スポットライト 東京電力女子サッカー部マリーゼ
 
なでしこリーグ2年目の飛躍に向けて
 

今年はサッカーワールドカップイヤー。6月にはドイツ大会が開催され、ジーコ・ジャパンの活躍に期待が寄せられているが、女子サッカーも見逃せない。その翌月には第15回アジア女子選手権が開催され、日本は初優勝を狙っているのだ。スタジアムは魅力的な劇場空間でもある。今回は「マリーゼ」というLリーグ(なでしこリーグ)で活躍する女子サッカーチームを通して、トップアスリートたちの健康管理への取り組みを紹介したい。
 
木村孝洋監督のもと東京電力女子サッカー部マリーゼは福島県楢葉町・広野町を本拠地とするLリーグ1部所属の女子サッカーチーム。呼称はTEPCOマリーゼ。「海(マリーン、marine)のように力強く、風(ブリーズ、breeze)のようにさっそうと」との意味が込められている
Photo by G.P.S.
 春 のシーズン開幕を前に、スタジアムは静寂に包まれていた。福島県の浜通りに位置し、比較的温暖な気候に恵まれているため、今年の大寒波の影響でも、グラウンドが雪に包まれることは少なかった。アジア初のナショナルトレーニングセンターでもあるこのJヴィレッジを拠点とするのが女子サッカーチーム「マリーゼ」だ。
 女子サッカーといえば、アテネ五輪での日本代表の活躍を思い出す人も多いだろう。そのスーパーサブとしてピッチに立った丸山桂里奈選手もこのチームの一員である。
 今年は2年目のシーズン。日本一ともいわれる熱いサポーターの声援を力に、選手達は女子サッカー界の最高峰Lリーグ1部で闘う。
 Lリーグとは、正式には日本女子サッカーリーグといい、なでしこリーグの愛称で親しまれている。今シーズンは1チーム増え、全国各地で16チームがしのぎを削る。1部リーグは8チーム。試合時間は45分ハーフで、ボールやコートも男子と同じサイズだ。
 シーズン中は全国を転戦する。2005年最終戦は11月3日、Jヴィレッジスタジアムでの宝塚バニーズ戦。マリーゼは得点源・丸山選手を皮切りに本間、中村選手が華麗なゴールを決め、3対0で圧勝した。全節が終了して順位は第4位。新生チームとして臨んだ初のシーズンで、マリーゼは確かな手応えを得た。
 木村孝洋新監督のもと、チームは確実に成長している。「きちんとした練習のなかで培った運動量と気持ちが大切。我々はきちんと練習している、だから頑張れるんだという精神的な部分と肉体的な部分がうまく噛み合わさって試合ができた。練習では選手に自信を持たせるように、あるいはいいところを伸ばせるように」監督は声かけや指導を行ってきた。
 マリーゼはもともと、「YKK東北女子サッカー部フラッパーズ」として創部された名門チームである。その後、東京電力へ移管され、2005年から本拠地をJヴィレッジに移して再スタートした。LリーグではTASAKIペルーレFCとともに数少ない企業チームであり、24人の選手全員が寮生活を送る。
 選手達は、シーズン中はお昼まで仕事をこなし、午後は5時頃までチーム練習に集中する。その後は各自の体のケアや、補強トレーニングで汗を流す。午後8時頃になってようやく寮に戻る選手もいるという。日曜や祝日は試合。木村監督の方針で、週に一日は休みがあるとはいえ、サッカーへの純粋な情熱がなければなりたたないハードなスケジュールだ。ワールドカップの年、ジーコ・ジャパンの活躍が期待されているが、「なでしこ」達の思いも熱いのである。
Jヴィレッジスタジアムで開催されたLリーグ最終戦の宝塚バニーズ戦。マリーゼは3-0で快勝。入場者は4,266人。スタジアムはサポーターの熱い歓声に包まれた。
2005年丸山桂里奈選手はシーズン8得点を上げ、Lリーグ新人王とサポーターMVPを受賞。(写真左)
Photo by G.P.S.
 
