新百合ヶ丘総合病院は、川崎市北部の小田急線沿線の救急医療を担い、産科施設の不足を補うことを使命として誕生しました。
地域のニーズでもある産科医療。産婦人科医や分娩施設数が減少の一途をたどるなか、安全で安心できる産科施設であることを第一に、浅田弘法先生ら産婦人科スタッフは、地元のクリニックや病院との連携を通して産科医療の充実に努めています。
すでにたくさんの新しい命が生まれ、元気な産声が聞こえる新百合ヶ丘総合病院に浅田先生を訪ね、産科・婦人科の特長について解説していただきました。

 

新百合ヶ丘総合病院 産科・婦人科の特長と診療体系

 

 私たちは、不妊治療から妊娠分娩の管理、そして婦人科良性・悪性腫瘍まで、総合的に対応できる診療体制を築いています。
さらに日本では導入が遅れている婦人科悪性疾患(子宮体がん・頸がん)への腹腔鏡下手術、ダヴィンチ手術の普及や、サイバーナイフ、陽子線などを使用した新しい治療にも積極的に取り組んでいく予定です。

 

1)妊娠希望の方に対しては総合病院であるメリットを最大限に生かした理想の不妊治療・生殖医療(リプロダクション)を

2)出産については安全・安心・満足のいく自然分娩・母乳育児を目指した母子医療を

3)婦人科疾患のうち腹腔鏡など内視鏡下手術の適応がある疾患に関しては、可能な限り低侵襲な方法で治療を行ってまいります。

新百合ヶ丘総合病院では、昨年8月1日の開院から、すでに婦人科腹腔鏡下手術を行ってきた。「腹腔鏡下手術を希望しても手術まで半年から1年待たされるのは当たり前」と言われる状況のなか、1000例~3000例という豊富な症例経験を持つ術者が複数名所属する産婦人科施設の誕生は、患者さんにとっての大きな希望ともなっている。

慶応大学医学部専任講師として婦人科腹腔鏡下手術に取り組み、現在は新百合ヶ丘総合病院で産婦人科部長を務める浅田弘法先生に、不妊治療から分娩、婦人科疾患にまで及ぶ幅広い診療科の中身と、腹腔鏡下手術の現状についてうかがった。

産科診療について

新百合ヶ丘総合病院は川崎市麻生区にありますが、この地域は分娩施設がないことが、地域医療の問題となっていました。

通常、その地域の赤ちゃんの70%程度以上の分娩は地域内で行われることが多いのですが、麻生区では、区内に分娩施設が全くないというやや特殊な地域でした。そのような背景もあり、安心してお産ができる施設が必要とされていました。

新百合ヶ丘総合病院は地域周産期センターのような、低出生体重児や合併症妊娠などに対応できる施設ではありませんが、母胎救急には対応し、早産などの問題がない患者さんはできる限り受け入れができるように、助産師さん、看護師さん、その他の医療スタッフとともに、病棟・外来の体制を作っているところです。地域で安心してお産をできる病院を目指しています。

不妊治療について

新百合ヶ丘総合病院では不妊治療部門として、リプロダクションセンターを設置しました。田島博人先生が不妊部門を統括しています。私は手術部門を統括し、お互いにある程度診療内容はオーバーラップしながら、取り組んでいます。

不妊部門の外来は産婦人科一般外来で行っていますが、採卵、胚移植などを行うリプロダクションセンターは6階の専用フロアにあり、患者さんは直通エレベーターを利用します。プライバシーを重視し、患者さんの気持ちをすこしでも和らげられるよう配慮した作りになっています。

体外受精の根幹を支える胚培養師は、とても優秀なかたに来ていただきました。設計から、医師2人と胚培養師1人のチームで協力してきましたので、卵子・精子の取り扱いや受精卵の培養、凍結などを行うユニットのクオリティは高く維持できています。体外受精の分野では、一般病院よりも、機能に特化したクリニックの方が診療レベルが高いことが多いのですが、この病院は体外受精専門クリニックレベルの培養室環境が整備されています。

当院の不妊部門の特徴は、病院としての機能を持つことが重要なポイントです。不妊診療の大多数がクリニックに移行している現状では、手術適応のある子宮、卵巣、卵管などに対して治療がなされずに、体外受精による治療を先行させることも起きてしまいます。体外受精を早めに施行することは、診療としては間違いではありませんが、外科的治療から体外受精まで対等な立場で判断できる新百合ヶ丘総合病院では、より適切な不妊診療を選択できるようになっています。

また、不妊治療をお受けになる患者さんの年齢層が高くなっていることもあり、検診などでは、卵巣腫瘍、子宮筋腫、子宮内膜症などを併発されている方も増えていますし、偶発的に子宮頚がんや子宮体がんが見つかることもありますので、そのような場合は、総合病院のメリットを生かした診療を行うことができます。

このように、新百合ヶ丘総合病院リプロダクションセンターでは不妊治療の選択肢も幅広く提示できますし、外科的治療が必要になった場合も、体の負担が比較的少ない、腹腔鏡・子宮鏡・卵管鏡とった内視鏡手術を高いレベルで施行することができるので、患者さんの立場に立った診療を提供することができる病院です。

