マスコミでも取り上げられる機会が増え、大ブレイク中の「やきとりじいさん体操」。哀愁に満ちたブルース調の歌に振り付けられたコミカルな体操は、実はネットの世界から火がついたのでした。今回はこの体操を考案し、体操指導を続ける一人の女性を訪ね、体操を通して伝えたかった思いをうかがうことができました。

やきとりじいさん体操をご存じですか?

れはとても不思議な歌でした。タイトルから受けるナンセンスソングのイメージとはまったく違って、ひとり孤独を引き受けながら焼き鳥を焼き続けるおじいさんの姿。哀愁漂う人生への思いがしみじみと歌い込まれています。
♪やきとり やきとり やきとりじいさん/まいにち やきとり やきます/つらいことなら やまほどあります かおにだしたら まけです/ばかにするひと ばかにされるひと どうせならばかに されましょう/くやしなみだも うれしなみだも あすをいきぬく かてになる/むだにみえても よくみりゃほうせき じんせいしゅぎょうの まいにち♪(以下略)
 つらいことでも笑い飛ばそう。他人から笑われようが、前に向かって人生を生きていく。自分の人生を重ね合わせて聞くと、じんわりと涙が湧き、また、励まされている気がします。
 一度聞いたら忘れられないこの歌は、もりたかしさん(埼玉県在住のシンガーソングライター)が、作詞・作曲した歌です。『やきとりンピックin福島』が2007年に開催されたとき、もりさんが招かれて披露したのでした。それがきっかけとなり、この歌は福島を焼き鳥の町としてPRするキャンペーンソングに採用されることになります。そう思って聞き返してみると、う~む…。何とも深みのある歌が、かえってユーモラスにも思えてくるから不思議です。どこかミスマッチの妙を感じさせるこの歌をPRソングに採用した人たちのセンスの良さにも感心。
 思わずひきこまれる名曲ぶりに脱帽していると、この歌に合わせて振り付けられたユニークな体操が日本中で大ブレイクしているというのです。

「やきとりじいさん」を作詞作曲した

シンガーソングライターもりたかしさんと

との発端はインターネット。動画投稿サイト「ユーチューブ」から火がつきました。動画をアップしてからのアクセス総数は何と50万件を超える勢い。2008年度のビデオアワードでは、動画大賞計6部門のうち、「ハウツー・科学と技術」部門で大賞を受賞してしまいました。
 動画を一度ご覧になった方はご存じでしょうが、ブルース調のメロディーにのせて踊るのは、若くて魅力的な女性です。そしてその隣りにはちょっとメタボな中年男性。ハードな運動に四苦八苦しているご様子でした。
 曲調とのミスマッチがどこか面白可笑しくもあり、見ていても楽しいパフォーマンスです。この女性は一体どんな方なのでしょうか。「やきとりじいさん」の歌に合わせて思いきりよくユニークな動きを見せる女性に素朴な好奇心を抱き、訪ねてみることにしました。
笑顔でできるオリジナル体操
 「みんなが楽しみながら続けられる体操を考案しようと楽曲を探していた時期、ちょうどこの歌に出会い、『これしかない』と思い、あっという間に振り付けを考えました」

子供たちも「やきとりじいさん体操」が大好き

 そうお話をしてくれたのは岡田麻紀(おかだまき)さん。やきとりじいさん体操の考案者です。麻紀さんは、何と桜の聖母短期大学生活科学科講師(福祉こども専攻)という肩書きをお持ちの先生でした。
紀先生のご専門は体操やリズム運動の指導。体の仕組みと運動を熟知した体育専門家です。「やきとりじいさん体操」にはひな鳥やくし刺し、ネギまのポーズと、一見滑稽にも見える動きが盛り込まれていますが、ひとつひとつの動きにはきちんとした意味があり、楽しく続けられる健康体操です。
 「この体操は、そけい部周辺の筋肉、僧帽筋や広背筋などの背中の筋肉、三角筋などの肩の筋肉、大腰筋などのインナーマッスルなど、普段の生活ではあまり使わない筋肉を動かして、体のゆがみを調整したり、新陳代謝を良くするのに効果があります。また、それによって、瞬発力があがり、動きやすい体になる効果がねらえます。曲に合わせて楽しく継続できるので、無理なく痩せやすい体質に体を変えていくことにもつながります。
 この体操をとり入れていただく保育園や高齢者施設なども増えてきましたが、みんなで楽しく体操をすると、明るいコミュニケーションが生まれます。小さな子供たちから高齢の方、障害をお持ちの方も、この体操で体も心も健康になってもらえれば、とても嬉しいことです」
 最近では、学校や福祉介護施設、医療機関などからの体操指導依頼も増えているとか。
バヌアツで得た体操を通して
 麻紀先生はご自身が18歳頃から太り始め、いろいろなダイエットに挑戦しては挫折した経験をお持ちだそうです。一時は外に出て人に会うのも嫌になったほど。オリジナルの体操考案にはその頃のダイエット観への反省の思いも込められているそうです。
学を卒業してから青年海外協力隊に参加して、オセアニアのバヌアツで体育を教えたのですが、そこでの暮らしが大きな転機になりました。首都のある町は近代的な都会ですが、少し離れると機械にも頼らないで自分の手足をきちんと使う暮らしぶり。お金で物を買う生活とも無縁で、自給自足が基本でした。けれども元気な笑顔がとても魅力的なんですね。そんな姿に触れて、考え方や感じ方が大きく変わりました。
 体は自分自身と決して切り離せない。いつも一緒にあるものです。ダイエットというと、減量ということで食べ物に対しても敵視するようなところがありましたが、バヌアツの暮らしに触れ、人と接するなかで、体や食物に対する捉え方も大きく変わったと思います」
 食べ物も敵ではなく、感謝していただく…。帰国してからは免疫の自然な働きを高める体操や、普段使っていない筋肉をきちんと動かす体操を工夫し、実践しました。するとリバウンドにも悩まされず、体重は嘘のようにみるみる減少したそうです。
 やきとりじいさん体操はそうしたオリジナル体操の集大成でもあります。
 「楽しみながら続けられる体操をつくりたい、という思いは、これで少し実現できたと思います。けれども、この体操の背後にバヌアツがあるというと、皆さん驚かれるようですね」
 そんなお話を聞かせてくれた麻紀先生はまっすぐに前を向いて生きている、とても魅力的な女性。自分の体は両親からもらったもの。自分の体に感謝し、楽しく体操する。笑顔があれば幸せになれる。そんな実感とメッセージがこの体操には込められているのでした。

