腰椎すべり症も多い病気で、分離すべり症と変性すべり症があります。腰椎がずれてくるんですね。神経が圧迫されて足のしびれ、痛み、歩行障害、膀胱や直腸の障害も起きます。膀胱に行く神経が圧されて、排尿障害も起きます。
分離すべり症というのは、先天性のもので、子どもの頃に起きます。最近ではスポーツ少年が運動の毎日で腰を痛め、調べてみると分離症がもともとあって、スポーツのやりすぎで悪化するというケースも見受けられます。一方、中年以降の女性に多いのが変性すべり症です。
治療はともに保存療法が優先されます。しかし加齢とともに生活に大きな支障をきたすようなら、手術的治療が行われます。
すべり症の手術は、これまでは腰の大手術の代名詞のようなもので、大がかりなものでした。腰は固定されても、筋肉を大きく剥がしますし、手術の傷も30センチくらいと大きく、新たな腰痛が出る。こういう侵襲の大きな手術は極力やりたくないわけで、今では経皮的椎弓根スクリュー挿入など、小さな侵襲でできる方法が開発されていて、昔からすると信じられない小さな傷で治療可能です。
骨そしょう症は女性の方で60歳以上だと3分の1、70歳以上なら半分近くの方に見られますが、加齢とともに骨が弱くなって椎体が潰れやすくなり、脊椎圧迫骨折が起こります。背骨が圧迫骨折を起こすと、背中が丸くなり、呼吸機能、身体機能の低下、お腹の膨満感、胃の不快感、動作の低下、家族などへの依存度も高くなり、日常生活上非常に大きな影響を及ぼします。
これまでの治療法は安静、コルセット、鎮痛剤などでしたが、昨年1月に新しい治療法が可能になりました。バルーン後弯形成術です。所要時間は1時間程度で、2~3日の入院で、保険適用です。この治療法は、骨粗しょう症などによる背骨の骨折部にカテーテルを入れて風船のように膨らませ、潰れた骨を広げます。そこにセメントを注入し、復元、固定します。全ての方ではないのですが、腰痛が劇的に良くなります。がんが背骨に転移して、圧迫骨折を起こした痛みを和らげる緩和ケアとしても有用とされています。このように、脊髄脊椎疾患も治療の選択肢が増えてきていることをご紹介しておきたいと思います。
腰部脊柱管狭窄症の腰椎MRI
L4/5間で硬膜嚢の狭小化がみられます.
脊柱管が狭くなり, 脊髄から枝分かれした馬尾神経,腰髄神経根などが圧迫される病態.
手術は通常, 腰椎開窓術といって術後の脊椎変形の進行を最小限にする方法が第一に選択されます. 最近ではより体に負担の少ない手術が行われ,幅22mm前後の筒を神経がつぶれている部位に挿入し, 内視鏡あるいは手術用顕微鏡で神経の圧迫をとる方法が開発されています.
腰椎変性すべり症
加齢によって椎間板や椎間関節の変性が進み脊椎が緩んだ状態になり,第4腰椎の下関節突起部分が第5腰椎の上関節突起部分を少し乗り越えて前にずれることで脊柱管が狭まくなり,腰痛などの症状が発現します.
脊椎圧迫骨折に対するバルーン後弯形成術
全身麻酔およびX線透視下で経皮的に実施する脊椎圧迫骨折に対する新しい治療法.
カテーテルを挿入し、先端を風船のように膨らませ、セメントを流し込んで圧迫骨折部を固定.