腹腔鏡下手術の現状


田島博人先生による腹腔鏡下手術の様子
(浅田弘法先生とともに)

腹腔鏡下手術の分野では、最近10年ほどで急速に診療機器の性能と精度が高くなりました。特に、CCDという腹腔内を観察するカメラの解像度は驚くべき進歩で、テレビのハイビジョン化とともに高画質が当たり前になっています。これにともない、腹腔鏡によって治療を行う疾患の適応範囲も広がってきました。はじめは卵巣腫瘍や子宮筋腫などの良性疾患が腹腔鏡下手術の治療対象でしたが、1990年代より悪性腫瘍にも腹腔鏡が使用され始め、現在では子宮体がんや子宮頚がんの腹腔鏡による治療も一部の施設で開始されるに至っています。

産婦人科領域でエヴィデンスをもって腹腔鏡下手術の有位性が示されている疾患は卵巣嚢(のう)腫です。また、子宮筋腫なども腹腔鏡下手術の対象になり、現在行われている術式は、卵巣嚢腫切除術、付属器切除術、子宮全摘術、子宮筋腫核出術、子宮内膜症病巣切除術などと多岐にわたっています。

当院でもこのような術式が施行可能です。2012年の8月の開院当初より、婦人科の外科的治療の中心が腹腔鏡となり、2013年2月以降は月間約30件~40件ほどの内視鏡手術(腹腔鏡下手術、子宮鏡下手術、卵管鏡下卵管形成術)が施行されるようになってきました。当院で開腹手術になるのは、かなり大きな子宮筋腫、子宮肉腫疑いの子宮腫瘍、卵巣がんなどの、比較的限られた疾患です。新百合ヶ丘総合病院産婦人科では、外科的治療の97%程度は腹腔鏡下手術となっています。

悪性疾患に関する腹腔鏡下手術は、外科や泌尿器科ではすでに保険適応になっていますが、婦人科領域ではまだです。しかし、海外での子宮体がんに関する報告では、腹腔鏡と開腹手術を比較検討し、腹腔鏡は手術時間は延長するものの、再発率などはかわらず、出血量が少ないこと、社会復帰が早いこと、術後合併症が少ないことなどが指摘されています。

国内でも子宮体がんに対する腹腔鏡下手術は、20施設以上で先進医療が開始されていますので、当院でも腹腔鏡による子宮体がんの治療を開始しました。子宮体がんに対する先進医療の取得を行うために、現在、申請の準備をしているところです。また、子宮頚がんに対しても、適応範囲は限っていますが、腹腔鏡下の治療を開始しました。

悪性疾患に関しては、婦人科では自費となっていますが、近い将来保険適応となることが見込まれていますし、何より患者さんへの負担を減らす治療法として、当院では選択肢として提示できるようにしています。


婦人科腫瘍の診断と治療

腫瘍の診断は、画像診断と病理診断が基本になっています。近年ことに画像診断の精度が向上してきました。MRI、CTによる診断のみならずPET–CTは、腫瘍の転移巣の検出に大きな力を発揮しています。当院では、CT、MRI、PET–CT、SPECTのすべてを備えています。院内でこのような検査ができる環境により、腫瘍の診断・再発転移巣の検査をより早い段階で、迅速に行うことができるようになりました。

今後、婦人科悪性腫瘍に対する治療の方向性として、センチネルリンパ節の導入が注目されています。センチネルリンパ節の考え方は、悪性黒色腫や乳がんなどから導入され始めました。婦人科領域ではまだまだ研究段階ですが、子宮体がん・子宮頚がんの治療の場面でも、はじめに転移しやすいリンパ節(センチネルリンパ節)の検出が可能になるかもしれません。こうした診療は、最低限のリンパ節摘出に手術をとどめるための治療なのですが、新百合ヶ丘総合病院では、SPECTとPET–CTを備え、また、腹腔鏡下手術の環境も整備されているため、いつでも導入が可能な環境となっています。

南東北病院グループは、陽子線治療やサイバーナイフ治療などを備えていますが、これらの治療機器は悪性疾患への低侵襲治療機器としての機能を備えています。悪性疾患の治療は、患者さんのQOLを考慮することがとても大事だと考えています。

新百合ヶ丘総合病院では、低侵襲手術の技術と、サイバーナイフなどを活かして、患者さんのQOLをいかに維持するか、工夫しながら診療を行っていきたいと考えています。

腹腔鏡センターを目指して

腹腔鏡下手術の首都圏での現状は、病院によって違いますが、半年~1年まで手術を待っている患者さんもいらっしゃる状況です。手術適応がある患者さんが1年近くお待ちになるのはあまり好ましい状況ではありません。

この病院ができる前から、私は『病院の垣根を越えて連携し、より適切な時期に質の高い腹腔鏡下手術を患者さんに提供しよう』と考え、「婦人科腹腔鏡下手術連携グループ」に参加しています。この病院でも手術をお手伝いいただいている、木(こ)挽(びき)貢慈先生と相談して発足したグループで、当院の田島先生も構成メンバーのお一人です。

