ホームクリニック

高齢者のうつ病

うつ病は、しばしば「心のかぜ」などとよばれるため、人間性の問題のように勘違いされますが、実は「心の弱さ」「気持ちの問題」などで起こる病気ではありません。

うつ病は、脳内の神経伝達物質の機能の異常によって起こる病気であり、適切な治療を要します。決して「精神論」や「根性論」でどうにかなるものではありません。


うつ病ってどんな病気

人はうつになると、意欲や興味の喪失、また、抑うつ気分により心理的にとてもつらい思いをするなどの症状に見舞われます。ひどくなって日常生活にも支障をきたし、治療が必要になると、うつ病ということになります。 

様々なストレスにより、人は誰でも、「どうも気分がすぐれない、やる気が起きない」などということがあります。また、失恋など大きな心理的ショックで落ち込んでしまったりすることもあるでしょう。こうした状態は、ほとんどの場合、時間の経過やちょっとしたきっかけで回復できます。

ところがうつ病の場合は、憂うつな気分が長く続き、いつも不安やイライラを感じ、何もする気になれず、何もかもがどうでもよくなり「死んでしまいたい」と考えるようになったりもします。

高齢者はうつ病になりやすい?

中年以降、初老期から老年期にかけては、「うつ病になりやすい因子」が増えてくる時期といわれます。なぜでしょう?

原因のひとつには、体調の変化、つまり、色々な病気にかかったりそれが慢性化しやすいといったことが考えられます。

年を重ねるごとに疲れやすくなったり、疲れがなかなか取れなかったり、また物覚えが悪くなったりしますが、そうしたことでガックリきてしまうようです。実際に身体のあちこちに不具合が生じるようになるのもこの時期です。 

さらには脳卒中など、身体疾患の合併症としてのうつ病という場合もあります。もうひとつの原因としては大きな喪失体験があげられます。

仕事を定年退職したり、自分と同じ年代の人が亡くなっていくことなどが、これにあたります。また、自身が大きな病気になったりということもあるでしょう。「ああ、もう若くはないのだ!」と、感じて愕然としてしまい、それがうつ病の引き金になります。

さらに高齢になると、子どもの独立、配偶者、つまり妻や夫との死別など、より大きな喪失感に襲われることになります。こうした大きな悲しみや寂しさからうつ病になることも少なくありません。

こうした高齢者のうつ病は、「老人性うつ病」とよばれます。 

老人性うつ病の特徴

老人性うつ病の特徴は、多くの場合その主症状が、生きがいや興味の消失、漠然とした不安感などであることです。

また、精神症状より身体症状を強く訴える場合もあります。不眠(過眠の場合も)、食欲不振(過食の場合も)、めまい、極度の疲労感が、多く見られます。

先に記したように、以前は、うつ病は「心=人間性の病」であり、「気の持ちようでよくも悪くもなる」、「気持ちがたるんでいる」、「心理的な甘え」など、色々と言われてきました。総じて「根性で治る!(治せ!)」といった扱われ方をしてきましたが、実はうつ病は、れっきとした病気!心の弱さ、甘えなどによるものではありません。気の持ちようや精神論で解決できるものではないのです。

うつ病患者では脳内の神経伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリンの量が減少し、情報伝達がスムーズに行われていないことが分かっています。つまり、うつ病は脳内の神経伝達物質の働きが悪くなっていることから起こる疾患ということになります。

また、高齢者に限らず、うつ病の症状は朝や午前中にひどく現れ、午後から夕方にかけて改善していくことが多く見られます。

老人性うつ病の治療と予防

老人性うつ病で注意が必要なのは、認知症と紛らわしい症状が多くあることです。「一日中、ぼーつとしている」「ぼそぼそと訳の分からないことを言い続けている」「反応が鈍い」「受け答えがちぐはぐ」などの症状から、加齢による認知症だと思ったら、実はうつ病だったということもあります(逆の場合もありますし、両方という場合もあります)。

いずれにしてもそんな症状が見られたり、いつもと違う様子が気になったら、早めに専門医を受診することが大切です。専門医というと、心療内科や精神科ということになりますが、本人が嫌がるようなら、初めはかかりつけ医に相談するとよいでしょう。

うつ病患者には、いわゆる「抗うつ薬」が処方されますが、これは「脳内伝達物質の放出量を増やし作用を強める」薬剤です。飲むと心が落ち着いて不安を解消でき、また気分を高揚させますから気力減退が抑えられます。口が渇く、便秘、立ちくらみといった副作用が見られる場合もありますが、最近では副作用が少なく、即効性がある新薬も開発されています。

いずれにしても症状が悪化して自殺などを考えるようになる前に、治療を受けるようにしなければなりません。うつ病は適切な治療を受け、処方された薬をきちんと飲むことで改善される病気です。

また、老人性うつ病にならないためには、いつも新しいことにチャレンジする気持ちを持ち、若い人たちと積極的に会話したり、老化に負けないよう適度な運動を心がけるようにするといったことが大切です。

例えば定年退職後も、新たな仕事を続ける、趣味の習い事に通うなどして、社会とのつながりを絶やさないようにしたいものです。また、ボランティア活動に参加するなどもよいでしょう。

同時に家族や周囲の人たちも、絶えず声がけするなどしてひとりきりにさせないよう、社会から孤立させないよう、ぜひ普段から、気にかけてあげてください。

 

−すぐに役立つ暮らしの健康情報−こんにちわ 2011年9月号:メディカル・ライフ教育出版 より転載

トップページへ