手足の痛みとしびれ 内科的原因と治療
痛みとしびれは紙一重で、しびれが痛みとして感じられたり、痛みは消えてしびれだけが残るという状態もあります。
手のしびれの原因で多いのが手根管症候群です。手首のところで小指を除いた4本の指の神経が圧迫されて起こります。手術は比較的簡単で15分から20分で終わり、とても楽になります。治療が簡単で重要な疾患であり、診断そのものも明快です。思い当たる方は病院で診てもらうことをお薦めします。
ある患者さんの場合は下肢がしびれ、歯茎が痛み、足の力も入らなくなり、ある病院でギランバレー症候群と診断を受けました。ところが治療をしてもどんどん悪くなる。そこでわれわれのところに来たんですが、よくよく聞いてみると、非常に極端な偏食傾向から、ビタミンB1の不足による脚気(かっけ)神経痛であることが分かりました。かっけは手足がむくみ、心臓肥大、心不全になり命が危険になることもあります。明治期の国民病ですが、今でもまれにある症例です。
ビタミンB12の欠乏が指先のしびれを引き起こすこともあります。欠乏状態がひどくなると脊髄の障害を起こして歩けなくなり、頭もぼけて、視力も悪くなります。胃の切除手術をするとビタミンB12を吸収できなくなり、肝臓に貯蔵していた分も枯渇してしまい、10年から20年経って指先がしびれてくることもあります。ビタミンB12を点滴するとどんどん良くなりますが、大事なのはこれは簡単に治療できる病態ですから、われわれとしても見逃すわけにはいかないということです。
30代の女性のケースでは、何かをつかんだだけで飛び上がるほど指が痛む。しかし、一見すると何ともない。よくよく診ると爪の下に小さな良性腫瘍がありました。手術で痛みはなくなりました。
リウマチは手がこわばり、指の第2、3関節が腫れ上がって痛くなりますが、しびれを訴える方もかなりおります。一番末端の第一関節が膨れたり痛む人はリウマチではなくて加齢、あるいは手の使いすぎによる変形性の関節症です。まぎらわしい症状を見分けることが大事です。椎間板の手術をしても、しびれが改善されないというケースでは、脊髄炎が隠れていることもあります。過呼吸によるしびれという現象もあります。適切な診断が重要です。
帯状疱疹の後遺症で、痛みに苦しんでいる患者さんも多くいます。これは、赤ちゃんのときにかかる水痘のウィルスが原因でそのウィルスは体からなくならず、神経系に潜り込んでいて、体力がなくなったり、年をとったり、無理をしたりしたときに、神経を伝って増えて出てくるわけです。早期に見つけて抗ウィルス剤で治療すると、軽くて済みます。
手根管症候群(しゅこんかんしょうこうぐん)
末梢神経障害のひとつ. 手の骨と手掌の付け根にある靱帯に囲まれた手根管というトンネルの中を通る正中神経が慢性的な圧迫を受け, 正中神経の支配領域である親指, 人差し指, 中指と, 薬指の中指側にしびれ,痛み, 運動障害を起こす病気.40~60歳の女性に多く, 男女比は約7:3.手指を酷使して発症したり、慢性関節リウマチ,関節変形,妊娠,骨折や腫瘤による手根管の圧迫,血液透析によるアミロイドという物質の沈着などが原因.
手根管症候群のPhalenテスト
1分程度, 両手首を過度に屈曲することで, 正中神経が圧迫刺激されます. この位置でしびれが増強すれば陽性で, 手根管症候群の可能性が高い.
一番内科的に重要なのは、糖尿病性の神経障害です。これは通常手足の末梢のしびれから始まります。
脊髄から足先につながる神経は1メートル以上の長い1個の細胞なのですが、こうした一番長い神経から先にやられて、しびれたり痛んだりしてきます。手もそうです。糖尿病網膜症と同じように、糖尿病が比較的軽い状態の方でも起こります。
基本的な治療法は食事療法、運動療法、それから薬ですが、どうしても食事療法ができず痩せられない方がいて、足のしびれ、痛みがひどくなります。
顕微鏡でみると、糖尿病性の神経障害に陥ると、足の指先の神経が消失してしまいます。しっかり治療すると、神経が元に戻るのが観察されるようになります。神経が新しく再生してくるわけです。しかし、一気に治療すると、一時的に手足の痛みがひどくなるということもまれにあります。糖尿病の治療は、悪いほどゆっくりと時間をかけることも必要です。
痛みというのは、慢性になればなるほど一人歩きして大きく感じられるものです。腰痛の人の7割が鬱状態にあり、鬱の治療も必要になる場合があります。
痛みやしびれは長くなればなるほど心の問題もからんできて、難治性になるので、早いうちに解決することが求められます。
痛みは患者さんにとってはつらい症状なのだという医療サイドの理解が必要です。