広報誌 南東北

第256号

喫煙と糖尿病

たばこは糖尿病の主要原因

 平成23年国民健康・栄養調査で27・1%、4人に1人が糖尿病かその予備軍という推計が出ました。糖尿病になると完治は無理で一生付き合わねばなりません。悪影響の一因はたばこ。5月15日に総合南東北病院で開かれた医学健康講座で同院の菅野惠心臓・循環器センター長が「喫煙と糖尿病の意外な関連」と題して講演し“脱喫煙”を訴えました。要旨を紹介し糖尿病とたばこの因果関係を学びます。
「たばこを吸うと糖尿病になりやすい?」「糖尿病はがんになりやすい?」。よく聞かれるがインスリンというホルモンの出る量が減ったり、働きが悪くなる2型糖尿病は喫煙者の方が唯一の前立腺がんを除き膵臓や肝臓、大腸など大半ががんになりやすい。非喫煙者の1・2〜2・5倍だ。
 今年2月時点で医学関係50以上の学会が「脱たばこ宣言」したが糖尿病学会だけが宣言してない。喫煙医師が多いからだ。わが国医師の喫煙率は12%で米国の3%、英国の2%より多い。医学部や看護学部でたばこ毒物学≠フ教育を怠ってきた結果ともいえる。喫煙していては患者さんに指導もできないわけだ。
 全国有数の葉たばこ生産地の福島県の喫煙率は全国12位の40・4%。喫煙がもたらす健康障害は肺がんだけでない。心疾患の約4万人を14年間追跡調査した結果、21本以上たばこを吸った人の死亡率は非喫煙者の7・4倍、20本以下でも4・2倍だった。平成19年に喫煙が要因で死亡したがんや循環器・呼吸器疾患者は約12万9千人。予防しうる要因の中で喫煙が最大。当院でも同21年2月時点で過去15年の循環器領域疾患722症例について喫煙影響調査をした。喫煙と関連がないと思われた心臓弁膜症での喫煙歴が50・8%あったほか全ての疾患で高い喫煙歴を確認。血管が裂ける急性大動脈解離症でも喫煙との関連が強く、特に若年発症では現喫煙者に多いことが判った。
 喫煙者の2型糖尿病発症危険率は吸わない人の1・44倍。本数が多いほど危険は増すし喫煙の影響は30年持続する。たばこ煙は発がん性物質が多く、特に酸性の主流煙よりアルカリ性の副流煙の方が有害。一酸化炭素は主流煙の4・7倍、ニコチンは2・8倍、タールは3・4倍多くこの受動喫煙で呼吸器系の機能障害、疾患に罹りやすい。
 中国でPM2・5(微小粒子状物質)が話題だが、室内の受動喫煙の方がさらに深刻。たばこの臭いがしたり、目や鼻・のどが辛い時はすでに環境基準の100〜1000倍。タクシーの中での受動喫煙は致死的汚染の濃度だ。
 禁煙法が欧米はじめ世界で広がり、ロシアでは来年からホテルや飲食店でも禁止される。しかし日本では受動喫煙の害に対する取り組みが遅れ、受動喫煙防止条例があるのは神奈川・兵庫県だけ。全国的に意識が低いのが実情だ。環境省の調査で24歳以下の妊婦10人に1人が喫煙、さらに妊婦の63%は受動喫煙を受け胎児を含め健康被害が心配される。職場での受動喫煙も糖尿病発症に2倍近く関与しているとの調査もある。喫煙により@インスリン抵抗性増大A内臓脂肪が増えるB直接的に膵臓を障害C交感神経を刺激D血栓や動脈硬化を予防するアディポネクチンを減らすE歯周病を悪化させる―。歯周病の治療で糖代謝は改善するが、歯周病が重症なほど血糖コントロールできない。また糖尿病関連死の80%は動脈硬化性疾患。軽い2型糖尿病などはない。たばこは糖尿病の主要な原因。たばこは嗜好品ではなく「死向品」だ。
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