広報誌 南東北

 

世界初のがん治療 ―正常細胞傷つけずがんだけ破壊 病院で初のホウ素中性子捕捉療法―

来年早々にも治験を開始 脳腫瘍・頭頸部・前立腺がんなどに効力

 総合南東北病院が毎月開催している医学健康講座が平成27年度もスタート。1回目は4月24日⑥午後2時から同病院北棟1階で恒例により渡邉一夫理事長(脳神経外科)が「世界初のガン治療」と題して講演しました。昨年秋に施設が完成し現在テスト中のBNCT(ホウ素中性子捕捉療法)のことですが、講演の内容を要約して紹介します。
 がんの治療は大きく分け3つの柱があります。がんの塊を手術で取り除く外科治療、薬や抗がん剤などの化学療法、そして放射線療法です。がんの多くは塊、血液はドロドロ。痛くも痒くも、冷たくも熱くもない。痛くなったり血を吐いたり、喉が通らなくなるのは塊が大きくなり、症状が悪化してからです。それだけ見つかりにくい。塊が1~3個なら手術でその部分を取ればいいが、10個以上もでは転移している証拠で外科治療にも限界があります。1個、それも1㎝以下のうちに見つけて塊を取り除くのが理想です。
 がんは細胞の突然変異。特に高齢になると起きやすくなります。現代は2人に1人ががんになる時代です。でも5割が助かるようになってきました。両親や祖父母が、がんで亡くなった家系の人は胃、皮膚、大腸などいろんながんになりやすい。安心・安全のためにも人間ドックやがん検診を受けるべきです。当院では1日に70~80人が胃や食道、大腸などの検査を受けているが、毎日1~2人はがんが見つかります。その大半が自覚症状なし。それも早期がんだけではなく3分の1から半分が進行がんです。
 薬などの化学療法は、転移が多く手術で取り除くことができない場合、抗がん剤や分子標的療法などを行います。分子標的薬はがん細胞の種類によりそのがんにだけ効く薬とか、副作用が少ない薬などもあります。血液のがんの白血病では、移植や血液を入れ替えて薬でたたく方法もある。子供の急性白血病はかなり治るようになってきました。
 ほかに本来体が持っている免疫力を最大限活かしてがん治療に役立てる免疫療法もあります。採血した自分の血から丈夫な血液だけを数百万倍に増殖、点滴して体内に戻す療法だが、自費のうえ効果も100%とはいえません。
 3大がん治療の中で放射線治療は、場所によっては火傷したり潰瘍になったりするが、切らずに済むし痛くもありません。ただX線やアルファー線、ベータ線、ガンマー線などは体を突き抜けます。その放射線の中で陽子線や粒子線は強い照射でもある深さで止まり、その先には突き抜けません。高齢者にも優しい放射線です。当院には日本の民間病院で初めて設置した陽子線治療センターのほか、総額約68億円(県補助43億円)を投じた「世界初のガン治療」ができるBNCT(ホウ素中性子捕捉療法)研究センターが昨年9月に完成し、現在テスト中です。サイクロトロンという加速器を使って再発・進行がんを治療する装置です。増殖力が強いがん細胞にホウ素化合物を取り込ませて中性子線を低エネルギーで照射するとホウ素と中性子が反応し細胞を壊す強い働きがあるアルファー線を出します。9㍈ぐらいしか飛ばないので正常細胞を傷つけずに、そのがん細胞だけを破壊します。
 中性子の発生源はこれまで原子炉でしかできませんでしたが、BNCTでは陽子線を加速器で光の速さの約25%に加速して飛ばし、ベリリウムの金属に当てると発生する中性子線を病巣に照射して治療します。どんながんに効くかというと脳腫瘍や頭頸部・皮膚・肺がんなどです。
 東電の原発事故で低線量被ばくに伴う健康被害について十分解明されていない中、県民は将来の不安を感じながら生活しています。その状況の中で難治性、再発がんにも有効なBNCTを病院として世界初の実用化を図ることは県民の不安解消、世界のがん患者に対する朗報として期待されています。早ければ来年早々にも第二段階の治験を開始、それにパスして早く治療を始めたいと思っています。


トップページへ戻る