「脳ドック」で早期発見・早期治療を 予防医学の視点から
 
「脳ドック」を知る 40歳からの健康診断
脳の病気で死なないために

 
世界TOPの脳神経外科医として難手術に立ち向かい、2万人にも及ぶ命を救ってきた福島孝徳ドクター。少しでも脳の病気で亡くなる人を減らしたいと、「脳ドック」の黎明期からその有効性をいち早く主張してきました。そもそも「脳ドック」という言葉も、1992年に刊行された福島先生の著作で初めて使われた言葉。その4年前に日本で誕生した「脳の人間ドック」を短く表現したものだそうです。このコーナーではそんな福島先生の著作とお話をもとに「脳の」病気と「脳ドック」の意義についてレポートします。
「脳」の病気と「脳ドック」
 脳ドックとは、脳の中で起きている変化を事前に検査して、脳卒中などに襲われる危険性を避けるための予防検診のシステムのこと。検査機器の誕生と発展とともに歩みを進めてきました。それまでは開頭してみるしかなかった脳の検査が、何のリスクもなく、脳の断層撮影と血管撮影が行われるようになったのです。ここ十数年のことです。
 脳ドックがターゲットとするのは、主に脳血管の障害、つまり脳卒中です。くも膜下出血の原因となる脳動脈瘤や、脳の血管がつまり脳の組織が死んでしまう脳梗塞などの発見に威力を発揮してきました。もちろん脳腫瘍の有無も確認します。
 こうした脳の病気も、早い段階で発見できれば、問題はなくなります。脳ドックの有効性はまさにそこにあります。90から95パーセントの確立で、悪いところは確実に発見できるのです。
血管の病気の予防は生活習慣の見直しから
 脳卒中と心臓病などの血管の病気を合わせて循環器病と総称しますが、やはり高血圧、高コレステロール、たばこ、糖尿病、肥満が共通する危険因子です。
 脳は壊れてしまったら、元に戻りません。生命の危険や重大な後遺症にも直結しかねない脳卒中、大梗塞、大出血といった大きな発作が起こらないように、日頃から生活習慣に注意することが大切です。バランスの取れた食事をきちんと摂ること。規則正しい生活を送ること。無理をしないこと。適度な運動をすること。お酒はほどほどにすること。こうしたことを励行し、あとは高血圧を管理し、体質を改善する。小さな発作があったら、必ず予防薬を飲むこと。
 脳動脈瘤に関しては、とにかく早期発見です。原因については先天的素質とか、血液の流れとか、いろいろと挙げられてはいますが、どうしてできるのか、いまだに分かっていません。それでいて、脳動脈瘤は、決して珍しい病気ではありません。100人に2人か3人の割合で、発見されているのです。何よりもまず肝心なのは脳ドックで、破れる前に発見して処置することです。小さなものが見つかったら、専門医の判断を仰ぎましょう。慎重に経過を追う必要があります。瘤が拡大したり、破砕の危険性が高い場合はクリッピングや、カテーテルを使ってコイルなどをつめる治療法があります。
高水準でリーズナブルな日本の「脳ドック」
 現在の脳ドックは、ミリ単位の脳梗塞を画像診断する「MRイメージング(MRI・磁気共鳴断層撮影)」や、脳動脈瘤を描出する「MRアンジオ(MRA・磁気共鳴血管撮影)」などを使用した検査がメイン。このほかに、動脈硬化をチェックする頸部の超音波検査や、血液検査、心電図などの検査が含まれています。
 「こうした脳ドックは自費診療の扱いになります。日本では3万円から5万円ほどですが、アメリカでは脳ドックだけで1000ドル、MRAまでやると2000ドル。日本の受診料がいかにリーズナブルかが分かるでしょう。にも関わらず、日本の医療は最高です。ですから、日本人は世界的低価格医療のメリットをもっと認識し、脳ドックを活用してほしいと思います。1年か2年に一度は脳ドックを受けたい。自分の体を守るためです。定期的にチェックすることを忘れないで下さい」
この文章は、主に西村書店刊「脳ドック」(左掲載・田辺功共著)をもとにまとめています。
本書は一般に分かりやすく書かれた解説書で、脳の病気や治療法についても詳しく紹介されています。
関心のある方は是非ご一読下さい。

福島孝徳先生に関する著書から
「福島孝徳 脳外科医 奇跡の指先」(PHP研究所)
「ラストホープ 福島孝徳」(徳間書店)
「40才からの頭の健康診断 脳ドック」(西村書店)
Dr.福島孝徳 (ふくしま・たかのり)プロフィール
1942年東京生まれ。
68年東京大学医学部卒業後、同大学医学部附属病院脳神経外科臨床・研究助手に。ベルリン自由大学(独)Steglitzクリニック脳神経外科研究フェロー、メイヨー・クリニック(米)脳神経外科臨床・研究フェローを経て、78年から東京大学医学部附属病院脳神経外科、80年から三井記念病院脳神経外科部長を務め、頭蓋底のキーホール・オペレーション(鍵穴手術)を確立し、世界的エキスパートとなる。
1991年南カリフォルニア大学医療センター脳神経外科教授に就任。ペンシルベニア医科大学アルゲーニ総合病院脳神経外科教授、アルゲーニ脳神経研究所頭蓋底手術センター部長を歴任。世界を駆け巡りながら、後進のための頭蓋底手術実習セミナーを主催。98年カロライナ頭蓋底手術センター所長および脳外科教授に。
現在、カロライナ脳神経研究所及びカロライナ耳研究所共同所長、デューク大学とウエストバージニア大学の教授を務め、スウェーデンのカロリンスカ研究所、フランス・マルセイユ大学の教授、ドイツ・フランクフルト大学の教授も兼任。
日本では南東北グループの東京クリニックなどを拠点に活動している。
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