PET健診 最前レポートH
早期発見なら内視鏡の治療でほぼ完治するという食道がん。
けれども転移しやすい怖さもあり、早期発見が大切です!
 
食道がんを知る[Part2]
がんの治療とその周辺

 
 前号でレポートした通り、転移が起こりやすいといわれる食道がんですが、ごく早い段階で見つけ、内視鏡的粘膜切除術を行えばほぼ100%完治するという報告があります。50歳を過ぎたら、やはり毎年検診を受けることが大切です。今回は食道がんを通して、がんとその有効な治療法について考えてみたいと思います。
がん治療の指標 5年生存率について
 5年生存率という言葉を耳にしたことはないでしょうか。がん治療の有効性を示す代表的な指標ですが、どこか言葉の上の誤解もあって、その値が小さいと、とても気落ちしてしまわれる方が多いようです。
 けれども、同じがんでも統計に含める対象の選び方や算出方法の違い、国籍、習慣などによって数値は変わることが多く、がんの進行の度合いによっても大きな違いが生じます。何よりも個々人の体の状態はそれぞれに異なるわけですから、がんの治療にあたっては、生存率の数字だけで悩まず、前向きな気持ちが何よりも大切です。
 5年生存率とは、がんが発見され、治療が開始されてから5年後の生存率を、統計的に示したものです。
 一般に、多くのがんでは、治療開始から5年間再発がなければ、治癒したとみなされています。ただし、乳がんなどでは5年よりも10年という単位で治療効果を判断することが多いようで、単純に生存率を比べることはできません。
 近年、がんの診断や治療が目覚ましい進歩を果たしたことや、早期発見、早期治療の成果として、現在では、がんの生存率も大幅に向上してきたそうです。国立がんセンター中央病院の統計によれば、1960年当時2割程度だった生存率が、現在は6割にまで上がっています(下表参照)。不治の病として怖れられてきたがんは、治る病へと変わりつつあるのです。
(国立がんセンター中央病院の統計から)
食道がんも早期発見が第一
 さて、前号で食道がんとその症状、検査方法について概略をご紹介しましたが、日本人に多い食道がんの実に9割以上が扁平上皮がんといわれています。これは、扁平上皮細胞と呼ばれる食道の粘膜から発生するがんです。同じ食道がんでも、アメリカで多いのは腺がん。これは腺上皮細胞から発生し、胃液の逆流が原因ではないか、とも考えられているようです。
 こうした食道がんは早期発見による早期治療によってほぼ完治するという報告があります。0期のがんでは内視鏡を使った粘膜切除術(口から内視鏡を挿入し、がんを切り取る手術)が一般的ですが、その5年生存率は100%です。つまり、検診を上手に利用すれば、食道がんは治るということになるのです。
 けれども、食道がんは転移しやすいがんですから、早い段階で治療に着手することが望まれます。病期が進むにつれ、治療は難しくなることを忘れてはいけません。
 食道がんの病期は、進行の度合いによって0〜W期に分けられます(下図参照)。治療法の進歩によって、外科的手術だけでなく、より体に負担の少ない内視鏡的粘膜切除術や放射線化学療法などの非外科的治療が行われるようになり、治療成績も上がってきているそうです。
 放射線化学療法とは、抗がん剤治療とX線などの放射線治療を組み合わせて行うもので、もともとは外科的な手術が難しい患者さんを対象とするものでしたが、最近ではそれ以外の方にも行われ、QOL(生活の質)を重視する治療法として標準化してきました。
 一般にがんの治療法として挙げられるのは、こうした外科的治療、放射線治療、化学療法です。最近ではさらに、第4のがん治療法として温熱療法、免疫治療にも注目が集まっています。いずれにせよ、それぞれの臨床成果を踏まえ、患者さんの意向やQOLを考慮しながら、治療法が選択されることになります。
食道がんの病期と主な治療法
病期 主な治療法 5年生存率
0期 内視鏡的粘膜切除術 100%
T期 外科手術あるいは放射線化学療法 80%
U期 外科手術あるいは放射線化学療法 50〜60%
V期 外科手術あるいは放射線化学療法 30%
W期 放射線化学療法・放射線療法・化学療法など 20%
(国立がんセンター中央病院の統計から)
PET検査は原発巣のほか、リンパ節や他の臓器への転移を一度にチェックできる
ことから、診断だけではなく、治療中、治療後の再発・転移の有無の検査にも
利用される。
QOL重視の陽子線治療
 ところで、一般財団法人脳神経疾患研究所では、来年10月から陽子線治療が始まります。これは放射線治療の一種で、最新の科学を応用した新しいがん治療法として期待されているものです。
 陽子線は、特定の部位だけに集中して照射可能であり、そうした局所でエネルギーを最大にできる特長を持っています。そのため、旧来の放射線治療では体への影響から十分な線量でがんを叩くことができなかった場合でも、周辺臓器に影響を与えずに効果的な治療を行うことができるのです。
 各種研究機関での陽子線治療による臨床試験によれば、食道がんでも、早期からU期の進行がんで良好な結果が得られているという報告があります。
 陽子線治療には大きな期待が寄せられています。副作用の心配が少なく、特に外来でがんを直すことができることから、がんの治療中でも通常の日常生活を送ることができ、大きな恩恵といえるかもしれません。
 けれども、やはりがんは生活習慣の見直し(1次予防・禁煙など)と、早期発見(2次予防)が第一です。定期的ながん検診を上手に利用していきたいものです。

(この記事は、あくまでも一般的な理解を目的にまとめています。実際の症状や治療法は個々人で異なります。健康が気になる方は、まず、検診や医療機関での受診をご検討下さい)
 
PET画像。矢印部分に食道がんおよび
リンパ節転移が認められる。
(日本核医学会・社団法人日本アイソトープ
協会発行の「PET検査Q&A」から転載)
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