質の高い手術をある程度の迅速性をもって提供するには、人材の充実と機器の整備、および、複数の病院との連携が必須です。新百合ヶ丘総合病院は、複数の病院やクリニックとの連携の中で、多くの患者さんを受け入れられる施設にして、将来的には、年間600~1000件程度まで内視鏡症例を増加させることにより、患者さんの待ち時間が減少し、指導医の技術維持と若手医師のスキルアップを行える「腹腔鏡センター」にしていきたいと考えています。

腹腔鏡下手術は高画質化と機器の精度向上により、高度な技術を多くの医師で共有できるようになり、内視鏡手術が得意な疾患も明確になってきました。手術適応に関しては、以前から議論にはなっていますが、私たちは、婦人科疾患で腹腔鏡下手術のメリットが活かせる疾患は、子宮内膜症と初期の悪性疾患(子宮頚がん・子宮体がん)ではないかと考えています。

新百合ヶ丘総合病院では、従来より腹腔鏡下手術の適応を拡大し、重症子宮内膜症、子宮頚がん、子宮体がんなどの病気をお持ちの患者さんにも、適応に応じて腹腔鏡下手術も選択肢として提示させていただいています。安全面と先進性を同時に活かすことはとても難しいところもありますが、患者さんのQOLをよりよく維持する治療方針は何かというところに立ち返って診療を提供していきたいと考えています。

ロボット手術システム ダヴィンチ(da Vinci)(左)
  腹腔鏡下手術イメージ図(右)

そのため、当院では先進医療機器の導入とともに、いわゆるセンター方式を導入し、各科の専門性を最大限にいかしながら、診療科

不妊治療 プライバシーを重視したクオリティの高い生殖医療を

「赤ちゃんが欲しくてもなかなかできない」「病院にいって検査した方がいいかもしれないけれどなかなか勇気が出ない」「何度か不妊治療にトライしたけれど結果が得られない」。このように不妊で悩む夫婦は年々増え続けており、その割合は6組に1組とも言われております。新百合ヶ丘総合病院はそんな悩みをお持ちの方々の力になることを社会的使命と考え、総合的に不妊治療を行うことができるリプロダクションセンターを設立いたしました。

治療に精通した医師によってプログラムされ、熟練した胚培養士によって最高の環境のもとで行われる体外受精、顕微授精(高度生殖医療)はわれわれリプロダクションセンターの核となっております。

生殖医療専門医、内視鏡学会技術認定医が複数在籍し、他科との連携や夜間・救急・入院機能を備えた総合病院ならではの多くのメリットを活かし、排卵誘発・採卵・胚培養・胚移植技術、そして内視鏡技術を駆使した理想の不妊治療を行うとともに、患者さんそれぞれに最も適した治療、心の通った丁寧な診療をスタッフ一同実践していきます。


体外受精・顕微授精

1978年に体外受精が初めて成功してから数十年、技術の進歩により沢山の手技や多くの機器及び培養液が開発されてきましたが、今日の技術革新のなか、私たちは出来る限り患者様の胚にとって良いと考えられる技術・機材・培養液・システムを採用しております。

胚の詳しい説明は培養士が担当しています。外来では時間がなくてなかなか聞けないことや、普段疑問に思っていることを聞いていただき、なるべく患者様の不安や疑問を解消できれば幸いです。


【尖閣国有化後初めての学術会議】

尖閣諸島問題が発生して以来はじめての学術会議が1月13日に北京市の中国人民対外友好協会で中国の一流の病院の医師約100名が出席して開催されました。

総合南東北病院と中国対外友好合作服務中心が共催、中国人民対外友好協会・日本大使館の後援で開催されたシンポジウムでは、冒頭に中国対外友好合作服務協会の張聚祥部長が歓迎の挨拶を述べたあと、南東北病院グループの理事長・総長渡邉一夫博士が「陽子線・中性子線を用いた新時代の癌治療」と題した基調講演を行いました。

引き続き獨協大学医学部・大学病院放射線治療センター長村上昌雄教授が「体幹部腫瘍に対する粒子線(陽子線・炭素イオン線)治療」、最後に南東北病院の口腔がん治療センター長・BNCT準備室長・国際部長の瀬戸皖一先生が「中国との医療連携を求めて」と題して講演されました。各先生方の講演のあとには専門的な質疑応答が活発に行われ陽子線を中心にがん治療に取り組んでいる南東北病院に強い関心を寄せていました。

高齢化が進みはじめた中国では年300万人の方ががんで亡くなっており、その数も年々増加しています。

中国の病院と南東北病院が医療連携を結び陽子線を中心に化学療法、外科手術を組合せ国境を越えて患者さんに最良な治療が提供されることが期待されます。

なお当日は人民日報、日本経済新聞、共同通信社なども取材にみえ、ジャーナリストの方も強い関心を寄せていました。