「一般財団法人 脳神経疾患研究所 附属 総合南東北病院」を核とした「南東北病院グループ」は、東北3県(福島県・宮城県・青森県)と東京都に医療施設と介護老人保健施設などを50か所以上展開する医療・保健・福祉の一大総合グループです。昨年10月には「南東北がん陽子線治療センター」を開設、わが国の民間医療機関として初めて陽子線治療を開始しています。今回は、渡邉一夫理事長への取材記事(Vita/No.106号)をもとに、注目を集める南東北病院グループについて俯瞰し、開院の経緯から、医療理念、そして将来への展望などについてレポートします。
空から見た総合南東北病院とその周辺。A.中央棟, B.西棟,C.東棟, D.南棟, E.西新棟, F.北棟, G.南東北医療クリニック, H.南東北眼科クリニック, I.南東北がん陽子線治療センター, J.介護老人保健施設ゴールドメディア, K.たんぽぽ保育所, L.訪問看護ステーションゴールドメディア・居宅介護支援事業所

一般財団法人 脳神経疾患研究所 附属 総合南東北病院とその周辺

東北病院」グループは、渡邉一夫理事長が1981年12月に福島県郡山市に開設した、病床60床の「南東北脳神経外科病院」に始まる。以来、4半世紀にわたって東北地方の医療と保健・福祉向上に尽力してきた。今日では東京にも展開し、関連施設は50か所を超えている。
 その内訳は医療施設14か所、介護老人保健施設6か所、特養老人ホームや身体障害者療護施設などの福祉センター3か所、通所リハビリテーションセンター12か所、訪問看護ステーション7か所、居宅介護支援事業所9か所である。そして、08年7月には福島県三春町に介護老人保健施設が、10月には「南東北がん陽子線治療センター」が新たに開設され、2012年春には神奈川県川崎市麻生区に首都圏診療の拠点となる377床の総合病院「新百合ヶ丘総合病院」を開設する予定である。
 グループの中核、「附属 総合南東北病院」は中央棟、東棟、西棟、西新棟、南棟、北棟の6棟で構成され、診療科目は31科、病床430床で、職員数が約1,000人である。外来機能は関連施設である「南東北医療クリニック」「南東北眼科クリニック」が主に担っており、同病院の分も合わせて1日平均1,000人超もの外来診療が行われている。入院患者の平均在院日数は13.5日であるが、病床の回転率は99.6%という。
総合南東北病院について
央棟は地下2階地上4階の建物。地下1階に予防医学研究センター(人間ドック・健康診断)が設けられており、地上1階には総合サービスステーションとして総合受付、会計、薬局、医療相談課などが設置されている。2階と3階は病棟となっており、4階にはICUが配置されている。
 東棟と南棟は地下1階地上4階の建物。地上1階には外来診察室の他に救急センターやレントゲン室、CT室やMRI室、内視鏡室、体外衝撃波結石破砕治療室、脳波検査室などが配置され、2階と3階は病棟になっており、4階に手術室がある。
 西棟も地下1階地上4階の建物で、地下1階には総合リハビリテーションセンターと神経心理学研究部門がある。地上1階は通所リハビリテーションセンターと医療安全管理室だ。2階が病棟と特浴室で、3階と4階は医局である。
 西新棟は地下1階地上3階。地階には放射線部門が集まり、放射線診断センターと放射線治療室、アフターローディング照射室がある。地上1階には画像診断読影室、透視室、生理検査室、RI室、アンギオ室が配置されている。2階は通所リハビリテーションセンター、3階は透析センターとなっている。
 同病院で一番高い北棟は、地上7階の建物。2階から5階までが病棟で、1階には周産期医療センターと階段教室型で照明・音響設備を完備したNABEホールが設けられている。
た、ヘリポートを備えた「南東北医療クリニック」と「南東北眼科クリニック」、「南東北がん陽子線治療センター」が同病院に隣接し、介護老人保健施設「ゴールドメディア」や訪問看護ステーション「ゴールドメディア」、居宅介護支援事業所、「たんぽぽ保育所」もすぐ近くにあり、福島県下最大規模の医療・保健・福祉センターを形成している。

