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「家族の方は?」
担当医にそう切り出されたとき、佐々木さんは足が、ガクガク震えたという。
「いえ、自分のことですから教えて下さい」
平成13年8月初旬のことだった。カルテに「本人告知済」と、丸い大きなゴム印が押され、甲状腺腫瘍と診断された。
健康が当たり前で、自信があった。症状もこれといって特になかった。
両親をがんで亡くしたこともあり、毎年の定期検診と人間ドックは、欠かしたことがない。しかし、がんは成長期に入っており、転移も心配された。もっと早く見つかっていれば…。
甲状腺4分の3と、リンパ節の摘出手術。翌年には転移が見つかり、甲状腺と副甲状腺を全摘、頚部とリンパ節摘出手術となった。その後、神経障害で、マッサージやリハビリ治療、昨年5月まで4年間の闘病である。体はもちろんのこと、精神面、経済面、家族への負担は計り知れないところがある。
ようやく快方に向ったことを自覚しつつ、昨年8月、術後外来で定期検査を受けた。翌日、異常なしの連絡に安堵。
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そんな折り、佐々木さんはPET健診を担当する仕事に出会い、いまの仕事に就いた。そのときPETを一度体験してみよう、と受診することにした。異常なしの連絡から10日後のことである。
PET検査は快適だった。ゆったりとした待合室で、健診の説明を受け、問診、静脈注射の後、安静に待つこと一時間、PET検査に入る。30分ほどベッドに寝ているだけ。事前の説明のとおり何の苦痛もない。そしてまた、40分ほどの安静で、すべて終了。
その後、医師の面談があり、診察結果の説明を受けた。
「右肺にFDGが集積しています。大きさは5から7ミリと思われます」
一瞬耳を疑った。10日前には異常なし、と言われたばかりでは…。しかし、その直後には逆に「これはラッキーなんだ! もしもこのままがんを見逃していたら…。ここで見つかって本当に良かった」と佐々木さんは思い直したと言う。肺への転移は想定内、覚悟はしていた。PET検査だからこそ見つけることができたのである。がんが小さければ、治療の選択肢もいろいろある。
その後、佐々木さんは仕事を続けながら各種検査を続けてきた。
もうすぐ、肺がんの治療に向けての第一歩が始まる。
「とにかく前進あるのみです」と語る佐々木さんは、今後一時的に入院し治療を行う予定だという。
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肺がんのPET検診の一例。左肺下葉にFDGの蓄積が見られる。画像提供は南東北医療クリニック。
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「がん」と診断を受けて気持ちが動顛しない方はいないでしょう。もしも自分がその立場に立ったとしたら、やはりパニックに襲われ、正確に医師の話を受け止めることもできなくなってしまうかもしれません。
けれども、告知の内容をきちんと理解することは何よりも必要なことです。早期発見できるということは、早期に治療に着手できる、ということを意味しているわけですが、治療方法についても最善の方法を冷静に判断し、選択する時間を得られるということも意味しています。
手術、放射線、化学療法、あるいはそれ以外の方法。選択肢はさまざまです。もちろん、がんの種類や進行の度合いによって、ある程度、選択肢は決まってきますが、早期発見はその選択肢を広げてくれることにもつながるのです。
肺がんの場合、早期で発見できれば根治のための外科手術が可能です。しかも切除する部分を可能な限り小さくし、肺を温存できます。内視鏡でその手術を行うこともできますし、レーザーを使う手術もあります。
年齢や体調などに配慮しながら専門医の判断とアドバイスをもとに、こうした治療方法を選択することになるわけです。
もちろん、早期に治療に着手できれば、体力も充分であり、回復が早くなることも指摘しておきたいところです。
治療法選択にあたっては、ご自身の疑問や希望を、思いきって医師にぶつけてみることも大切です。
最後になりましたが、 本紙のために、貴重なお話しをして下さった佐々木さんに、心からの感謝と声援を送りたいと思います。 |
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PET
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Positron Emission Tomography
陽電子放射断層撮影装置
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PET検査は一度で全身のスクリーニングを行えるため、がんの転移の有無などの診断にも力を発揮します。 |
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