陽子線治療とは?
『南東北がん陽子線治療センター』
オープニングガイダンス

 
 
2008年10月、『南東北がん陽子線治療センター』でいよいよ陽子線治療が始まりました。がん医療の歴史に大きな足跡を刻むものとして、がん治療に関わる専門医や研究者はもとより、世界が注目する陽子線治療とはどのようなものか、今回はそのポイントを分かりやすくまとめてみました。
 
ピンポイントでがんを狙い撃つ陽子線治療の特徴
 
陽子線は、がん病巣だけをねらいうちするので…
正常組織への損傷が少なくなります。
放射線の影響を受けやすい器官の近くにあるがん細胞にも照射できます。
患者さんの体への負担が減ります。高齢者にも優しい治療法です。
治療後の社会復帰に支障をきたさない治療法です。
 
 体に傷をつけずに、がんを治療する。手術せずに手術と同等か、あるいはそれ以上の治療成績を得る。その上、がん病巣以外の正常組織にはダメージを与えず、副作用もない。治療中も普段と変わらない生活ができる。そんな夢のようながん治療を実現させようとするのが陽子線治療です。  
 従来の放射線はがん病巣に達するまでに、身体の表面に近い正常細胞にもかなりの影響を与える一方、がん病巣のところでは減弱し、本来の効果を十分発揮できないという弱点がありました。  
 陽子線(粒子線)治療は、体内のある深さにおいて、放射線量がピークになる特性を持っています(ブラッグピーク)。  
 ピークの位置をがん病巣に一致させて照射するので、陽子線は正常な細胞にはほとんど影響を与えず、がん細胞に到達します。正常細胞への損傷を低く抑えながら病巣だけに集中照射ができるのです。  
 陽子線(粒子線)の優れた点はそればかりではありません。がん細胞に対する治療効果も大きいのです。  
 陽子線が体内に照射されると、がん細胞の核の中にあるDNAにあたります。陽子線は、DNAに直接的あるいは間接的に傷害を与え、がん細胞に損傷を与えます。  
 このとき、従来の放射線は二重螺旋構造を持つDNAの一方を切断するのですが、陽子線はその両方を一度に切断する確率が高いのです。ですから、従来の放射線では生き返ってしまうがん細胞に対しても、陽子線は大きな効果が期待できるわけです。  
 これらのことから、陽子線治療は正常細胞への障害が少なく、治療効果が高い、今までにない治療法として期待されているのです。
 
 
治療手順 
放射線治療計画システムXiO-M(エクシオ) CT・MRIのデータを元に3次元の線量分布を作成し治療計画をシミュレーションする
1 準備 
(1)固定具作成…体を固定するための固定具を作成。
(2)CT、MRI撮影…固定具を装着し、CT、MRI検査を行う。
2 計画
(1)治療計画…病巣の位置を確認し、最適な照射方法を検討。
 
3 リハーサル
(1)リハーサル…治療開始の前日に実施の治療室で予定通りの治療が出来ることを確認。
(2)治療装置…陽子線を照射する装置が治療計画通りに動作することを確認。
(3)治療寝台…治療寝台が治療計画通りに動くことを確認。
(4)計画装置…陽子線を照射する範囲が計画通りであることを確認。
 
4 治療
(1)治療計画時の位置に患者さんが位置するように照射毎に微調整。
(2)正確な位置に患者さんが位置した後、陽子線を照射。
 
5 確認
(1)治療後にPET-CTで陽子線照射された部分を確認し、陽子線が目的病巣に治療計画通りに照射されていることを確認。 ※1回の陽子線照射時間は2〜3分程度。位置合わせなどを含めても30分前後。治療期間は現在のところ4日から、最も長い前立腺がんで約8週間(37〜39回の照射)。
 
 
 
陽子線治療装置のメカニズム
 
(1)直進加速器 (2)シンクロトン (3)陽子線輸送経路(各照射室へ)
 
(4)回転ガントリー (5)回転ガントリー照射室
       (第1.第2室)
(6)水平照射室(第3室)
 
