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アルコール依存症

アルコール依存症の治療は基本的に、対象者の飲酒量を一定量以下に抑えるのではなく、完全に断つこと(断酒)を目標に進められます。断酒は、ある期間ではなく、生涯に渡って続けなければなりません。適量であれば百薬の長といわれるアルコールの摂取に、なぜ、こうした厳しい制限が課せられるようになるのでしょうか?

この問いに答えるためには、アルコール依存症は「脳の神経細胞の病気」であることを理解する必要があります。

アルコール依存症と脳の神経細胞

朝からお酒を飲まずにはいられない方や、仕事中に隠れて飲酒してしまう方のことを、一例として取り上げてみましょう。アルコール依存がこの状態まで進んでいると、(個人差はありますが)こうした方の場合、アルコールが身体から抜けたとき、離脱症状(図参照)が現れていると考えられます。

離脱症状は、脳の神経細胞がアルコールの影響で変化することで起こります。

身体におけるアルコールの分解能力を超える過度な飲酒が続くと、血液中にはアルコールが常に存在する状態になります。ちなみに、肝臓が1時間に処理することができるアルコール量は、一般的に日本酒約4分の1合です。毎日3合のお酒を飲むと仮定して単純に計算すると、肝臓は実に12時間もアルコールを処理し続けなければならないことになります。

こうした状態が長期に及ぶと、身体に存在し続けるアルコールの影響を受け、脳は機能を十分に果たすことができない状態になります。期間の目安としては、一般的に、男性で20年前後、女性で10年前後とされています。

やがて脳の神経細胞は、アルコールが身体に存在することを常態として、この状況に順応するために変化していきます。そして、変化した脳の神経細胞は、今度は逆に、アルコールが身体から抜けた状態のとき十分に機能できず、アルコールを供給して欲しいという信号を、離脱症状として身体に送ってしまうのです。

脳の神経細胞が変化した後に見られる症状には、さらにもう一つ、大きな特徴があります。少量のアルコール摂取でも、飲酒に対するコントロールを失いやすくなることです。アルコール依存症が治ったように思えても、少量の飲酒から、依存症に逆戻りしてしまうメカニズムがここにあります。また、このことが、アルコール依存症に対して厳しい制限が課せられる理由でもあります。

アルコール依存症診断ガイドライン

現代はストレス社会といわれ、社会的状況が、アルコール過剰摂取への環境的要因として大きく働いています。厚生労働省の発表によると、アルコール依存症の患者数は現在日本国内で80万人以上、その予備軍も含めると約440万人にもなると推定されています。

アルコール依存症の診断基準には様々なものがありますが、代表的なものを参考として掲載します。

アルコール依存症は、重度になる前に対策を講じることが最善です。診断基準に該当する方は、かかりつけ医に相談してください。また、アルコールに関する問題をご家族や身近な方が抱えている場合は、この冊子を持ち帰って、ご本人と一緒にスクリーニングテストを行ってみましょう。

 

−すぐに役立つ暮らしの健康情報−こんにちわ 2012年3月号:メディカル・ライフ教育出版 より転載

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