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前立腺がん

 前立腺は前立腺液を分泌し、精液の一部をつくる働きがあります。また、膀胱出口の開閉に関わっています。この前立腺に発生するがんが、前立腺がんです。


前立腺てどんな臓器?

 前立腺は男性だけにある臓器で、恥骨(骨盤を形成する骨のひとつ)の裏側にあり、栗の実のような形をしています。重さは成人で15〜20gほど。前立腺の外側は被膜に包まれており、膜の内側には前立腺液を分泌する腺などが存在します。さらに前立腺の内部は、尿道周囲にある内腺と、その周りにある外線に分かれています。

 前立腺の病気では、「前立腺肥大症」と「前立腺がん」がよく知られていますが、前立腺肥大症は内腺に発生しやすく、前立腺がんは外線に多く発生します。

 どちらも腫瘍には違いありませんが、良性の腫瘍である前立腺肥大症に対し、前立腺がんは悪性の腫瘍であることが決定的な違いです。

 良性と悪性の違いは、転移するかしないかで判断します。

 他のがん同様、前立腺がんにもさまざまな種類があります。そこで日本では、WHO(世界保健機関)が提唱している分類法で、前立腺がんを下図の三つに分類しています。

[高分化型腺がん]

正常よりもやや小さい腺管が規則的に並んでいるもの。正常な前立腺細胞に近いおとなしいがん。

悪性度は軽度

[中分化型腺がん]

高分化型腺がんより腺管の配置が不規則。一部に腺管融合が見られるがん。

悪性度は中程度

[低分化型腺がん]

がん細胞がびっしり詰まった状態で、腺管がほとんど確認できない。

最も悪性度が高い

急激に増えている前立腺がん

 アメリカでは、男性が患うがんの第1位が前立腺がん。死亡率も肺がんに次いで第2位。日本では、以前は患者数が少ないがんでしたが、近年、急激に増加傾向にあります。

 平成17年度の厚生労働省の調査では、男性のがんの中で患者数はすでに第1位。年齢別では50歳代前半では第7位、60歳代前半では第2位、60歳代後半以降では第1位になっています。 

 前立腺がん死亡数も増え続けており、2008年は約1万人が前立腺がんで死亡していると推定されています。死亡数もまた、今後も増加し続けると思われます。

 前立腺がんが急激に増えている理由としては、まず、食生活の欧米化が考えられます。高たんぱく、高脂肪の食事が増え、それが前立腺がんや前立腺肥大症の大きな増加要因になっているといいます。

 また、平均寿命が延びたことによる高齢者の増加も大きな理由のひとつです。前立腺がん患者の90%以上は60歳以上であり、がんの発見も50歳を超えてからという場合がほとんどです。男性ホルモンによって支配される前立腺では、高齢化にともなう男性ホルモンの影響が、病気発症に関係していると考えられています。

 さらに検査技術の向上により、前立腺がんの患者数が増加したとも考えられます。

前立腺がんの検査

 前立腺がんの主な検査には、「PSA(前立腺特異抗原)検査」と呼ばれる血液検査や「直腸診」「生検」「画像検査」などがあります。中でも、前立腺がんの発見に大きく貢献しているのが、「PSA検査」です。

 PSAという物質は、身体のなかで前立腺でしかつくられません。前立腺にがんが発生すると、がん細胞がたくさんのPSAをつくるので、血液の中にもPSAが流れ出るようになります。

 ただ、前立腺肥大症や前立腺炎でもPSAの数値は上昇するので、この検査だけでは病気が何かはっきりとわかりません。そこで病気があることが疑われる場合は、さらに別の検査、具体的には直腸診や画像検査(MRl検査、CT検査など)を行います。また、病変を採取して調べる「生検」を行い、前立腺がんであるかどうかを確定します。

 また、前立腺がんが進行するほど高くなる傾向があるPSA値によって、ある程度、前立腺がんの進行具合を知ることができます。

前立腺がんの治療

 前立腺がんの治療法には、「手術療法」「放射線治療」「内分泌療法」があり、さらには特別な治療を実施せず、当面経過観察する「待機療法」があります。

 前立腺がんの治療で大切なポイントは、患者の年齢と期待余命(これから先、どのくらい平均的に生きることができるかという見通し)、そして最終的には患者自身の病気に対する考え方などによります。

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 前立腺がんの初期には自覚症状がほとんどないために、気付かないケースも多かったのですが、検査技術の向上により、人間ドックなどで早期に発見できるようになってきています。前立腺がんは早期発見できれば90%は完治可能といわれます。定期検診をきちんと受けるようにしましょう。

 

−すぐに役立つ暮らしの健康情報−こんにちわ 2011年6月号:メディカル・ライフ教育出版 より転載

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