 がん治療に利用される放射線は、大きく光子線と粒子線の2つに分けられます。  
 光子線とは、光の波であり、X線・γ(ガンマ)線など従来の放射線治療に利用されています。それに対して、粒子線は水素や炭素の原子核を利用した放射線です。  
 陽子線は粒子線のひとつで、水素原子から電子をはぎとった、正の電荷をもった粒子(イオン)です。 この陽子を、加速器を使って光の速さの約70%まで加速すると、高エネルギーで透過力の大きい電離放射線となります。これが陽子線であり、病巣に正確に照射可能なため、がん治療への応用が進められてきました。  
 陽子を加速する加速器は従来は巨大なものでしたが、物理工学の飛躍的な発展とともに小型化が可能となり、医療用に特化したものがつくられました。
 南東北がん陽子線治療センターに導入されたものは、静岡がんセンターで安定した運用実績のあるものをベースに、さらに改良が加えられた最新型の装置で、設計から保守管理までを三菱電機(株)を中心としたプロジェクトチームの専門家たちが担っています。  
 原料となる水素はプラズマ放電によって電子がはぎ取られ、原子核だけが直線加速器(1)で加速されます。次に周長20mの円型加速器・シンクロトロン(2)でさらに加速され、約70mの輸送経路(3)を通って各照射室(治療室)へ分配されます。  
 陽子線の照射室は、回転ガントリー(4)という360度回転可能な200トンに及ぶ機械で方向を制御しながら照射する『回転ガントリー照射室』(5)が2室と、そのまま水平に照射する『水平照射室』(6)が1室の合計3室です。 
 
 
がん医療の最前線
 これまでなかなか効果があがらなかったがんに対しても、陽子線(粒子線)照射は優れた治療成績を示すことが明らかになりつつあります。各地で臨床試行が実施されるなかで、将来的にはその適応範囲が拡大されていくことが期待されています。
陽子線治療の実際
81歳女性 肝臓がん(T2N0M0)
76GyE/20fr/5w
2GyE換算すると88〜126GyE
治療後、次第にがん消えていくのが分かる。
(兵庫県立粒子線医療センター院長・菱川良夫先生ご提供)
 
 米国や日本をはじめ、世界各国で陽子線(粒子線)のポテンシャル(可能性)を最大限に発揮する新しいがん治療法の開拓と確立へ向けた研究が進められています。  
 南東北がん陽子線治療センターでも、先行する医療機関での臨床成果やリニアックでの治療実績をもとに、がん治療の前進へ向けた様々な取り組みが進められることになります。
 
 
陽子線治療の対象と考えている対象例
●悪性脳腫瘍・目の悪性腫瘍
●頭頚部癌(T3(2)〜4N0M0)、照射後の限局した再発例
早期肺癌(T1〜2N0M0)、特にGGO例、低肺機能例
●進行肺癌(T3〜4N0M0)、リンパ節転移があっても原発巣と1塊あるいは近接し、腫瘍径が8cm以内である例
●転移性肺癌、原則は1ヶで腫瘍径が5cm以内である例
●縦隔腫瘍(胸腺癌、悪性リンパ腫)
●食道癌(T1〜3N0M0)、リンパ節転移があっても原発巣と近接し、腫瘍長径が10cm以内である例
肝臓癌、原則は1ヶで腫瘍径が8cm以内である例
●転移性肝癌、原則は1ヶで腫瘍径が8cm以内である例
前立腺癌(T1〜3(4)N0M0)
●直腸癌骨盤内再発例
●小児腫瘍
※有効性が確認されている腫瘍については赤色で示しています。
 
 
陽子線治療計画時のCT画像(左)とPET-CTによる照射部位の確認画像(右)。陽子線ビームの照射が治療計画通りに行われているかを確認する。確認専用のPET-CTは世界でも初めての導入となる。
 
 
南東北がん陽子線治療センターでの新たな取り組みについて
●陽子線の腫瘍への集中度の高さを生かした進行癌への適用による局所制御の改善と副作用の軽減による治療成績の改善
●化学陽子線療法(脳、頭頚部、肺、食道癌)の確立
●進行舌癌に対する選択的動注療法と陽子線治療の併用療法の確立
●肝癌に対する免疫療法(活性リンパ球療法)併用陽子線治療の確立
●早期肺癌例に対する1〜2日での短期照射法の確立
●照射野確認のための専用PET-CTの導入
●21時頃までの夜間照射の実施
 
 
費用について 
 治療費は自由診療の扱いで、患者さんご自身の負担で税込み300万円となるほか、室料及び食事代も自己負担となります。尚、当センターでは、条件が整い次第、2009年春を目処に先進医療施設としての申請を行う予定で、認定されますと陽子線治療費以外の費用は室料を除いて、医療保険の適用となります。  
 治療費に関しては、国内で先行する国公立の施設とほぼ同額に設定されています。
 
 
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