スポーツ選手と健康管理
 Jリーグやプロ野球がそうであるように、オフシーズンは選手にとって貴重な休養の時期である。
 「選手達は体と心をいったんリセットすることになります。企業チームですから、シーズンオフは一日勤務になりますが、選手達は筋力を落とさないようにしなければなりません。けがをしている選手もいますし、リハビリ中の選手もいます。何よりも長いシーズンを闘う体づくりの大切な時期になります」
 サッカーは激しいスポーツである。その頂点にあれば、当然故障やけがも多くなる。それだけに選手達は自己管理への意識も高い。「選手にとって疲労回復やけが予防のためのマッサージやストレッチはとても大切です。体をつくる食事や栄養ももちろん大事。寮での食事は栄養管理士がメニューを立てていますが、自分である程度コントロールできるようでないと、選手としてやっていけません」
 トレーナーの立場から言えば、選手個々人がセルフケアのプロになってくれることが理想であり、そのためのサポートは惜しまない、と菊島トレーナーは言う。
 経験豊富な木村監督の指導のもと、選手達もそれぞれに自覚と自信を深めているのだろう。1月の自主トレを経て、現在はチーム練習が始まり、ウォーミングアップからパス交換、ミニゲームなどを行う。
 昨年は新生マリーゼ出発の年であり、基礎的なチームづくりが課題だった。1月から3月までの期間、木村監督は走り込みを重視、選手達に「試合は後半15分に勝負が決まるから、そこで相手を上回る運動量を確保しよう。だから今走るトレーニングをするんだ」、と言い聞かせたという。トレーナーとしてはけががないように練習前のチェックをし、テーピングにあたる。グラウンドでは選手達の動きを注視し、練習後のケアに取り組む。リハビリ選手に関しては別メニューを与えて練習を見守る。もしもけががあれば、チームドクターや専門医が診察に当たる。
 スポーツ科学の進歩も目覚ましく、科学的なトレーニングから栄養管理まで、最先端の研究成果には目を瞠るものがある。けれども基本にあるのは人間としての体であり、日々の生活習慣である。最近では寝たきりを防ぐ高齢者の「パワーリハビリ」が注目されているが、それもまた人間本来の体づくりの考え方に基づいているともいえるだろう。
 「例えばうがいや手洗いなどは、風邪予防としては当たり前すぎるかもしれませんが、風邪薬がドーピングなどの問題に発展してしまったら大変です。スポーツ選手は特別なことをしているのではないか、というイメージがあるかもしれませんが、そうではない。健康や体について一般の方よりも高い意識を持って日々きちんと実行している、と考えていただいたほうがより正確な理解に近いのではないでしょうか」
選手が試合後半の苦しい時間帯にも頑張れるのは、サポーターの皆さんの声援があるからだと思います。
写真は今回お話をうかがったマリーゼトレーナー・菊島良介さんと主務・山崎美由紀さんのお二人。選手達がサッカーに専念できるようサポートする。
 
日本一のサポーターとともに
 昨年は二人の選手がともに前十字靭帯(膝に四つある重要な靭帯の一つ)を切り、手術を受けた。その後リハビリに取り組んでいくわけだが、医師の指導のもと手術直後から体を動かして、なるべく選手としての体力や筋力を落とさないように心がけた。現在は練習にも参加できるようになり、「けがで手術をしてもまたサッカーができることを証明してくれている」という。チームとしての温かいサポートが選手達を支えているのだ。「チームにとってもこうした経験は貴重な財産だと思います」主務というスタッフの立場から選手達をサポートする山崎さんは言う。
 不安定なアルバイトをしながら生活し、サッカーをしている選手達に比べると、マリーゼの選手達は恵まれているのかもしれない。サポータークラブ会員はすでに4,000名を超えた。何よりもJヴィレッジのサッカー環境は素晴らしい。
 今期のチームスローガンはGo forward together(ゴー・フォワード・トゥゲザー)。サポーターの声援がピッチの選手達に力を与える。スタジアムを埋めるマリーゼサポーターとともに、2年目の飛躍へ向けて、闘いの幕が明ける。
 

2月7日のチーム練習初日風景。木村孝洋(きむら たかひろ)監督は1957年広島県生まれ。早大卒業後、83年にマツダ入社。同サッカー部で6年間プレーし現役を引退。95年より指導者の道を歩き始める。97〜99年にはユースチームを指導、2000年に日本サッカー協会の指導ライセンスS級を取得。01〜03年にサンフレッチェ広島のトップチームのヘッドコーチなどを歴任した後、04年にアーセナル(ロンドン、ベンゲル監督)にコーチ留学。帰国後の04年12月に東京電力女子サッカー部マリーゼ監督に就任した。


マリーゼ公式ホームページ
http://www.tepco-mareeze.jp/
ホームページには試合日程や選手紹介、試合経過を記録した動画ライブラリーも充実している。Lリーグ観戦は基本的に無料。
「マリーゼ」サポーター募集!
「マリーゼサポータークラブ」では、シーズン会員(2006年2月〜2007年1月)を募集している。オリジナルグッズの進呈、会報の送付など、魅力的な特典付。新規会員は2,000円、継続会員は1,500円。家族会員は1人1,000円。
申込は専用の申込書(郵便振替用紙)に、必要事項を記入のうえ郵便振込。詳細は、マリーゼホームページか、下記事務局窓口まで。
 東京電力女子サッカー部マリーゼ事務局
TEL 0240-26-0175
〒979-0513 福島県双葉郡楢葉町美シ森8番(Jヴィレッジ内)
Jヴィレッジは漁港として知られる小名浜から車で約1時間。レストランやカフェ、宿泊施設も充実し、日本代表やJリーグチームの合宿も行なわれる。そのレストランの総料理長・西シェフは、日本代表チームの海外遠征帯同シェフでもあり、ワールドカップではジーコ・ジャパンにも帯同予定。レストランでは、3/25〜5/7まで、ジーコ・ジャパン応援フェアとして、日本代表風バイキング等、サッカー日本代表にちなんだイベントを実施する。また、グラウンドでは「マリーゼ」の練習風景に出会えるかもしれない。
  
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