広報誌 南東北

第231号

油断できない失神
治療しないと突然死の可能性も

気を付けたい「心原性」

 意識を失い、突然倒れてしまう失神――すぐに意識が戻ってしまうため軽く見られがちですが、油断は出来ません。死に至る病気が潜んでいることもあるからです。その原因を探る装置が公的医療保険の適用になる、など治療の環境も整いつつあります。この辺を探ってみました。(朝日新聞の紙面から)
失神とは
 「一定的に意識を消失し、姿勢の維持が出来なくなること」と医学的には失神を定義づけています。日本循環器学会などが2007年に作った「失神の診断・治療ガイドライン」によると、失神は原因により@起立性低血圧A神経調節性失神B心原性C脳血管、の主に4つに分けられています(下記参照)。
 このうち、最も多いのがAの神経調節性失神です。朝礼や集会などで立ち続けた時や高齢者が食後などに起こすのは大体、これです。転んでケガする恐れはありますが命に関わることは少ないです。産業医大(北九州市)の安部治彦教授が神経調節性失神の患者さんに行ったアンケートによると、19%が失神の発作後に休職するか退職し、43%は仕事を続けているが仕事の内容を変えていました。特に気を付けなければならないのはBの心原性失神です。「突然死を起こす病気が隠れている場合もある。予兆も無く、横になっていても失神が起きるのは心臓が原因だ」と国立循環器病研究センター(大阪府)の鎌倉史郎心臓血管内科不整脈部長が指摘します。他の原因に比べて再発率が高く、治療しないと発症者の2割程度が1年以内に死亡する、という報告もあります。主に不整脈によって引き起こされ、採血や心電図、心エコーで検査すると心筋梗塞や心筋症などが見つかる可能性があります。心室細動や「ぽっくり病」とも呼ばれるブルガダ症候群など、突然死に繋がる病気の場合もあります。異常が見つかればペースメーカーや植え込み型除細動器で治療します。カテーテルで不整脈の原因部分を焼き切る手術もあります。@の起立性低血圧は自律神経の障害が主な原因で、起立調節訓練や薬などで治療します。起立調節訓練法とは「頭と背中を壁につける。足は動かさない。気分が悪くなったら中止する。1回30分間続ける(イラスト参照)」という方法です。これだと適切な負荷がかかって血管が収縮しやすくなり1カ月で再発はほとんどなくなる、といいます。Cの脳血管が原因となる失神は脳に血液を送る血管が動脈硬化を起こすためで、きわめて稀だとされます。失神は救急外来患者の1〜3%を占め、年間で78万人が経験する、と試算されています。
失神の主な原因と特徴
[起立性低血圧]
立ち上がった直後に血圧の調節が出来なくなる低血圧の一種=薬物やアルコール、下痢などの脱水で誘発。高齢者や生活習慣病の人に多い。
[神経調節性失神]
自律神経のバランスが崩れ、血圧や心拍を正常に維持出来なくなる=長時間立っている場合や食後、排尿、排便時に発症。吐き気など前兆がある。比較的若くて健康な人に多い。
[心原性]
不整脈に代表される心臓や心臓の血管の病気が原因。横になっても発症。治療を怠ると突然死に至ることも。高齢者や生活習慣病の人に多い。
[脳血管]
脳の血管に問題があり血流が不十分。症例は極めて少ない。

最多は「神経調節の失神」

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