脳神経外科・神経内科からの解説

 

手や足がしびれる。腰が痛む。誰もが一度は感じたことのある症状かもしれません。軽いしびれや痛みなら、体を休めていれば自然に治ってしまうことも多いのですが、そのうちにまたぶり返すことも。我慢できる症状でも、なかには重い病気が隠れていたり、放っておくと治りにくくなることもあるそうです。  

一般にしびれや痛みは、明確な原因が分からないケースが多いと言われますが、腰痛の原因の代表とされる椎間板ヘルニアなど、機序(痛みなどのメカニズム)が分かっているものも多く、適切な診断と治療を行うことで治すことができたり、症状の緩和につなげることができますから、早めに専門医を受診することが求められます。

腰痛、手足のしびれは脊髄脊椎疾患に原因する場合が多く、診断をする上では、MRIや3DCTなどの画像診断機器を用いることで、より正確な診断が可能になっています。

治療は、基本的には保存療法が優先されますが、重症の場合の選択肢のひとつとして手術があります。

手術も飛躍的に進歩し、できるだけ低侵襲の手術が行われています。また、脳神経外科が用いる手術用顕微鏡は、微細な神経や血管が集中する脊髄などの手術の安全性を高めています。

しかし、手足のしびれ、痛みは外科的な手術だけでは治らないこともあり、神経内科との緊密な連携の上に医療を進めることが重要です。

脳、脊髄、末梢神経の構造・働きから、外傷や代表的疾患、症状と治療法などについて、豊富な症例紹介に加え、動画を用いた手術法の解説など、多岐にわたる講演内容からその一部をダイジェストでご紹介します。

 

手がしびれる その原因疾患と治療法

 

脳と脊髄の疾患

 

脳や脊髄の病気が、手足のしびれや痛みの原因となることがあります。

例を挙げると、後縦靭帯骨化症。骨と骨との間の靱帯が何故か骨のように硬くなって神経を圧迫し、しびれや歩行障害などを引き起こす特定疾患(厚労省指定の難病)です。頸椎、胸椎などに多く発症し、中高齢になると増えてきます。

また、髄膜のひとつである硬膜や脊髄にできる腫瘍もあります。良性と悪性のものがありますが、こうした腫瘍が大きくなるとすぐ近くの神経を圧迫し、痛みやしびれを引き起こします。

海綿状血管腫は最近多く見つかります。脳にも脊髄にもできます。ほかにも帯状疱疹の後遺症や手根管症候群など、さまざまな病気があり、手足のしびれなどを引き起こします。

こうした病気がたまたま見つかることもあります。脳ドックを受けた患者さんの頸のMRI画像から、良性の神経鞘腫が見つかったこともあります。これは、めまい、ふらつきの原因になりますが、取ってしまえばほとんど症状はなくなります。

頭部外傷にともなう急性の硬膜外血腫(頭蓋骨と硬膜の間に血液がたまること)や脳挫傷(頭部外傷等による脳の損傷)などは命にも関わる重症ですね。ところが慢性硬膜下血腫は、外傷が意識されないほど小さい場合もあって、徐々に血腫ができ、頭蓋内の圧が高まり脳を圧迫し、手がしびれたり動かなくなったりします。会話がおかしいので家族はぼけの症状と思っていて、検査をするとこの血腫が見つかることもあります。これは治る病気なので、病院で検査をしてみることは意味のあることだと思います。

 

脳と脊髄の損傷

 

