ワインへのリトルリベンジ
 
食と文化の物語 wine
近年、ポリフェノールの抗酸化作用が注目され、赤ワインの国内消費量が飛躍的に伸びた。健康への関心の大きさの現われでもあるが、どうせ飲むなら背後にあるこだわりの世界に踏み込んでみるのも悪くない。ワイン産地の気候や風土に思いを馳せる。味わいも少し変わってくるかもしれない。
 ワインを初めて飲んだのは大学生の頃、小洒落たレストランを予約して彼女と一緒にクリスマスディナーに行ったときだったと記憶している。レストランの選定と食事内容には何日も時間をかけ準備万端だったが、ワインの事前学習は頭に無く、メニューリストを眺めながら「どうしよう…」と汗をかきながら悩んだことは鮮明な記憶として残っている。当然、そのとき飲んだワインの銘柄、味はちっとも憶えていない。それから約20年、いつも何気なくワインを飲んでいるが、まだまだ知らないことはたくさんある。赤に白、じつに様々な銘柄や産地があり、味も値段も多種多様である。
 アメリカ西海岸の都市サンフランシスコから車で北東へ向かい約一時間半、山に挟まれ起伏に富んだ土地はアメリカインディアンのワポ族に「ナパ(豊潤の地)」と呼ばれ、世界トップレベルの秀逸なワインを生産する洗練された田舎町があることをご存知だろうか。
 山に挟まれた丘陵地は南北にわずか50キロ、東西も広いところで8キロという細長い形状をしているナパバレー(Napa Valley)。ワイン王国フランスのボルドーと比較すると約8分の1程度の広さではあるが、ワインの生産は世界でもトップレベル。その複雑な地形と特有の気候が葡萄ならびにワインの生産にこのうえない条件をもたらしているのである。昼に暖かく朝夕に冷える気温差、湾からの海風と山から降りてくる涼風、海抜の高低、土壌、日当たりなど地形と気候の微妙なバランスが良い葡萄を育む。ナパには「オーパスワン」というカルトワインもある。
 一本数万円という値がつくカルトワイン。オーパスワンはナパワイン発展の貢献者ロバート・モンダヴィ氏とフランスの有名シャトーオーナーのロートシルト家が出資して誕生したナパを代表するカルトワイン。ワイナリーで購入しても一本165ドル。このワインの特徴は骨格がしっかりしていて熟したタンニン、リッチで絹のような舌触り、隙のない完璧な構成であり、日本でも知られている。
 創立から5年という新しいブランドの「ハンドレッドエーカー」は日本ではまだ未入荷。3年先のリリースまで予約の段階ですでに売り切れという、カルトワインのニューフェイス。24金を使ったラベルと密蝋でカバーしたコルク、ワインパッケージの輸送には家具に使用する最高級の材質からつくられた木箱を使うなど、全過程に常識を覆す手法を展開する若手オーナーのウッドブリッジ氏。カルトワインの秘密は完璧なるこだわりのなかに隠されている。
 ボージョレーヌーボーにクリスマス、ワインを飲むことが多くなる季節である。ナパのワイナリーから日本へ輸入されていないものもまだあるらしいが、ワイン選びをするときには「Napa」の文字も頭の片隅に記憶しておき、ひとつぐらいは蘊蓄を語り、冷や汗をかいたあの頃へのリトルリベンジとしたい。
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