開業の目的と経緯 脳卒中克服へ向けて

南東北病院グループ理事長

一般財団法人脳神経疾患研究所 附属

総合南東北病院 総長

渡邉一夫 先生

Dr.Kazuo Watanabe

団法人 脳神経疾患研究所」が掲げる理念は、「PRO VONO AEQUNOROSA」。これはラテン語で、その意味は「すべては、患者さんのために」である。「つまり、病院とか医師、医療関係者の存在意義は患者さんのためでしかないのです」(渡邉一夫理事長)ということだ。そしてこの理念のもと、渡邉一夫理事長は1981年に開業し、脳神経外科の専門病院をスタートさせた。当時の病院名は『南東北脳神経外科病院』である。
 渡邉理事長が脳神経外科医を志したのは、「死亡率が日本一高い脳卒中を解決したかった」という思いからであった。現在、わが国の死亡原因の第1位はがんであるが、4半世紀前までは脳卒中が発症率、死亡率とも一番高かった。脳卒中の治療は「時間との勝負。直ぐに治さなければならない」という理事長。明日まで待ってとか、予定や予約がなければなどというのは論外で、患者さんが搬送されて来たならば、直ぐに治療を施さなければならないのである。
邉理事長は、当時、世界一脳卒中患者が多かった秋田県で、脳卒中治療を学んでいる。その頃の秋田県は脳卒中患者が多いこともあって、秋田脳血管研究所(現秋田県立脳血管研究センター)が、脳卒中治療の日本三大メッカの1つであった。理事長は、同研究所で脳神経外科医として研鑚に励んだということだ。
 その後、秋田大学医学部に秋田脳血管研究所から移った教授によって脳神経外科講座が開設されたが、若き日の渡邉理事長もそれに参加されている。しかし、大学での脳卒中治療には限界があったという。
 大学医学部での脳神経外科は、医局の中の一部分に過ぎないためにやれることは限られてしまい、脳卒中患者を助けたいと思っても、「直ぐに診察できないし、手術もできず、直ぐに救急車でも運び込めない」という制約が多々あったという。
 そこで、「大学にいても本当に脳卒中を解決することはできない」と考えて大学を退職。公的病院などでの勤務医を経験した後、「すべては患者さんのために」を実現するために、開業医になることを決意したのである。

新治療法「粒子線治療」 南東北がん陽子線治療センターの稼働へ

陽子線シンクロトロン

回転ガントリー照射室

水平照射室

入院個室

2008年10月、地下1階地上4階建て、病床19床を備えた「南東北がん陽子線治療センター」が本格稼働した。
 救急医療と高度先進医療、在宅医療が総合南東北病院の3つの柱であるが、高度先進医療の主なものは脳卒中とがん、心臓血管病だ。その中でもがんは日本人の死亡原因のトップであり、これを何とかしなければならないと考えたのが「南東北がん陽子線治療センター」開設の大きな目的であった。
 がん治療の三大治療法といわれるのは外科手術と抗がん剤を使用した化学療法、放射線治療だ。その他には、この三大治療法と組み合わせて行われる免疫療法や温熱療法、血管内治療法などがある。
放射線治療について
ん治療に使われる放射線には、大きく分けて光子線と粒子線があり、従来の放射線治療に使われているX線やガンマ線は光子線だ。粒子線はその名の通り、水素や炭素の原子核などの粒子を利用した放射線で、特に陽子線と重イオン線を用いた治療が「粒子線治療」と呼ばれている。同病院のがん陽子線治療センターで行うのは、陽子線を用いた放射線治療であり、わが国では民間医療機関初の施設でもある。
 がん治療における放射線治療は、欧米の5~6割に対して、わが国は2~3割の実施率だという。それは、世界で唯一の被爆国であることがトラウマとなって、国全体が放射能アレルギーに陥ってしまっていることが、その原因の一つに挙げられる。
科手術を行うようながんを、放射線治療で行えば切らずに治すことができる」と渡邉一夫理事長は、放射線治療のメリットを強調する。
 しかし、「従来の放射線治療にも限度がある」と渡邉理事長は言葉をつなぐ。従来の放射線治療に使われるX線やガンマ線という光子線治療の欠点は、照射される患部だけではなく、その周辺の組織や深部にまで光子線を浴びてしまうということだ。
 このため、例えば心臓の後ろにがんがあった場合は心臓にも照射されてしまい、後に心筋梗塞を発症する率が高くなる。また肺がんの場合も、照射された正常な部位が後々肺線維症や放射線肺炎を発症する可能性が高くなる。従来の治療法では、こうした副作用が避けられず、しかも光子線による治療は1回しかできないという弱点があった。
 これに対して「粒子線治療」は、従来の光子線を使用した放射線治療のような副作用がほとんどなく、正常な組織細胞を壊さずに腫瘍部位だけをピンポイントで治療することができる。さらに、何度でも照射治療することができるため、「究極の放射線治療」といわれている。
粒子線で治療できるがん