脊髄脊椎損傷は損傷個所と程度によって四肢麻痺、痛みやしびれなどの症状をもたらします。胸・腰椎損傷の場合は上肢は動いても足が動かなくなります。
事故で後頭部を打つと、頸椎の後ろの靱帯が裂けて前にずれて、そのなかの脊髄が損傷を受けます。そのレベルによって四肢や足の麻痺が起こり、手は一部しか動かなくなります。
過伸展損傷(頸椎を過度に後ろにそらすことで起きる)は、ラグビーの事故や交通事故、高齢者が前に転んであごやおでこを打って、神経損傷、四肢麻痺を起こしたりします。いわゆるむち打ち症に代表される軽症のものから、交通事故などで脊椎が砕けて出っぱり脊髄が圧迫されて麻痺する重症のものまで程度は様々です。
交感神経がいろいろ走っているところなので、めまいなど自律神経の障害を引き起こすことが多く、治るのが大変です。
頭を打ったり首の損傷があるようなときは運ぶときに首を動かさないようにするのが絶対必要です。動いていた足が急に動かなくなることもあります。
最後に、高齢者の脊髄損傷ですが、その原因の約8割が転倒事故です。敷地内が57%。そのうち居室が75%。何かに足をひっかけて転倒、たんすに頭をぶつける。そうすると首をやられてしまいます。部屋の片付けや運動不足の解消が大事です。足下には注意しましょう。それと、服用する薬の中には意識が朦朧とするものもあるので、薬の内容はよく知っておくことです。夜起きたときに薬の影響で転ぶ可能性があるんですね。それを含めて高齢の方には意識して行動するということを呼びかけたいと思います。
 

頸椎症性脊髄症の頸椎MRI

 

C4/5, C5/6椎間レベルに脊髄圧迫がみられます. とくにC5/6レベルでは脊髄内に高輝度領域が認められ, 強い脊髄圧迫障害が示唆されます.

一般に, 頸椎症を有する方は超高齢化社会を反映して潜在的に多いことが推測されます.また,日頃無症状でも転倒あるいは軽微な外傷を契機に四肢麻痺などを呈する「骨損傷のない頸髄損傷」も見受けられます. このような例では、根底に強い頸椎症が存在することが多いようです.

手術法はめざましい発達を遂げ、脊髄への圧迫を除き、人工椎間スペーサー(チタン製等のケージ/左図)を埋め込んで脊椎を支えたり固定したりします. ケージは手術用顕微鏡下での操作が前提であることから,使用者は大半が脳神経外科医です.

 
 

知っていますか? 腰痛治療の最前線

 

腰痛の代表的疾患と治療法

 

腰痛の原因はいろいろありますが、背骨が原因の腰痛としてヘルニア、脊柱管狭窄症、すべり症、圧迫骨折などがあり、がんや内臓の病気、肥満が原因になることもあります。

代表的な腰椎椎間板ヘルニア(ギックリ腰)は、椎間板のなかの髄核がとびだし、神経を圧迫して起こります。これは、一般的に第4腰椎と第5腰椎の間や、第5腰椎と第1仙椎の間で起こり、腰の激痛のほか、足のしびれを起こします。

治療は第一に保存療法です。安静、コルセット、薬、ブロック注射、リハビリ、温熱療法、牽引療法ですね。これらを組み合わせることで9割以上は良くなります。ただし、残り1割程度は改善されず、手術的治療が選択されます。

腰部脊柱管狭窄症というのは、椎間板ヘルニアと並ぶ二大腰痛の一つで、加齢により変性・肥厚した黄色靱帯と椎間板に挟まれて脊柱管が狭くなり、神経の通っている水の袋が押されて、痛み、しびれ、腰痛などの症状を呈します。間歇性(かんけつせい)の跛行(はこう)(注)も見受けられます。基本的な治療は保存的なもので、薬などで様子をみて、治らなければ手術を考えます。手術はできるだけ骨を削るのを最小限にして侵襲を少なくします。

 

(注) 間歇性跛行 (かんけつせいはこう):一定距離を歩くと腰が痛んだり足がしびれて歩けなくなり、休むと歩けるが、新たに歩き始めると、同じ症状が出て歩けなくなる症状。 段々歩ける距離が短くなります。

 

低侵襲手術の最前線

 

腰椎すべり症も多い病気で、分離すべり症と変性すべり症があります。腰椎がずれてくるんですね。神経が圧迫されて足のしびれ、痛み、歩行障害、膀胱や直腸の障害も起きます。膀胱に行く神経が圧されて、排尿障害も起きます。

