ふるさとを旅する『欅(ケヤキ)の原生林を訪ねて』「福島県郡山市(磐梯熱海)」

 磐梯熱海温泉を流れる清流五百川。この川の流れに寄り添うように作られた蓬山遊歩道そばで、ケヤキの原生林が発見されたのは今から7年前のこと。巨木たちに出会うため訪れた森には、圧倒的な生命力と存在感を湛える見事な風景が広がっていました。

 さわやかな川風と樹々の緑を全身に感じ、きれいに整備された石畳の遊歩道を歩いていくと、赤い鳥居が鮮やかな源泉神社に到着。お湯の神様にお参りし、気持ちのよい木陰で少し休息したら、ケヤキの原生林へいざ出発です。
 とは言っても、それほど険しい山へ分け入るわけではありません。そこは気軽に歩ける散策ルートでした。小鳥の囀りや木漏れ日の美しさを楽しみながら木道の階段を登り、山道をゆっくりと歩いていくと、すぐにケヤキの巨木たちが姿を現します。圧倒的な存在感が見事なケヤキの群生は樹齢300年とも言われ、生命あるものの威厳さえ感じさせるようです。
 直径2メートルを超える77本ほどのケヤキは、地面から2メートル位の高さでコブのような形状をつくり、そこからたくさんの幹が天を指すように伸びています。このコブはアガリコと呼ばれるもので、かつて人が炭の材料として枝を伐り、長年利用していたことを示すものだといいます。人と自然の共生がつくり出した独特の姿…。ブナの樹ではよく見られるそうですが、ケヤキとしては全国的に見ても珍しく、すこぶる貴重。けれども、人が大切に手入れしていた森が、つい最近になるまで忘れられてきたというのは、とても不思議に思えてなりません。
 森の風と緑のざわめきに癒されながら、散策路を1キロほど歩いて源泉神社に戻り、「深沢の名水処」という水場で冷たい水をごくり。渇いた喉を潤すこの水は、山奥の30キロ平方メートルにわたるブナの原生林から湧き出た沢水を集めたもので、ミネラル分が多くおいしい名水として知られ、誰もがここで水を汲むことができます。
 遊歩道を引き返し、近くの足湯で一休みすることにしました。磐梯熱海温泉には足湯できる場所が3カ所あり、いずれも無料。足の疲れも忘れてしまうほどでした。
 

献湯祭(萩姫まつり)の様子

郡山市の奥座敷、磐梯熱海温泉は「美人をつくる湯」とも言われ、名湯として知られてきました。

これは萩姫の伝説に由来するもので、南北朝の時代に京の萩姫という美しい女性が悪疫にとりつかれてしまい、「都から東北の方500本目の川(五百川)の岸にある霊泉につかれば全快する」とのお告げを受け、この磐梯熱海温泉にたどり着き、温泉につかったところ全快した、と言い伝えられているそうです。

毎年8月には、萩姫にちなんだ『萩姫まつり』が盛大に行われ、古式ゆかしい装束で舞う萩姫の姿を見ることができます。

ちなみに、磐梯熱海温泉という名前は、源頼朝の家臣でこの地の領主となった伊東祐長が、ふるさとの伊豆の温泉地を懐かしがって付けたのが由来だそうです。

【ケヤキの森散策路】

お問い合わせ:郡山市観光物産課 TEL:024-924-2621

※磐越自動車道磐梯熱海ICより車で約10分/JR磐越西線磐梯熱海駅から徒歩約40分