決してあきらめない! 「第4の治療法」に高まる期待
 

がん治療の最前線 免疫(細胞)療法

体にやさしい治療法を目指して
QOL Quality of Life 「生活の質」 重視のオーダーメイド治療


 
 PET(ペット)を駆使したがんの早期発見と陽子線治療装置の導入で「がん治療の拠点」としての役割を担う当財団では、「第4の治療法」として注目を集める「免疫療法」と「温熱療法(ハイパーサーミア)」への取り組みを進めています。その第一人者として知られるのが照沼裕先生。すでに当財団関連の「東京クリニック」と「東京クリニック丸の内オアゾ」では両者を併用するがん治療を行ってきましたが、郡山市の総合南東北病院でも照沼先生を中心にした「免疫療法」と「温熱療法」による治療が始まりました。今回は「がん治療の最前線」として、照沼先生のレポートをベースに、期待される「第4の治療法」について、その概略をご紹介してみたいと思います。
照沼 裕(てるぬま・ひろし)先生
Dr. Hiroshi Terunuma
東京クリニック丸の内オアゾ
免疫・温熱療法科、
日本バイオセラピー研究所所長、
東北大学医学博士、
山梨医科大学講師
肺がん、大腸がん、乳がん、子宮・卵巣がん、
肝がんなどの進行がんの患者さんに
細胞免疫療法と温熱療法を併用してみて、
私たちは良好な結果を得ています。
【写真:高周波加温器サーモトロンRF8】
 今までのがん(悪性腫瘍)の治療法は手術、化学療法、放射線療法という三大療法が中心です。これらの治療法の重要性は今も変わりませんが、体への負担が大きく、副作用が強い場合もあり、患者さんにとってつらい治療法となるケースも多いようです。
 特に、進行がんの場合には、抗がん剤の大量投与や放射線の大量照射による負担で、結果的に寿命を縮めてしまう場合もあります。また、これらの治療法では対応できなくなり、患者さんの気持ちとは無関係に主治医から治療の中断を宣言され、転院を迫られたといった話も聞かれるのは、とても残念なことです。しかし、そのような場合にも有効ながんの第4の治療法として注目されているのが免疫療法(または免疫細胞療法)です。
 免疫(細胞)療法は、患者さんの低下した免疫力を高めて、患者さんの体内の異常細胞(がん細胞、ウイルス感染細胞など)を排除しようとするもので、副作用の少ない体にやさしい治療法です。薬や放射線の量も減らすことができ、外来での治療も可能となることから、QOL(生活の質)が良好に保たれるというメリットもあります。
 さらに、ほかの療法と併用させ、初期がんでも末期がんでも全身的に総合的な治療を行える利点があり、転移や再発の予防や、痛みの緩和といった効果も期待されています。
免疫療法と温熱療法
 科学的な視点からこの免疫療法が注目されるようになったのは20年ほど前からのようです。
 自己の防御機能を持つ免疫力を高めてがんを治療するというのは一般に理解しやすいようですが、どのような分子ががん細胞上のどのような分子を抗原として認識して反応するのか、そのメカニズムは分かっていませんでした。
 ようやく1991年、T・Boonらによりメラノーマの患者さんの体内に、がん細胞を認識し攻撃するTリンパ球(CTL)が存在することが明らかにされ、ヒトのがんに対する免疫排除機構が明確にされたのです。
 その後、がんと免疫に関する研究は目覚ましい進歩をとげ、多くの臨床研究とともに良好な結果が報告されています。
 一方、温熱療法と呼ばれるハイパーサーミアとは、「がん細胞」が熱に弱い、という特性を利用する治療法です。ところが仮に高温のサウナに入っても人の体温は38℃位までしか上がりません。そこで、局所的に高周波で加温してがんの部位を43℃位まで上げてやることで、がんの進行を抑止したり、がんを死滅させたりするのです。
 高温になることで免疫の力も強化されます。ですから、これを免疫療法と併用することで、がんを攻撃する効果がさらに高まることになるのです。
 東京クリニックと郡山市の総合南東北病院では健康保険で適応となっている唯一の高周波加温器であるサーモトロンRF8(温熱療法)を導入し、免疫細胞療法や低用量抗がん剤と併用することで、安全でQOLを重視した日帰り治療を行っています。
オーダーメイドのがん治療