南東北がん陽子線治療センター

子線治療は、頭頚部、頭蓋骨底部、肺、食道、膵臓や肝臓、腎臓、前立腺、子宮などのがんや、肺・肝臓・骨・軟部リンパ節の単発の転移性腫瘍などに効果を発揮する。特にこれから発症率第1位になることが予測される肺がんには、粒子線治療が最も効果的ということだ。
 しかし、消化器系のがんは粘膜に放射線による潰瘍ができやすいため、光子線も粒子線治療も不向きという。消化器系のがんには、まだまだ内視鏡手術などの外科手術の有効性が高い。
らずに、何度も治療できる。しかも、老人でも、合併症を持った患者や心臓病の患者さんでも構わない」。これが粒子線治療の大きな特徴だという。
 渡邉一夫理事長は粒子線治療の対象を、全がん患者の1割から3割程度と考えている。しかし、「南東北がん陽子線治療センター」では、年間500人くらいしか治療できないという。その理由のひとつは300万円という治療費。ただし、これは一連の治療に対する費用であるため、年に10回、20回と照射治療を受けても、基本的に治療費は同じである(入院費等は別)。こうした金額は先行する公的な施設と同等に設定されたものであり、先進医療を扱う民間保険でまかなうこともできる。
 1回の治療は2分間照射するだけ。準備に15分くらいかかるが、待たされることはない。治療による痛みもなく、通常の生活に全く支障がないため、普通に仕事をすることに何ら差し支えがない。近距離であれば、通院での治療も可能なのである。
南東北がん陽子線治療センターは悪性腫瘍に対する陽子線治療(固形がんに係るものに限る)の先進医療実施施設として、平成21年2月1日付けで厚生労働省より認定されました。通常の治療と共通する部分(診察・検査・投薬・入院料等)の費用については、一般の公的保険診療と同様に扱われます。

