歯列矯正は、子どものうちに行なうものと思われがちですが、最近は大人になってから始める人が増えています。60歳を過ぎても可能といわれる大人の歯列矯正には、どんなメリットがあるのでしょう。
80歳で自分の歯が20本以上残っている、いわゆる「8020」に該当する高齢者を村象に噛み合わせの調査を行なったところ、反対咬合(受け口)や開咬(前歯の上下間にすき間があり噛み合わない)の人がいなかったという結果がでました。噛み合わせのよい歯は見た目が美しいだけでなく機能的にも優れているといえるでしょう。
矯正治療の対象となるのは、いわゆる乱ぐい歯やすき歯の他、受け口やでっ歯などあごの骨格の不具合を伴うケースなどです(右イラスト参照)。
こうした人に矯正治療を行なうと、
噛み合わせに問題があると気付いたら、すぐ治療を始めるかどうかは別にして、一度専門医に相談してみてはいかがでしょう。
あなたが矯正歯科を受診すると、次のような流れになります。
(1)相談・説明
口腔内の状態や顔貌のバランス等を見て、治療の必要性を検討します。矯正治療の前に一般歯科を受診し、歯周病やむし歯の治療を行なうよう勧められる場合もあります。
(2)検査
顔面写真撮影、]線撮影、歯型による模型作製などを行なう他、CT撮影やMRIなどが追加されることもあります。
(3)分析
各種検査データをコンピュータなどで分析、問題点を明らかにします。
(4)治療計画の立案
分析結果に基づき治療方針を立てます。複数の選択肢がある場合、それぞれ治療期間や費用について説明されます。充分納得がいったら治療契約を交わします。
(5)治療開始
矯正装置には着脱式と固定式があり、両方を併用することもあります。最も一般的な固定式装置は「マルチブラケット」で、ワイヤーの弾性を利用して歯の3次元移動を行なうもの。材質は金属製、目立ちにくいセラミック製など様々です。抜歯を行なうかどうかや、あごの骨の手術が必要かどうかで治療期間も異なりますが、だいたい2〜3年です。
(6)保定
矯正で移動した歯は元に戻ろうとする現象(リラツブス)が起こるため、数年間は保定装置を装着して防ぎます。着脱式装置が一般的ですが、口腔内の状態によっては固定式が選択されるケースもあります。
(7)完了
保定装置は長く使用するほどリラップスが少ないとされます。いつをもって完了とするか見極めが難しいので、自己判断で通院を止めないようにしてください。
矯正装置を着け始めて数日〜1週間程度は、痛みや違和感など不快な症状がつきものです。これは歯が移動し始めたための正常な反応ですので、心配いりません。着脱式装置の場合、着けずに放置するとすぐ合わなくなってしまうため、毎日きちんと装着する必要があります。固定式装置を使用中はむし歯や歯周病のリスクが高まるので、毎日の丁寧なケアが欠かせません。また治療は長期間にわたるため、無断で中断することのないよう、予約日時を守ってきちんと通院してください。
ワイヤーやブラケットが緩んで粘膜に当たったり、先端が飛びだして粘膜を刺激することがあります。痛みを伴ったり、口内炎を繰り返すようなときは微調整が必要です。専用のワックスをブラケットの上からかぶせることで解決するケースもあるので、がまんせず早めに受診してください。
矯正治療はほとんどが自費診療になります。子どもの矯正費用は医療費控除の対象となりますが、大人が審美的な改善を目的として行なう矯正治療では控除が認められません。しかし、「咬合機能異常(噛み合わせの不具合)」と診断されると医療費控除の対象となる場合があります。また、都道府県から顎口腔機能診断基準施設の指定を受けている医療機関であごの骨の手術を伴う矯正治療を受ける場合は、保険適用となります。
大人になって矯正治療を始める人は、大きな期待を抱きがちです。 しかし、矯正治療は万能の「神の手」ではなく、口腔内の状態によっては充分な効果が得られないこともあるのです。時間と費用をかけたのに思ったほどきれいにならない、と落胆することのないよう、事前に専門医と納得いくまで話し合いましょう。矯正治療は、メリットとデメリット、最終治療目標を専門医と共有して始める、二人三脚のマラソンなのです。