「なりたいカラダ」研究科 岡田麻紀おかだまき 先生

福島県郡山市生まれ

福島大学大学院教育学研究科修了(保健体育科)

桜の聖母短期大学生涯学習センター 健康講座講師

桜の聖母短期大学生活科学科福祉こども専攻講師

「笑顔で楽しくなりたいカラダを目指す」ことをモットーに、自力整体や腰回し・骨盤体操・ゆる体操などをヒントに考案した「まくら体操」「タオルストレッチ」を中心に、各地でも健康体操教室を指導。 特に、2008年5月に考案した「やきとりじいさん体操」は全国で注目を浴び、新聞・テレビ・ラジオ取材や各種イベントにもひっぱりだこ。健康雑誌でも特集・紹介されている。

今年5月にはダイヤモンド社から体操のポイントとメッセージを収録した「やきとりじいさん体操」のDVDブックが発売される予定。

●現在発売中のCD・DVDのご購入は、株式会社 第一印刷(福島市)まで

体はいつも自分とは切り離せないもの。
両親から受け継いだ自分の体に感謝することから、
笑顔でダイエットにも取り組んでほしいと思います。

「ネギまのポーズ」は片足でバランスをとって立ち、腕とおしりの筋肉を鍛えます。
 

「くしざしのポーズ」は片手を大きく反対側の頭上に。手先から足元までしっかりと伸ばします。

「大空を飛ぶポーズ」は腰を左右に振りながら、体の上方で両手を上下に翼のように振る。












「やきとりじいさん体操」には、こうした普段使われていない筋肉を使ったり、肩や股関節を緩める運動、骨盤・背骨のゆがみを微調整する運動などが組み込まれています。体操で基礎代謝の改善や、動きやすい体の実現を。ただし、無理に曲げたり、伸ばしたりせず、年齢や性別、運動経験などに合わせ、できる範囲で継続して下さい。

福島の焼き鳥屋さんにて

 伊達鶏や川俣シャモといった地鶏でも有名な福島は焼き鳥の町。2007年には「やきとリンピックin福島」が開かれ、会場に招かれたもりたかしさんが歌う「やきとりじいさん」は地元でCDが制作されるほど評判になりました。この歌はテレビでも「泣ける歌」として取り上げられ、大きな反響を呼んでいます。
 取材を終えた福島の夜、一軒の焼き鳥屋さんを覗いてみることにしました。何せ、ここは焼き鳥の町なのです。鳥を炭火であぶる煙とタレが焦げる旨そうな匂いが鼻をくすぐります。暖簾をくぐると、お客さんたちの楽しげな笑い声が。お店自慢のつくねやネギまを注文すると、文句なしの旨さに舌鼓です。
 カウンターの向こうで炭火に向かう〝やきとりおじさん〟の手元を何気なくみつめながら、この体操がどうして人をひきつけるのか、考えてみました。焼き鳥による街おこしとメタボ撃退。コミカルに見えながら、実は本格的な体操動作。流れる歌は人生の哀愁漂う名曲。一見すると冗談のようなとり合わせは、とても質の高いユーモアのようでもあります。暗い世相も何のその。気の合う仲間たちが集い、信頼し、心の底から笑い転げる福島の町。このブームの背景には、そんな人の輪の魅力が隠されているのかもしれません。