分離すべり症というのは、先天性のもので、子どもの頃に起きます。最近ではスポーツ少年が運動の毎日で腰を痛め、調べてみると分離症がもともとあって、スポーツのやりすぎで悪化するというケースも見受けられます。一方、中年以降の女性に多いのが変性すべり症です。

治療はともに保存療法が優先されます。しかし加齢とともに生活に大きな支障をきたすようなら、手術的治療が行われます。

すべり症の手術は、これまでは腰の大手術の代名詞のようなもので、大がかりなものでした。腰は固定されても、筋肉を大きく剥がしますし、手術の傷も30センチくらいと大きく、新たな腰痛が出る。こういう侵襲の大きな手術は極力やりたくないわけで、今では経皮的椎弓根スクリュー挿入など、小さな侵襲でできる方法が開発されていて、昔からすると信じられない小さな傷で治療可能です。

骨そしょう症は女性の方で60歳以上だと3分の1、70歳以上なら半分近くの方に見られますが、加齢とともに骨が弱くなって椎体が潰れやすくなり、脊椎圧迫骨折が起こります。背骨が圧迫骨折を起こすと、背中が丸くなり、呼吸機能、身体機能の低下、お腹の膨満感、胃の不快感、動作の低下、家族などへの依存度も高くなり、日常生活上非常に大きな影響を及ぼします。

これまでの治療法は安静、コルセット、鎮痛剤などでしたが、昨年1月に新しい治療法が可能になりました。バルーン後弯形成術です。所要時間は1時間程度で、2~3日の入院で、保険適用です。この治療法は、骨粗しょう症などによる背骨の骨折部にカテーテルを入れて風船のように膨らませ、潰れた骨を広げます。そこにセメントを注入し、復元、固定します。全ての方ではないのですが、腰痛が劇的に良くなります。がんが背骨に転移して、圧迫骨折を起こした痛みを和らげる緩和ケアとしても有用とされています。このように、脊髄脊椎疾患も治療の選択肢が増えてきていることをご紹介しておきたいと思います。

 

腰部脊柱管狭窄症の腰椎MRI

 

L4/5間で硬膜嚢の狭小化がみられます.

脊柱管が狭くなり, 脊髄から枝分かれした馬尾神経,腰髄神経根などが圧迫される病態.

手術は通常, 腰椎開窓術といって術後の脊椎変形の進行を最小限にする方法が第一に選択されます. 最近ではより体に負担の少ない手術が行われ,幅22mm前後の筒を神経がつぶれている部位に挿入し, 内視鏡あるいは手術用顕微鏡で神経の圧迫をとる方法が開発されています.

 

腰椎変性すべり症

 

加齢によって椎間板や椎間関節の変性が進み脊椎が緩んだ状態になり,第4腰椎の下関節突起部分が第5腰椎の上関節突起部分を少し乗り越えて前にずれることで脊柱管が狭まくなり,腰痛などの症状が発現します.

 

 

 

脊椎圧迫骨折に対するバルーン後弯形成術

 

全身麻酔およびX線透視下で経皮的に実施する脊椎圧迫骨折に対する新しい治療法.

カテーテルを挿入し、先端を風船のように膨らませ、セメントを流し込んで圧迫骨折部を固定.

 

 

手足の痛みとしびれ 内科的原因と治療

 

 

さまざまな痛みとしびれ

 

痛みとしびれは紙一重で、しびれが痛みとして感じられたり、痛みは消えてしびれだけが残るという状態もあります。

手のしびれの原因で多いのが手根管症候群です。手首のところで小指を除いた4本の指の神経が圧迫されて起こります。手術は比較的簡単で15分から20分で終わり、とても楽になります。治療が簡単で重要な疾患であり、診断そのものも明快です。思い当たる方は病院で診てもらうことをお薦めします。

ある患者さんの場合は下肢がしびれ、歯茎が痛み、足の力も入らなくなり、ある病院でギランバレー症候群と診断を受けました。ところが治療をしてもどんどん悪くなる。そこでわれわれのところに来たんですが、よくよく聞いてみると、非常に極端な偏食傾向から、ビタミンB1の不足による脚気(かっけ)神経痛であることが分かりました。かっけは手足がむくみ、心臓肥大、心不全になり命が危険になることもあります。明治期の国民病ですが、今でもまれにある症例です。

