広報誌 南東北

 

泌尿器系のがん 発見・治療と予防策

まず禁煙、高脂肪食生活の改善 こまめに健診・検尿で体調管理

 食生活や生活様式が欧米化したためか日本でも近年、泌尿器系のがんが前立腺がんを中心に増えています。10月17日㈭に総合南東北病院で開かれた医学健康講座で同病院の橋本樹腎・泌尿器センター長が「泌尿器系がんの発見・治療と予防策」と題して講演した内容を要約し腎臓や膀胱、前立腺がんなどの知識を学び、予防策を考えます。
 泌尿器系がんは腎・腎盂尿管・膀胱・前立腺がんを中心に陰茎・精巣・副腎がんなどが稀にある。腎臓はあばら骨の一番下の裏側にあり、腎臓から約30㌢の尿管、膀胱を通って尿が排出される。男性には膀胱の前に精液をつくる前立腺があるが、加齢によって“悪さ”をする厄介な臓器だ。
 泌尿器系がんを早く見つけるには尿検査と採血で分かる腫瘍マーカーが手軽。さらに詳しく調べるには腹部超音波やCT・PETを含むレントゲン検査、内視鏡検査がある。超音波は少しくすぐったい感じ。従来の膀胱鏡は尿道からカメラを入れるので痛いが、最近は細いファイバーの軟性膀胱鏡もある。腎がんはそんなに多くないが、腹部エコー検査で1~2㌢のがんは見つけられるしCTなら確実。前立腺がんは腫瘍マーカーのPSA検査で早期発見できる。
 でも膀胱がんの早期発見は難しい。膀胱鏡で調べないと分からない。エコーや血液検査のように手軽でなく簡単に発見できない。福島県内の泌尿器科医師が100人超しかいないのも早く発見できない要因の一つかもしれない。尿管がんもそうだ。腎臓がんや前立腺がんは、初期には全く自覚症状がないのでエコーやPSA検査以外に早く見つけるのはなかなか難しい。
 血尿、特に症状を伴わない肉眼的血尿は、がんを疑う症状で腎がん、腎盂尿管がん、膀胱がんの場合が多い。腹痛や排尿痛などを伴う血尿はむしろ膀胱炎や尿路結石などが多い。普通尿は黄色かオレンジ色がかっているが、わずかな血でも赤くなるので濃淡にかかわらず注意すべきだ。もう一つは腫瘍マーカー。市町村の検診でPSA検査すれば前立腺がんを早く見つけられるが、死亡率を下げられるかどうか日本にはまだ科学的データがない。10年ほど前、スイスのチロル地方で20年間続けたPSA検診が前立腺がん発見に有効で死亡率も下がったと発表されている。しかしPSA検査は金もかかるため議論はある。本県では数年前から田村市や塙町、矢祭町などがPSA検診を始めている。郡山市は遅れており最近ようやく導入の動きが出てきたところだ。ただPSA値が4~10だと20~30%は前立腺がんと分かり早期発見に有用なマーカーであることは確かだ。
 早期発見にPETはどうか。当院は他に先駆けPETを導入してがんの発見に威力を見せているが、残念ながら泌尿器系は尿が邪魔をして見つけにくい。ただ他への転移や広がり状況の診断には効果的で使う薬が変われば発見の可能性もある。人間ドックを受ける時はPSA検査や腹部超音波が検査項目にあるかどうかチェックした方がいい。
PSA検査による早期発見で前立腺がん患者は、がんの中で最も増えている。治療は早期で転移がない場合は前立腺全摘出術の根治手術、IMRT・陽子線などによる放射線治療を行う。陽子線は効果的だ。進行がんで転移ある時は薬剤治療が中心。骨に転移があれば手術せず男性ホルモン遮断治療や抗がん剤で治療するが、前立腺がんはおとなしく長生きできるがんだ。
 膀胱がんは早期だと内視鏡手術で切除、薬剤注入治療できるが再発しやすい。進行がんは全摘出術と尿路変更術、放射線や抗がん剤などを組み合わせ治療する。腎がんは手術と薬物治療があるが、早期なら腹腔鏡下腎摘出術が主流。薬物治療では分子標的薬やインターフェロンなどがある。
 父親や兄弟が前立腺がん患者の場合、罹患の危険率は2倍。2人以上なら5~11倍といわれる。白人に多い動物性脂肪食生活を日本人がするとやはり前立腺がんの危険性がある。予防として豆や穀物の摂取に心がけるとともに動物性脂肪が多い洋風の食事は控え、牛乳・砂糖・脂の取り過ぎに注意が必要だ。
 膀胱がん(腎盂尿管がん)の危険因子は喫煙、油で揚げた肉や脂肪の多い食事など。予防としてまずたばこを止めて高脂肪食生活を改善。ゴムやある種の染料、繊維、整髪剤などを扱う職業の人は定期的な検査はじめ毎年の検診で必ず検尿することだ。腎がんの場合も膀胱がんと同じで禁煙、高脂肪食をやめること。とにかく定期的な検診、検尿を受け、こまめに調べてよく体調管理することが大切だ。


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