが多く、成人女性の20〜40%が発症します。
 大半は無症状で治療の必要もありませんが、過多月経(月経量が多い、痛みが強い、10日以上続く、レバーのような血の塊がでる)や、筋腫の肥大化による障害(不妊や、他の臓器を圧迫して起こる頻尿、便秘、腹痛、腰痛など)の原因になっているときは、薬物治療や外科治療(手術)を行なう場合があります。
 薬物療法は、筋腫が大きくなる原因である女性ホルモン(エストロゲン)を抑制するホルモン剤を使用し、閉経と似たような状態に導くもの。筋腫は縮小しますが、骨粗鬆症や吐き気、不眠など更年期障害のような症状がでやすく、連続使用は最長でも6か月です。ホルモン剤の効果が上がらない場合や副作用が強いときは、外科療法が行なわれます。手術方法は、筋腫の大きさ、患者さんの年齢や妊娠の希望などを考慮して、筋腫のみ取り除く「筋腫核出術」、または子宮を取る「子宮全摘術」が選択されます。子宮全摘術であっても、最近は開腹せずに腹腔鏡を使う方法が普及してきています。
 
   子宮筋腫の種類と主な症状  (表1)
分類 できる場所 主な症状
漿膜下筋腫
(しょうまくかきんしゅ)
漿膜のすぐ下にでき、子宮の外側に突き出すように成長する。本体が子宮の外へ飛び出し、茎部分だけで子宮とつながっている場合もある。 筋腫が大きくなると、頻尿、下腹部痛・腰痛・腹部膨満感などが生じる。有茎筋腫の茎がねじれると、激痛や吐き気を起こし、緊急手術が必要になることもある。
筋層内筋腫
(きんそうないきんしゅ)
最も患者数が多い。子宮筋層のなかにできて成長する。 大きくなると、子宮の内側を圧迫するため、不妊の原因になったり、流産・早産を引き起こすこともある。また、過多月経や激しい月経痛の原因にもなる。
粘膜下筋腫
(ねんまくかきんしゅ)
子宮内膜のすぐ下にでき、子宮の内側へ向かって成長する。本体が子宮のなかに飛びだしたり、さらに茎がのびて膣内に飛びだす場合もある。 筋腫が小さくても過多月経になりやすい。月経がだらだら続くため、貧血になったり、不妊や流産の原因になることもある。
頚部筋腫
(けいぶきんしゅ)
子宮の入り口付近にできる。 大きくなると、下腹部痛・腰痛や頻尿を起こしたりする。また、分娩時の障害になりやすい。
 
子宮内膜症
 子宮の内側にある内膜組織が、子宮以外の場所(卵巣・卵管・ダグラス窩(か)→直腸と子宮のすきま・直腸など)で増殖する疾患です。月経周期にしたがって組織が増殖し、はがれ落ちて出血しますが、それを排出できないため、強い月経痛・過多月経・不正出血・性交痛・不妊などの症状がでます。卵巣に発生すると、古い血が溜まって腫れる「チョコレートのう胞」を生じます。内膜症は生殖年齢の女性の約5%に発生するといわれ、20代の患者さんも少なくありません。  
 自覚症状がなければ経過観察をします。症状が強かったり不妊の原因になっている場合は、薬物療法や外科療法が行なわれます。  
 薬物療法はホルモン剤などで閉経に似た状態に導くものが一般的です。6か月以上使用できないので、服薬を中止すると再発することがあります。  
 外科療法は腹腔鏡により病変部を切除する方法が一般的です。症状が改善せず妊娠を希望しない場合、子宮や卵巣を摘出する手術も検討されます。
 
 
子宮がん
 子宮の入り口近くに発生する「子宮頚がん」と、奥の内膜に発生する「子宮体がん」に分けられます(表2参照)。  
 子宮頚がんは「ヒトパピローマウイルス(HPV)」による感染症です。HPVは、性行為の経験のある女性が生涯に1度は感染するといわれるほどポピュラーなもの。しかし感染しても90%以上は自然に消失するため、がんが発生する人はごく一部です。HPVには約100種類の型がありますが、子宮頚がんの原因の約70%を占める16型と18型に有効なワクチンが欧米では既に認可され、日本でも近い将来承認される見通しになっています。  
 子宮頚がんは、初期にははとんど無症状で、異変に気付いたときにはかなり進行している場合が多いものです。しかし、がん検診による早期発見率が高いため、若くても性交渉をもつようになったら1〜2年に1度は検診を受けましょう。  
 一方、最近患者数が急増している子宮体がん(表3参照)には女性ホルモンが関与しています。子宮内膜は、月経の終わり頃から増えてくるエストロゲンにより増殖し、排卵後に分泌されるプロゲステロンにより萎縮して、妊娠が成立しなければ月経として排出されます。  
 月経が順調であれば内膜に異変が生じてもはがれ落ち、がん化することはありません。ところが月経不順の人や閉経前後では、エストロゲンの過剰分泌により内膜が異常に増殖する結果、子宮体がんが発生すると考えられています。また閉経後も脂肪組織でエストロゲンが作られるため、肥満していると子宮体がんのリスクが高くなります。  
 子宮頚がんも体がんも、治療法の主体は外科療法です。がんの進行度や病巣の大きさによって切除範囲は異なりますが、年齢や妊娠・出産など、患者さんの希望に沿った治療法が選択できるケースもあります。
  
資料 日本産婦人科学会
−すぐに役立つ暮らしの健康情報−こんにちわ 2008年6月号:メディカル・ライフ教育出版 より転載
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