ビタミンB12の欠乏が指先のしびれを引き起こすこともあります。欠乏状態がひどくなると脊髄の障害を起こして歩けなくなり、頭もぼけて、視力も悪くなります。胃の切除手術をするとビタミンB12を吸収できなくなり、肝臓に貯蔵していた分も枯渇してしまい、10年から20年経って指先がしびれてくることもあります。ビタミンB12を点滴するとどんどん良くなりますが、大事なのはこれは簡単に治療できる病態ですから、われわれとしても見逃すわけにはいかないということです。

30代の女性のケースでは、何かをつかんだだけで飛び上がるほど指が痛む。しかし、一見すると何ともない。よくよく診ると爪の下に小さな良性腫瘍がありました。手術で痛みはなくなりました。

リウマチは手がこわばり、指の第2、3関節が腫れ上がって痛くなりますが、しびれを訴える方もかなりおります。一番末端の第一関節が膨れたり痛む人はリウマチではなくて加齢、あるいは手の使いすぎによる変形性の関節症です。まぎらわしい症状を見分けることが大事です。椎間板の手術をしても、しびれが改善されないというケースでは、脊髄炎が隠れていることもあります。過呼吸によるしびれという現象もあります。適切な診断が重要です。

帯状疱疹の後遺症で、痛みに苦しんでいる患者さんも多くいます。これは、赤ちゃんのときにかかる水痘のウィルスが原因でそのウィルスは体からなくならず、神経系に潜り込んでいて、体力がなくなったり、年をとったり、無理をしたりしたときに、神経を伝って増えて出てくるわけです。早期に見つけて抗ウィルス剤で治療すると、軽くて済みます。

 

手根管症候群(しゅこんかんしょうこうぐん)

 

末梢神経障害のひとつ. 手の骨と手掌の付け根にある靱帯に囲まれた手根管というトンネルの中を通る正中神経が慢性的な圧迫を受け, 正中神経の支配領域である親指, 人差し指, 中指と, 薬指の中指側にしびれ,痛み, 運動障害を起こす病気.40~60歳の女性に多く, 男女比は約7:3.手指を酷使して発症したり、慢性関節リウマチ,関節変形,妊娠,骨折や腫瘤による手根管の圧迫,血液透析によるアミロイドという物質の沈着などが原因.

 
 

 
 

手根管症候群のPhalenテスト

 

1分程度, 両手首を過度に屈曲することで, 正中神経が圧迫刺激されます. この位置でしびれが増強すれば陽性で, 手根管症候群の可能性が高い.

 

糖尿病性の神経障害

 

一番内科的に重要なのは、糖尿病性の神経障害です。これは通常手足の末梢のしびれから始まります。

脊髄から足先につながる神経は1メートル以上の長い1個の細胞なのですが、こうした一番長い神経から先にやられて、しびれたり痛んだりしてきます。手もそうです。糖尿病網膜症と同じように、糖尿病が比較的軽い状態の方でも起こります。

基本的な治療法は食事療法、運動療法、それから薬ですが、どうしても食事療法ができず痩せられない方がいて、足のしびれ、痛みがひどくなります。

顕微鏡でみると、糖尿病性の神経障害に陥ると、足の指先の神経が消失してしまいます。しっかり治療すると、神経が元に戻るのが観察されるようになります。神経が新しく再生してくるわけです。しかし、一気に治療すると、一時的に手足の痛みがひどくなるということもまれにあります。糖尿病の治療は、悪いほどゆっくりと時間をかけることも必要です。

痛みというのは、慢性になればなるほど一人歩きして大きく感じられるものです。腰痛の人の7割が鬱状態にあり、鬱の治療も必要になる場合があります。

痛みやしびれは長くなればなるほど心の問題もからんできて、難治性になるので、早いうちに解決することが求められます。

痛みは患者さんにとってはつらい症状なのだという医療サイドの理解が必要です。