 患者さんのそれまでの治療歴やがんの状況、現在の体調などによって、免疫細胞療法やハイパーサーミアをどのように行っていくかは、一人ひとり違ってきます。特に、がんの標準治療や低用量抗がん剤をどのように組み合わせていくかは重要なポイントです。東京クリニックはじめ、総合南東北病院では、それらの諸条件を検討しながら、それぞれの方に最適なオーダーメイドの治療を行っていくことを目指しているのです。
◆免疫(細胞)療法について
 がんの免疫細胞療法には、NK(ナチュラルキラー)細胞療法、CTL(細胞傷害性Tリンパ球、キラーTリンパ球)療法、DC(樹状細胞)療法、活性化Tリンパ球療法などがあります。いずれも免疫系全体を活性化しますが、最終的にがん細胞を傷害するのはNK細胞かCTLのどちらかです。残念なことに、これらの免疫細胞療法も、現在ではまだ保険外診療となります。
 がんの治療を行う際には、がん細胞を攻撃するための正の免疫(NK細胞やCTLなど)を強化するだけでなく、負の免疫(抑制性Tリンパ球など)をいかに弱めるかも大切なポイントとなります。
◆NK細胞療法
 NK細胞は、初期の生態防御機構において重要な役割を果たしており、抗原の感作なしに腫瘍細胞、ウイルス感染細胞などに対して、強い細胞傷害活性を示すことが知られています。子供の頃には体内に比較的多く存在していますが、加齢に伴いその数は減少し、がんにかかる率も上がっていきます。現在、我々は、科学的理論、根拠に裏付けられた研究のもとで、体外で高活性、高純度のヒトNK細胞の大量増殖、培養方法を確立しました。これにより誘導したNK細胞で、がんを治療する基礎研究、臨床医学応用によるがんの免疫治療を行っています。
 NK細胞療法は、患者さんから血液を採取し、刺激、活性化し、数億〜数十億個の自分自身のNK細胞に増殖させ、生理食塩水に溶かして再び静脈から患者さんの体内に戻すという治療です。
 治療期間は患者さんの症状により異なりますが、基本的に3ヶ月で6回の投与治療が1クールになります。
◆樹状細胞(DC)療法(+リンパ球大量療法)
 Tリンパ球は1個1個、認識できる相手(抗原)が限定されています。したがって、がん患者さんの血液中にたくさんのTリンパ球が存在してもがん細胞を傷害できるCTL(細胞傷害性Tリンパ球)はほとんど存在していません。そこで、がん細胞を傷害できるようにTリンパ球を教育してCTLを誘導するのが樹状細胞です。
 樹状細胞療法は、樹状細胞を体外で培養、誘導して約1週間後に注射し、体内でCTLの誘導を試みる治療法です。通常は成分採血にて充分量の単核球を採取し、そこから単球を分離し、体外で単球由来の樹状細胞に分化させます。最後に、標的とする相手を決めるための処理を行って注射をします。樹状細胞を準備する際に、同時に大量のNK細胞も準備できますので、樹状細胞療法の場合には、NK細胞療法も同時に行います。
 治療期間は基本的に3〜4週間に1度ずつ、4〜6回行います。
◆CTL(細胞傷害性Tリンパ球)療法
 CTL療法は、患者さん自身の腫瘍抗原特異的なCTLを体外で誘導して体内に戻す治療です。この治療はがんの治療法として大変強力で、がんの再発予防にも進行がんの治療にも有効であると考えられます。このCTL療法を強力に行うには、自己由来の生きたがん細胞をあらかじめ体外で十分な数に増やすことが必要ですが、がん細胞の培養には時間がかかり、その成功率は現在10〜30%です。
 我々は、患者さん自身のがん細胞を含む体液(胸水・腹水など)や組織(手術での摘出組織など)から高い成功率でがん細胞を増やす方法を検討しています。がん細胞が増殖できた場合には、成分採血(アフェレーシス)を行い患者さん自身のがん細胞に対するCTLを体外で誘導して治療を行えます。また、細胞バンクのがん細胞を使って患者さん自身のリンパ球からCTLを誘導して治療を行うことも可能です。
◆活性化Tリンパ球療法
 多数の施設で広く使用されているリンパ球療法です。がん抗原特異的なCTLを誘導しているわけではないので、その作用機序は不明です。活性化したTリンパ球から産生されるサイトカインやT細胞の培養時に混入しているNK細胞により免疫が活性化することで効果が出るのではないかと考えられます。
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