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乳幼児期の鼠径(そけい)ヘルニア

「ヘルニア」という言葉は日常よく耳にします。身体の中にある組織や臓器が、本来ある場所からずれて飛びだした状態のことです。 なかでも鼠径(そけい)ヘルニアは、乳幼児から大人まで幅広い年代にみられます。今回は乳幼児期によくみられる鼠径ヘルニアについて解説しましょう。

 

鼠径ヘルニアってどんな病気?

鼠径ヘルニア 鼠径ヘルニアの「ヘルニア」とは、身体の中にある組織や臓器が、本来ある場所からずれて飛びだした状態のことをいいます。脳ヘルニア、食道裂孔ヘルニア、横隔膜ヘルニア、椎間板ヘルニアなど、体のいたるところにできる可能性があります。鼠径ヘルニアは、股の付け根の「鼠径部と呼ばれる辺りに小腸の一部が出てしまう状態です。昔から「脱腸」ともいわれます。

 お母さんのお腹の中にいる段階で閉じられるはずの腹膜の一部分が、閉鎖されないために起こる先天的なものと、高齢になり、腹壁の筋肉が弱くなって起こる後天的なものとがあります。先天的なものは一歳以下の乳児によくみられ、ももの付け根あたりが膨らみ、触ると柔らかくグニュグニュした感じがします。この膨らみは、その部分をそっと押すと引っ込みます。膨らみの部分が戻ったり、また現われたりするのが、鼠径ヘルニアの特徴でもあります。男女比はおよそ4対1で、男児に多くみられます。

 

嵌頓(かんとん)ヘルニア

 鼠径ヘルニアのなかでも何より注意が必要なのは嵌頓ヘルニアです。これは体内からはみだした小腸などがその出口部分で締め付けられ、元に戻らなくなってしまう状態です。そうなると強い痛みが起こり、血流が悪くなって、はみだした臓器に血液が充分に行き渡らないため、そこの組織や細胞が壊死を起こすことがあります。

 鼠径部の膨らみが元に戻らないで硬くなっている、激しく泣く、おう吐する、顔色が悪くなってきたなどの症状が現われたら、嵌頓ヘルニアの可能性があります、すぐに診察を受けましょう。その際、医師が処置してもヘルニアが元に戻らないような場合は、緊急手術になります。

 なお、鼠径ヘルニアで嵌頓を起こしていないような状態では、そのまま様子をみるというケースもあります。その場合には、ヘルニアを悪化させないため、嵌頓ヘルニアを起こさせないためにお母さんは次のことを心がけましょう。

1.大泣きをさせないようにしましょう。激しく泣くとお腹に力がかかってヘルニアを悪化させる可能性があります。そのため、オムツはまめに替え、授乳もきちんと行いましょう。

2.便秘にさせないようにしましょう。便秘になると、排便時にお腹に余分な圧力がかかって、これもヘルニアを悪化させる要因になります。

3.オムツを替えるときなど、鼠径部の状態を注意深く観察しましょう。膨らんでいるようであれば静かに寝かせて、膨らみの部分をそっと手で押し元に戻します。もし戻らなかったり、子どもが泣き出したりするようであれば、医師の診察を受けてください。

 

鼠径ヘルニアの治療法

 治療法は外科的な手術をすることです。子どもの場合は、生後1年以内で自然に治る可能性がありますが、成長するにしたがってその可能性は少なくなってきます。ですから、根本的に治療をするためには、手術が必要で、早目に行うことが原則です。

 子どもに対する手術は、飛びだしている腸などを本来の場所に戻し、出口となっている開いたままの腹膜を縛って閉じます。全身麻酔をかけて行いますが、手技的には簡単なもので、生後2〜3か月の乳児でも受けられます。また、手術によってスポーツや遊びなど、その後の活動に制限が加わることもありません。なお、手術以外の方法でヘルニアバンドを用いることもまれにあります。

 

鼠径ヘルニア-大人の場合-

 大人の鼠径ヘルニアでは、その8割が男性に起こるといわれます。生命に直接関わることはないものの、子どものように自然に治癒することはありません。また嵌頓を起こすとその部分の組織や細胞が壊死し、それによって腹膜炎などが起こると、生命の危機に関わる状態になりえます。ですから、受診して適切な治療を受けましょう。受診は,問診、触診CT検査、腹腔造影検査などが行なわれ、手術の必要性、手術方法などが検討されます。

 大人も、子どもの手術と基本的には同じです。はみだした腸などをお腹の中に戻し、出口を塞ぎます。現在行われている手術の主流は、合成繊維のメッシュで出口を塞ぐ方法で、入院期間も短く、再発率も低く抑えられます。もう一つは、出口部分で腹膜を縛り、袋状に伸びた余分な腹膜を切除して、筋肉が自然に出口部分を塞ぐようにする方法です。これは、筋肉の伸縮性に富んでいる20〜30歳代の人に行うことがあります。いずれも手術時間は30〜40分、入院は2〜3日で、デスクワークが主の仕事であれば退院3〜4日後から可能です。

 

−すぐに役立つ暮らしの健康情報−こんにちわ 2009年11月号:メディカル・ライフ教育出版 より転載

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