甲状腺の病気
甲状腺は、新陳代謝を促進するためのホルモン(甲状腺ホルモン)を分泌する臓器で、身体活動に大きく関与しています。そのため、甲状腺の働きが強すぎると新陳代謝が促進されすぎて身体は消耗傾向になり、逆に、甲状腺の働きが弱まると新陳代謝が低下して身体機能も低下気味になります。
 
 甲状腺の病気はおもに、(1)甲状腺全体が腫れるタイプ (2)甲状腺の一部が腫れるタイプ (3)甲状腺の一部に腫瘍(しこり) ができるタイプ、の3つに分けられます。それぞれのタイプに属する代表的な病名や、病気に伴なう症状・注意点などを (表1)にまとめてあります。参考にしてください。  
 本文では、甲状腺の病気のなかでも、最も多くの方にみられる「バセドウ病と橋本病」を取りあげます。これらは、女性に特有の病気と思われがちですが、男性患者の方もたくさんおられます。
 
甲状腺はのど仏の下のあたりにある臓器で、蝶が羽を広げたような形をしています。正常な状態だと、前面を覆う筋肉によって触れることはできませんが、腫れやしこりが生じると触れられるようになります。
 
バセドウ病と橋本病
 「自己免疫疾患」をご存じでしょうか?自己免疫疾患とは、本来、身体に入り込んだ異物に対して起こるべき免疫反応が、正常な自己の細胞を異物とみなして免疫反応を起こす病気です。バセドウ病と橋本病は、 どちらも、この自己免疫疾患であるという共通点をもっています。  
 バセドウ病は、甲状腺を異物とみなして産生された抗体(TSHレセプター抗体)が、甲状腺を刺激し続けることによって甲状腺ホルモンが過剰に分泌され(甲状腺機能が亢進した状態)、結果的に、身体の新陳代謝が活発になり過ぎる病気です。  
 病気が進むと、「寝ていても、ジョギングしている」と例えられるほど身体の機能は活動的な状態になり、(表2)にみられるような様々な自覚症状が現われます。 ただ、こうした症状は徐々に進行していくため、自覚症状はあっても、自分が病気にかかっているという認識が遅れ、耐えられなくなるほど重篤化するまで症状を我慢してしまう方も多いようです。  
 一方の橋本病は、甲状腺を異物とみなして産生された抗体(抗サイログロブリン抗体、抗マイクロゾーム抗体)が、甲状腺自体の細胞を破壊していく病気です。甲状腺が破壊されると甲状腺ホルモンの分泌が減り(甲状腺機能が低下した状態)、身体の新陳代謝は停滞し、表2のような、バセドウ病とほぼ反対の症状(身体機能が低下した状態)が現われます。

※橋本病の場合、自覚症状が現われない場合もある。ただし、治療の必要がないということではない。

バセドウ病と橋本病。ともに、なぜこの病気になるのか、明確な原因はわかっていません。このため特定 の予防法はなく、早期発見・早期治療が最善の対処法になります。
 
おもな甲状腺の病気とその特徴      (表1)
(1)甲状腺が全体的に腫れる バセドウ病 甲状腺機能亢進症の代表的な病気
橋本病 甲状腺機能低下症の代表的な病気
単純性甲状腺腫 甲状腺は腫れるが、ホルモンには異常がない。特別な治療は必要としないが、バセドウ病や橋本病に変わる場合もあるので、定期的に検査を受けて、経過を観察する。
(2)甲状腺の一部が腫れる 亜急性甲状腺炎 ウイルスによる(とされている)甲状腺の炎症。この病気の最大の特徴は、触ると痛みがあること。薬物療法による治癒率が非常に高く、再発することはまれである。他の人へ感染する心配はない。
(3)甲状腺に腫瘍(しこり)ができる 腫瘍性疾患(がん) 病気が初期のうちは、甲状腺にできた腫瘍以外に目立った自覚症状(痛みや全身症状など)を伴わないことが多い(良性腫瘍の場合も同じ)。甲状腺がんの多くは、他のがんよりも病気の進行が比較的遅く、治しやすいといわれている。早期発見と早期治療が重要。
腫瘍性疾患(良性) 甲状腺に発生する腫瘍の80%は、良性といわれている。良性の腫瘍は、生命に関わるものではないが、腫瘍以外にめだった自覚症状がないからと放置したりしないで、きちんとした検査を受ける必要がある。
 
(表2)
 
バセドウ病と橋本病 〜検査と治療〜  
検査―バセドウ病や橋本病の検査は、「血液検査(甲状腺ホルモンの量や特殊な抗体の存在を調べる)」と 「超音波検査(甲状腺の形や大きさなどを調べる)」 のふたつが中心になります。 検査結果がでるまでに1週間〜10日程度かかる場合もありますが、検査自体は1日で済むことが多く、苦痛もありません。

治療―バセドウ病、あるいは橋本病の治療は、薬物療法が中心になります。定期的に行なわれる血液検査をもとに、バセドウ病の場合は甲状腺ホルモンを抑える薬を、橋本病の場合は甲状腺ホルモンを補充する薬を服用し、血液中の甲状腺ホルモンの量をコントロールしていきます。こうした治療の過程で甲状腺の腫れはおさまり、耐えられないような自覚症状も緩和していきます。ただし、薬物療法による治療は長期にわたることがあります。途中で治療をあきらめたり、自己判断で薬の服用を止めたりしないように、根気よく治療を受けなければなりません。  
 バセドウ病の方で薬物療法だけでは症状が改善されない方、あるいは薬物療法以外の治療を望まれる方には、放射線療法(アイソトープ治療)や手術療法が医師から推薦されます。このふたつの治療効果には、たいへん目ざましいものがありますが、治療を受ける方の年齢や身体的条件、ライフスタイルに対する考え方などで、その治療法が「適する・適さない」といった面があります。 医師からの説明をよく理解した上で、治療を受けましょう。
 
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