地域医療の3本柱

日の総合南東北病院は「救急医療」「高度先進医療」「在宅医療」を地域医療の3本柱にしている。
 「救急医療が地域医療の要である」と渡邉一夫理事長はいう。その精神は脳神経外科専門病院でスタートしたこともあり、脳卒中イコール救急なので「救急車は一切断らない」ということだ。この精神で早くから救急医療に取り組んできた同病院では、2001年から南棟に救急センターを設置して、救急外来の充実を図っている。救急車は、年間4,000台以上も受け入れているという。
 2つめの「高度先進医療」としてはCTやMRI、PET‐CT、ガンマナイフ、マンモグラフィーなど、最新の医療器械を積極的に導入し、「がん」や「脳疾患」「心臓疾患」を中心にした治療を行う。術数は、脳疾患では脳腫瘍が今、年間約150例ほどだが、これは国内でも10指に数えられるという。そして、脊髄の手術が整形外科と脳外科を合わせて年間500例ほど。脳動脈瘤の手術は約100例実施している。これらは大きな手術ばかりであるが、小さい手術を合わせると年間約5,000例。その他、脳の転移腫瘍にガンマナイフ治療を200例近く行い、眼科の手術は隣接する「南東北眼科クリニック」で年間1,000例以上実施されている。
 3番目の「在宅医療」はどうだろうか。08年4月から「後期高齢者医療制度」が実施されたが、これは国が医療費抑制のために入院病床を減らして「在宅医療」にシフトさせようとするものだ。
 これからは在宅医療の重要性が増すことになる。例えば慢性疾患で入院できない人は、自宅で在宅医療を受けることになるため、医師や看護師が往診や訪問看護に行き、理学療法士もリハビリテーションで在宅医療に関わることになる。しかし、家で面倒を見てもらえない人はグループホームなどに通うことにもなるという。
病院では後期高齢者医療制度実施よりも早く、在宅医療に力を注いでいた。現在では訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所が在宅医療の中心となり、さらには介護老人保健施設での機能回復訓練の他、長期入所や短期入所などの事業を行っている。

64列マルチスライスCT

3.0T MRI

PET-CT

日本全国と海外へも目を向けた医療の実践

ループが1都3県に展開し、しかも民間初の陽子線治療センターを開設している総合南東北病院は、今や郡山市の地域中核病院の枠を超えているといって過言ではない。
 同病院の役割を渡邉一夫理事長は、「どんな難しい病気でも治すこと。今の世の中で、いちばん最高と思われる診断と治療を行えるようにすることが、医療機関としての役目です」と強調する。
 しかし、今日のわが国の病院にはそれだけではなく、さまざまな付随した機能が求められている。それが、在宅医療やリハビリテーション施設、介護老人保健施設、特別養護老人ホーム、グループホーム、デイケアやデイサービスなどで、こういった機能を備えることが必要とされているのだ。

マンモグラフィー

ガンマナイフ

 「すべては患者さんのために」ということでやっているうちに診療科目が増え、リハビリテーション施設、介護老人保健施設なども必要になり、次第に規模が大きくなってしまったということだ。そこで、「患者さんとは誕生から死ぬまでお付き合いしましょう」ということになり、施設と人員を揃えて全部同病院で完結しようとしているのである。
 地域医療には救急医療、在宅医療、そしてもちろん高度先進医療も必要である。
 地域に関する高度先進医療としては脳腫瘍、脊髄、脳動脈瘤の手術、転移腫瘍のガンマナイフ治療などを行う。さらに、心臓の手術および血管内治療を心臓外科と循環器内科で行っている。同病院の循環器内科の特筆すべき点は、小児の心臓手術を小児循環器を専門とする医師が治療を行っていることである。これも民間では同病院が唯一の施設だ。
 これからは、渡邉理事長の盟友であり脳外科手術で神の手と称される福島孝徳先生でもできないような手術や、ガンマナイフでも適用にならないものは陽子線治療で行える。「脊索腫の治療には粒子線、陽子線治療が最適」ということだ。
のように地域以外の医療の対象は日本全国、あるいは世界から患者さんを呼ぶものといえる。これからは日本の医療機関に、海外からも患者さんが来る時代になるかもしれない。しかも、陽子線治療のためのテクニックは、外国人が日本に来て覚えていくことからも分かるように、日本のほうがはるかに進んでいる。
 総合南東北病院の将来像について、渡邉理事長はどのような思いを持たれているのだろうか。
 「郡山には温泉もあるし、新幹線を使えば東京からも近い。周辺には豊かな自然環境や観光地もある。お金持ちの欧米人やアラブ人が自家用機で福島空港に来て、当病院で自費で高度医療を受けてもらえるようにしたい。そういったメディカルリゾートのようなイメージを実現させたい」。
 熱く語られる夢はいずれ現実のものとなるかもしれない。言わば民間初のがんセンターとして診断から治療まで最先端の医療を担う南東北病院グループの展開は、世界からも注目を集めている。